広子と東堂はIR担当として、忙しくも刺激的な日々を送っている。非財務情報の開示に注目が集まる中、上司から人的資本について情報収集するよう指示を受けた2人。大森さんに相談している。

広子・東堂:こんばんは。
大森:こんばんは。今日は何について話そうかな。
東堂:最近、人的資本の開示に関する注目度が上がっている、と聞きました。部長からも情報収集してきてほしい、と言われてまして。
大森:人的資本ね。御社ではどう定義づけているの?
広子:えっ、当社では⋯⋯特に定義ではないですが、「人材」という意味では、社長はよく会社の財産だと表現しますね。
大森:なるほど。そうだね、間違いではないけれど、どちらかというと資産としての考え方かな。
広子:資産ですか。確かに資産と資本、あまり区別して意識していませんでした。
大森:資本と資産の違いは後ほど整理するとして⋯⋯教育研修など、従業員に対し行った組織活動から得た付加価値のことを指す「人的資本」が、注目されている背景をざっくり整理しましょう。
広子:はい、お願いします。
人的資本への注目の背景
大森:まず、国際標準化機構(ISO)が「人的資本の情報開示のためのガイドライン」を発表したことかな。これを受けてアメリカにおいて、米国証券取引委員会(SEC)が、上場企業に対して人的資本の情報開示を義務化したことがあげられるね。国内でも経産省が「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会報告書(通称「人材版伊藤レポート」)を公表した。それらを受けた、コーポレートガバナンス・コードの改定で、人的資本への投資などについて言及されたんだ。
具体的には中核人材の登用、人材戦略(育成や社内環境の整備)の方針と実施状況の開示、人的資本への経営資源の配分などだね。詳しくはレポートを読んで確認しておこう。
広子:なるほど、世界的なトレンドでもあるのか!最近の話なんですかね。
大森:そうでもあり、そうでもない。
広子:えっ?
大森:昔から企業運営の三要素として「ヒト、モノ、カネ」と言われているしね。コーポレートガバナンス・コードも含めて、非財務情報の開示の充実はテーマとしてずっと進行している。知的資本や人的資本は非財務情報の中核的な存在といえるよね。
東堂:非財務情報の重要性が増している...