メディア研究などを行っている大学のゼミを訪問するこのコーナー。今回は熊本大学の江川良裕ゼミです。
DATA | |
---|---|
設立 | 2005年 |
学生数 | 3年生7人、4年生3人 |
OB/OGの主な就職先 | 大林組、京セラコミュニケーションシステム、NTT西日本、NTTドコモ、西日本鉄道、楽天グループ、NECソリューションイノベータ、富士通、日本電気、三菱電機、ワークスアプリケーションズ、博報堂 |
熊本大学 文学部コミュニケーション情報学科で教鞭を執る江川良裕准教授は、主に経営学分野とテクノロジー・メディアに関する領域を専門とする。
地元百貨店と共同プロジェクト
ゼミでは地域活性化などに関するマーケティングや戦略分析、およびマスメディアやネット・メディアの分析・研究を中心に、卒業論文の執筆をゴールに進める。また、その他にも地域の企業やコミュニティと連携したプロジェクト活動なども並行して行っている。
「研究が個人ワークになりがちなため、学生が協働して行える活動として、地元の百貨店と連携しそのお店のファンづくりを行うプロモーション活動を10年以上行ってきました(コロナ禍で2020年は中止)。立ち上げ当初については教員がリードしますが、活動自体のマネジメントはできるだけ学生主体で進めてもらうようにしています」。
ここ数年間は、未就学児向けに有名な童話を英語化して「読み聞かせ」+「ゲーム」といった内容のイベントを百貨店で実施。物語の選定・英語化のほか、地元イラストレーターへの紙芝居風のイラストの発注、告知広告と参加者募集事務、リハーサルなどを経て、実際のイベント実施、その後は活動結果のウェブへの掲載、といった業務フローを、学生が主体となって3カ月程度でこなしていく。
「すべて学生主導で動かしていくため、この活動は、就職活動での面接などでも『会社みたいなことやっているね』などと、経験が評価されているようです」。
地域ブランド強化を経験
また、2017年秋から18年春にかけては、地域の特産品を支援するコンテスト「九州地域ブランド総選挙」(主催:九州経済産業局及び特許庁)に参加。小国町の「小国杉」と、天草市の「天草黒牛」のプロモーション施策を考えるというものだ。学生を2チームに編成しそれぞれの担当ブランドを決め、ブランド・ストーリーとビジネス・プランを作成。Instagram上でブランドをプロモーションするところまでの施策を設計した。
「プラン作成にあたり、関係者に取材を実施。地域の特産品は背後の色々な人に支えられており、彼らのクリエイティビティと努力を学生に見せられたことが最大の収穫になりました。学生なりに企画を考え、地域の人に助けられながら、地域ブランドを強化することに悩み、足を使って材料を集めて設計していきました。惜しくも最優秀賞は逃したものの、『ベストブランドストーリー賞』を小国杉チームが受賞することができました」。
クリエイティビティが仕事を変える
これらの活動を通じて、江川准教授が学んでほしいこと。それは、社会人になって通用する、汎用的な思考力、学ぶ力、他人と協働する力だという。
「学生に教えていて気になるのは、これといった不平・不満をもたず、反抗や変革を目指す若者らしい熱量が少ないということ。彼らにとって、社会人になって働くことは、アルバイトの作業と同じような“苦行”に映るようです。仕事が苦行になるかどうかは、自分のクリエイティビティ、つまり思考力・学習力・協働力、によって決まるのだと気づいてほしい。地元百貨店など地域とのプロジェクトで実際ビジネスの企画の場を経験することはもちろん、研究(卒業論文の執筆)でも、解決可能な問い(課題)を発見し、研究手法を設計、データを収集・分析したうえで、自分の主張を伝えるドキュメントを作成という“自分だけ”のプロジェクト運営を通じて、学生にはクリエイティビティを身につけてもらいたいと考えています」。
広告や広報は一種のインストラクション
江川准教授は、元々富士通総研のコンサルタントに従事。その時、慶應義塾大学でネットでの流通ビジネスやコミュニティ・マーケティングに関する授業を非常勤講師として担当したことがきっかけで、大学教員への道に踏み入れた。「良い意味でガツガツしている学生が多く、こういった学生を育てることを大げさに言えば使命のように感じました。その後、熊本大学 文学部で、社会的な課題を学問横断的に扱う新学科を設立するということで、教員募集に応募しました」。
大学院では他の文系の教員・研究者とは異なり、教育工学分野の組織に属している江川准教授。「コミュニケーションの多くはインストラクション(教育)であり、メディアやテクノロジーを通じて提供されるものだからです。広告や広報も一種のインストラクションと位置づけることができます。明確な教育の形態を採らずに、人間の態度変容を促す行動経済学に最近は興味を広げています」。