リモートワークが常態化する中、改めて注目が集まる従業員エンゲージメント。その向上のため、広報部門はどのようなコミュニケーション施策を実施できるでしょうか。「従業員エンゲージメント向上プロジェクト」第4回では、13社の広報担当者と専門家が集まり意見交換を行いました。
従業員エンゲージメント
自分が所属する組織と、自分の仕事に、熱意を持って自発的に貢献しようとする従業員の意欲のこと。
▶会社の業績との相関が高い
▶組織と個人の間の関係性を規定するもの。会社が向かいたい方向に従業員が共感すると、自発的に貢献しようという意欲を引き出せる
従業員エンゲージメント向上プロジェクト第4回は、アドビ、エン・ジャパン、カルビー、ぐるなび、GMOペパボ、スープストックトーキョー、スクウェア・エニックス、セコム、東急建設、ハピネット、ファクトリージャパングループ、堀場製作所、ユナイテッド(五十音順)の広報関連部門の担当者が集まり議論。またボードメンバーとして、メッセージの共感度を可視化する「共感モニタリングサービス」を提供する日立製作所と、ブランディング支援を行うクリエイティブエージェンシーのCINRAが参加しました。
メッセージへの共感度を可視化
従業員一人ひとりの判断や行動の積み重ねで、組織文化は形成されていきます。働く個人にはそれぞれの価値観や目的意識がありますから、組織が一方的に新しいビジョンを打ち出しても、それが腹落ちできなければ行動にはつながりません。組織からの発信と、個人の共感にギャップが生じていないか。広報部門でそのギャップを把握し、従業員エンゲージメントを高めるメッセージの打ち出し方を改善していきたいところです。
では、いかにしてギャップを把握すればいいのでしょうか。共感度合いを可視化・分析するサービス「共感モニタリング」を、一橋大学大学院の阿久津研究室と開発している、日立製作所アプリケーションサービス事業部の木村誠氏に解説してもらいました。
木村氏によれば、拾い上げにくいけれども重要なのが「エンゲージメントが低く、声が小さい従業員からの率直な(ネガティブな内容も含む)意見」です。これが課題を浮き彫りにし、次なる打ち手につながると言います。
率直で具体的な意見を収集するために、鍵となるのが「回答する人の心理的安全性を保ちつつ、できる限り素早く意見を吸い上げること」。❶テキストメッセージ(理念・ビジョン・事業戦略・社長メッセージなど)を社員に発信するシーン ❷オンラインイベントで発信するシーンにおいて、共感度を可視化する方法を見ていきましょう。
❶テキストメッセージの共感
「共感モニタリング」では、メッセージで気になる部分をマーキングし、どう感じたかを書き込んでもらい、その反応を収集します(図1)。
「反応を見ると発信側が“こう受け取ってほしい”と考えている箇所と、読み手側の受け止めとの差異を見ることができます。すると、『想定外』の反応にも気づきやすくなります。例えば、新方針に対する反応をモニタリングし『具体的な道筋をイメージできない』といったネガティブな反応が集まった箇所があったとしましょう。その場合は、社長が思いを語るインタビュー記事を追加して発信するといった打ち手が考えられます。また、自分の感情を意識しながらメッセージを読み込むという、モニタリングの行為自体が、メッセージの自分ごと化を促進します。ですので、企業理念などの文言を、従業員を巻き込みながら決めていく際にも、共感モニタリングは有効です。こうした重要なメッセージについては、“読み込んで意見を書き込む機会”を、社内イベントとして設けることもおすすめです」。
❷オンラインイベントでの共感
オンラインイベントでのプレゼンに対し、聞き手の反応をリアルタイムで把握するために「共感モニタリング」では、「いいね!」「なるほど!」「分からない」といった感情を表すボタンを押せるツールを用いています(図2)。
「プレゼンをする側は、共感度を見ながら、説明を変更することができます。プレゼンに対して、聴講者がチャットなどで意見を書き込むとなると、心理的なハードルは高まります。しかし共感モニタリングなら、ボタンを押すだけで感情をアウトプットできますし、ただ話を聞いているだけよりも一体感が高まりやすくなります。オンラインイベントですと、プレゼンの合間に動画を流すことがありますが、動画で流す内容の理解や共感がより進むように、モニタリングの結果をふまえてプログラム構成を組み換え、共感度を改善した例もあります」。
目的に応じたサーベイを
本連載の第3回では、従業員の「配置配属のフィット感」や「生産性に対する意識」を記名式サーベイで数値化する方法を紹介しました。一方で今回の「共感モニタリング」は匿名のサーベイです。心理的安全性を担保した上で、メッセージに対する具体的な反響を抽出し、何が従業員に響いているのかを把握しながら改善アクションにつなげることを目的にしています。
意見交換の場では、エンゲージメントが高い従業員だけでなく、ケアが必要な従業員の声を匿名で拾っていくことの重要性を確認しました。
メッセージ浸透、各社の取り組み
共感や自分ごと化を進めるメッセージの書き方、届け方は、組織の風土や経営課題に応じて異なります。広報部門では、どのような社内コミュニケーション施策を行っているのでしょうか。
エン・ジャパンにおいては、100人以上の社員がウェブ社内報「en soku!」の記事を執筆し毎日更新。またYouTube社内報「しみねーのWelcomeエン・ジャパン」では、広報の清水朋之氏がMCとなって語りながら、社員対談を行い、動画を公開するスタイルをとります。コロナ禍においてもZoomで収録を継続し、他部門の業務内容や活躍する社員に対する理解を促すコンテンツ配信を続けています。
新社長就任を機に社内コミュニケーションを強化する、ぐるなびでは社長が直接社員と対話するタウンミーティングをオンラインで続けています。また月1回の事業進捗の共有会ではリアルタイムに質問を受け付け、双方向のコミュニケーションを重視。新たな理念体系を役員や社員とのワークショップを通じて策定し、それに基づく新しい働き方の実践を、リリースでも配信しています。
ハンドメイドマーケット「ミンネ」など、表現者を支援するサービスを展開するGMOペパボでは、オンライン集会の開催にあたって、事前にリモートワーク中の従業員に食べ物を郵送し、集会への期待感を高める工夫をしています。東証一部上場にあたっては、記念品としてペパボ新聞を社員に配布。中には全社員のSlack IDも掲載され、上場の自分ごと化を図っています。
社是に「おもしろおかしく」を掲げる堀場製作所では、やりがいを持って働ける組織にすることを目指し、社内報を制作しています。「つながり」をテーマに、彩飾写本リーフの顔料分析や石材屋さんでの光沢計使用など、社会や顧客とのつながりが分かる納入・分析事例を紹介。イントラネットでは役員講話やグループ会社、各拠点の取り組みを日々発信するなど、縦横のつながりを強化しています。
さらなる施策に向けて
従業員エンゲージメント向上プロジェクトでは、会社の活動に従業員が共感し、自ら判断・行動できている状態を作り出すためのアイデアや計測指標について話し合いを重ねてきました。コロナ禍における非対面という制約がありながらも、豊かなコミュニケーション施策がたくさん生まれています。本プロジェクトの連載は全4回として開始しましたが、おかげさまで反響もいただき、今後も各社のコミュニケーション施策を支援、レポートする予定です。
従業員エンゲージメント向上プロジェクト
事務局(運営・メディア協力):宣伝会議
ボードメンバー:
プロジェクト参加希望の方はこちらから
従業員エンゲージメント 向上プロジェクト事務局
(株式会社宣伝会議)houjin@sendenkaigi.co.jp
今回はスペシャルパートナーとして日立製作所のサポートが入っています
お問い合わせ(共感モニタリングを試したいなど)
株式会社 日立製作所