「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。
広報活動において著名人、インフルエンサーを起用するには
経営者から自社のコミュニケーション活動で「著名人」を起用したいと相談を受けることは多い。実際、著名人を活用した企業コミュニケーションは、大企業から中小企業、NPOなどの非営利団体においても、特に珍しいことではない。だが、「著名人」にもアイドルグループやミュージシャンなどタレント業の方から、作家、大学教授、医師など文化人領域の方まで幅広い。また、いわゆるこれまでの「著名人」とは異なる「インフルエンサー」と関係構築を行いたいという企業からの要望も増えてきた。
今回は、こうした広報活動における「著名人」「インフルエンサー」の起用に関する企画書について整理したい。
視点1
意外と難しい「起用の目的」の明確化
話が膨らみやすい、著名人の絡んだ企画
企画書を作成する前に重要なのは、著名人を起用する目的の整理だ。最初は「新商品の記者発表にタレントに出演してもらう」という話だったが、次第に「ご本人のSNSでも自社商品を紹介してもらいたい」「入社式にも来てもらい、新入社員に向けた挨拶をしてもらいたい」「CSR活動のPRにも協力してもらいたい」などと著名人に絡んだ企画は「あれもこれも」と後から話が膨らんでいきやすい。
また(例えば)創業者や会長など、日常業務では「雲の上」の存在の方たちから、急に「あのタレントをイメージキャラクターに起用したらどうか?」とピンポイントで「結論」だけが飛んできたりもする。
「著名人」を広報活動に起用する上で一番気をつけたいのは、こうした本来は「企画書」の立案段階で精査されたはずの戦略が、後から骨抜きになりがちなことだ。広報担当者が企画書を書く上で、まずはこの点に注意しつつ、常に本来の「目的」は何かに立ち返り整理していかなくてはならない。
図1「著名人の起用」の目的と関連部署の例
●「広告」にタレントを起用したい
⋯主にマーケティング部・宣伝部
●新商品の「プレスイベント」に出演してもらいたい
⋯広報部・販促部
●パッケージや広告を有名クリエーターにつくってもらいたい
⋯マーケティング部・宣伝部
●商品の「共同開発」(プロデュース)を委託したい
⋯商品企画部・マーケティング部
●「社会貢献活動」(CSR)に協力してほしい
⋯CSR部・広報部
●「SNS・動画サイト」で商品を取り上げてほしい
⋯広報部・販促部
●自社商品を利用して「メディア出演」してほしい
⋯広報部・販促部
●社長と対談してもらいステークホルダー(社員・株主等)に公開したい
⋯人事総務部・広報部・社長室
●販売店やFCオーナーへの講演を行ってほしい
⋯営業部・販促部
著名人を起用するメリット
「著名人の起用」においては、経営者や広報担当者の間でも施策としての意見で是非は分かれる。私は著名人の知名度や人気に頼らないで済むものであれば、ムリに起用することはないと考えている。
一方でパブリシティ獲得の視点から、ここは著名人を起用しない限り全国メディアでの露出は厳しいだろうと、選択肢のひとつとして起用を考えることも多くある。また、マーケティング戦略上のブランド差別化や商品の想起率向上などの視点から、現在のこの企業の置かれた状況では著名人の起用がコスパ上も最適だと判断するケースでは、短期・長期にかかわらず積極的に起用を勧めたこともある。
一般的には、提供する商品・サービスが「横並び」で製品スペックだけでの差別化が難しく、市場内の競争も激しい場合、また各社のシェアが横並びの場合などは「“あの”著名人を起用している会社(商品)」と早く・広く知ってもらうことで競争上の優位に立てることがある。
図2 著名人起用をおすすめする場合
●単発イベントなどでパブリシティ獲得が重要
●コンシューマー参加型企画での募集(応募)促進のため
●商品差別化が難しい(説明が難しい)商品・サービスの訴求
●単価の高い商材を扱い「信頼度」が重要な場合
●企業イメージに合う著名人の起用によるイメージアップ
●オウンドメディアのコンテンツ強化と話題づくり
●競合他社との競争が激しい市場環境
●著名人による商品企画・開発への参加・協力による話題づくり
●著名人のライフワーク(社会貢献活動等)と自社ブランドの親和性が高い
●業態転換や新規事業等のインパクト(想起率)獲得のため
図3 著名人起用をおすすめしない場合
●著名人のプライベートの話題に乗るためだけに起用
(例 スキャンダルや炎上ネタなど)
●他社が類似した著名人の起用をすでにしている場合
(例 競合企業がアイドルを起用したので、うちもアイドルを起用したい等)
●企業イメージ(企業戦略)と合わない著名人を起用すること
(例 堅実な社風の企業が毒舌タレントを起用する)
●業務上の理由(関係性)の弱い著名人の起用
(例 社長の知り合いだから)
●すでに企業や商品の認知度や信頼度は高く、著名人起用に意味がない場合
「契約にないこと」で混乱は起こる
著名人の起用で一番話がややこしくなるのは、この「企画書(契約書)になかった話」が後から色々と生じて出てきた時だ。
企画書内では起用の「目的」を事前にしっかりと言語化しておくことで、契約書の内容にもブレのない形で反映させ、事前に相手サイドと擦り合わせることができる。また、契約時には双方の理解に齟齬がないかよく確認することで、大きなトラブルを未然に防ぐことに役立つ。
図4 著名人の起用時に混乱が生じる例
●販促(広告)活動への協力と広報活動(企業ブランドへの協力)の混同
(例 広告出演を依頼した著名人にプレスイベント出演も依頼する)
●企業広報への協力と販促(広告)活動との混同
(例 企業広報として社長との対談に出演してもらうことと、文化人の著作物にサインをしてもらい販促キャンペーンに活用することは別)
●社外向け(アウター)広報への協力と社内(インターナル)広報の混同
(例 商品発表会にゲスト出演した著名人に、新入社員の内定式向けコメントを依頼して新たに動画収録する場合は別の交渉(契約)が必要)
●自社提供の「番組」「イベント」への出演と自社の販促や広報活動との混同
(例 自社が一社提供を行った「番組」「ライブイベント」などでの出演シーン写真を自社商品の販促や広報活動に使用する際には別の交渉(契約)が必要)
●自社の主催するイベントへの著名人の出演と、著名人のSNSでの情報発信との混同
(例 主催イベントの出演者に本人のSNSで当日の模様を投稿してもらうには別の交渉(契約)が必要)
図5 企画書内に書くべき具体的な依頼内容の例
CSR活動への協力依頼の場合
●自社のCSR活動に関係したイベント出演(例 食育啓蒙イベント)
●イベント告知のため宣材(アーティスト写真・プロフィール)の使用
●イベント当日のメディア取材への対応(個別取材を受けるかは個別に相談)
●オフィシャル写真をイベント後に記事広告や社内報や採用広報で使用
●イベント当日の動画を自社サイトや自社のSNSアカウントで拡散
商品プロモーションへの協力依頼
●商品発表会(記者会見)への出席
●発表会終了後の「囲み」取材に対応
●会見中の動画の撮影、自社サイト等で公開
●スチール写真の撮影、自社サイトやSNSでの使用
●著名人自身のSNS等での紹介
●直筆サイン入りの自社商品を活用した販促キャンペーンへの協力
競合排除のルールは適用か確認する
ここで「広報担当者」として気をつけたいことがある。慣習上、著名人(タレント)側が重視するのはテレビCMなどのマスメディア広告への「出稿=広告」の契約だ。広告契約は通常1年単位で結ばれることが多い。また、契約期間中は競合他社(商品)への広告関連の出演を行わないなど包括的(排他的)となることが想定される。
一方、広報担当者が担当することの多い「イベント」(プレスイベントや消費者イベント)は一日だけのゲストとして出演してもらうことが多いが、イベント出演の場合は「競合排除」の適応は行わないケースも多い。この企画(契約)は「広告契約(年間)」なのか、そうではないのか。「競合排除」のルールが適用となるか、ならないのかを明確にしておく必要がある。
拘束時間を明記する
著名人への出演依頼にあたり、企画書作成上のポイントが2つある。ひとつ目は「拘束時間」だ。
依頼する側にとっては著名人を活用することは「特別な機会」となるが、著名人にとっては毎日の活動のひとつであることは意識しておきたい。そして、一度出演のOKが決まると著名人側から出演のキャンセルを行うことは、病気、事故等、特別な事情を除いては基本的にない。影響力の大きい著名人であればあるほど、出演の依頼をした後も中々調整がつかずスケジュールが確定しないこともある。前後のスケジュールに不確定要素が高いと相手も即断できないのだ。
従って、著名人を起用する企画書では、事前に自社サイドで重要な事項は確定させた上で、一度、著名人の出演が決定したら日時の変更などは原則としてできないと考えたい。