広報担当者にとって重要なパートナーである記者は、対面でのコミュニケーションを好むものだが、このコロナ禍ではそうもいかない。本特集の最初は「文章のプロ」である記者らとのメール文章などを通じた交流方法から考えたい。
記者との関係構築のポイント
❶ 忙しい記者に読んでもらうには新聞記事風のメールがおすすめ
❷ 率直に結論から書く。記者に対し、「失礼か否か」などの気遣いは不要
❸ 文章は短く!長い文章だと相手が誤読したり、こちらの文法ミスにつながる
❹ 読み手の解釈に幅が生じない書き方を意識してみよう
❺「あえて隠語を使う」などは上級者のテク。慣れないうちはストレートな表現で
最近、文章術に対する関心の高まりを実感する機会が増えた。先々月は週刊東洋経済が「無敵の文章術」(2021年8月7-14日、合併特大号)を特集。筆者も取材を受けて報告書の書き方について解説した。その前には、ビジネス系ニュースサイトからもインタビューを受ける機会があった。個人的に「若手社員に文章の書き方をどう教えればいいのか」といった相談を受けることも多い。
もともと、ここ数年は文章に関するハウツー本の出版が相次いでいた。ただ、テーマは「人の心を動かす文章」など、マーケティング寄りの内容が多かった印象だ。それが足元では「ビジネス文書」に比重が移ってきている。「ビジネスパーソンに情報を正確かつ効率的に伝えるための文章術」のニーズが高まっているのだろう。
背景にあるのは、言うまでもなくコロナ禍による在宅勤務の拡大だ。従来なら口頭ですんでいた情報のやり取りの多くがメールやチャット、議事録を含む報告書に移行。長い文章を書く機会が増えた。一方で、ビジネス文書に慣れていない若手は、仕事の中で自分が書いたものを先輩に添削してもらったり、文書作成の手ほどきを受けたりする機会が減っている。そもそも企業などの組織は情報を円滑に共有するための仕組みなので、危機的と言ってもいい状況だ。
これは社内だけでなく、社外とのコミュニケーションにも当てはまる。営業などは対面が基本だったが、現在はオンライン会議システムに加え、メールなどでのやり取りが増えた。広報も記者と情報交換する際、文字情報の重要性が増しているのではないだろうか。今回は、記者と交わすメールなどを書く際に、どんな点に気をつければいいのか考えてみたい。
単刀直入に結論から述べよう
対面で会ったことがないなど、それほど親しくない記者とやり取りする際の文章を中心に説明しよう。一度でも顔を見て話せば、相手の性格や言葉の選び方の傾向などについて、ある程度のイメージを持つことができる。しかし初対面や、電話で短時間話しただけの相手では、そうした基本情報が欠けているため文字ベースのやり取りで誤解が生じるリスクは高くなる。
トラブルを避けるのに最も有効なのが、相手が読み慣れているスタイルで書くことだ。記者の場合は当然、新聞記事になる。プレスリリースを書く際も同じだが、広報はまず「記者が書く文章」の特徴を知り、自分でも使いこなせるようにしておきたい。
と言っても、基本は一般のビジネス文章と変わらない。例えばメールの場合も、普段から社内外とのやり取りで使っている文面を流用することができる。ただ、相手が記者の場合、以下の点については意識した方がいいだろう。
まず、相手は分刻みの締め切りに追われているということだ。例えば、記者からプレスリリースについての質問がメールで届いたとしよう。この場合、記者は1~2時間以内に提出しなければならない原稿を書くために問い合わせている可能性がある。もちろん、急ぎの取材では電話を使うことが多い。しかし、電話がしにくい環境にいたり、広報が席に戻るのを待てなかったりして、メールを使うケースもある。
その場合、広報はなるべく早く返信することはもちろん、回答の内容が一読しただけで伝わるように書く必要がある。この時役立つのが、まさに忙しいビジネスパーソンに読んでもらうために開発された新聞記事の文章なのだ。
では、どう書けば新聞記事風になるのか。まず意識しなければならないのは、結論など重要なことから順に書いていくことだ。新聞業界では「逆三角形」と呼ばれる型で、短めのニュース記事を書くときに使う。
例えば、相手が回答を急いでいるケースであれば、「関連部署に問い合わせておりますので詳しい数字は1時間後をメドに改めて回答いたします。以下、こちらで分かっている範囲でお答えしますと⋯⋯」といった感じだ。「お問い合わせの件、結論から申しますと⋯⋯」のように単刀直入に切り出しても良い。
広報からすれば、自分が把握している情報から順に説明したくなるのが人情だろう。それも頷ける。ただ、それだけで記者のニーズを満たせないのであれば、最初に「これは満額回答ではない」「追加情報はいつ回答できる」といった「結論」を述べるべきだ。記者にとっては、そちらの情報の方が優先順位が高いからだ。
それではあまりにもビジネスライクで失礼だと思われないか、と懸念を抱く方がいるかもしれない。しかし記者は、良くも悪くも礼儀作法をあまり気にしない。基本的に、「お客さま」扱いする必要はないのだ。ちなみに部屋ごとで記者のタイプも様々。まとめておいたので参考にしてもらえれば幸いだ(図1)。
社会部記者
事件、事故から教育や環境問題まで幅広く取材。いわゆる「街ネタ」を担当することが多いので、流行にも関心がある。不祥事会見などでは企業広報にとって厄介な存在だが、それだけに平時に付き合ってお互いの行動原理を理解し合うことは重要。
政治部記者
仕事の繁閑は国会と選挙の日程に左右されるので、タイミングを見極めて付き合おう。基本的には政局に関する話題を好むが、財界ネタや規制改革の行方などについてはビジネスパーソンと関心が共通する。人間関係を「派閥」の力学から捉える傾向がある。
経済部記者
企業広報にとって最も身近な存在で、記者の中では最も一般のビジネスパーソンに近い感覚を持っている。会食への抵抗も小さいので付き合いやすい。大企業のトップ人事への関心が高いので、関連する噂がある場合はメールや雑談で伝えると話が弾む。
文化部記者
読書、演劇、テレビ、囲碁・将棋など担当が分かれており、他の部署に比べ特定の分野を長く取材する傾向がある。