日本唯一の広報・IR・リスクの専門メディア

           

実践!プレスリリース道場

「静かなサックス」が巣ごもり需要で大人気 ヤマハのリリースを分析

井上岳久(井上戦略PRコンサルティング事務所・代表)

新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。

読者の中にも、楽器演奏を趣味にしている人がいるのではないでしょうか。今回は日本が世界に誇る楽器メーカー、ヤマハによるデジタルサックスのリリースを取り上げます。

同社コーポレート・コミュニケーション部の稲満祐一さんによると、ヤマハ大人の音楽教室の管楽器コースの中でも人気が高いのがサックスだそうです。「男性はもちろん、女性の方もかなりいらっしゃいます。全身を使って演奏する姿はとても格好いいです」。しかし音が大きいため、家では練習できないのがネックでした。

日本の家庭に楽器が浸透してきたのは1960~70年代のこと。ピアノを購入し、子どもたちに習わせる家庭が増えるも日本特有の住宅事情から騒音問題が発生。吹奏楽器なら公園や河川敷などに行って練習できますが、家での練習が難しいことに変わりありません。

ヤマハの新商品開発は、社会に役立つことを意識しています。今、必要とされているのは、音を気にすることなくどこでも練習できる「静かなサックス」だと考えました。デジタルサックスなら音量を調節できます。楽器専門メーカーがつくった本格的な商品は、おそらく同製品が初めてとのこと。

デジタルサックスの構想は20年くらい前からあったものの、ピアノやドラムと比べて小さい本体にデジタル部品を搭載するのは容易ではありません。また、押したり叩いたりして出る音の再現に比べ、吹いて出る音の再現は格段に難しいためなかなか実現に至らず、ようやく2020年に実現しました。

開発にあたっては同社のアコースティック楽器部門と電子楽器部門の開発者が集合してチームを形成。それぞれがプライドを持っているため、着地点を見つける苦労もあったといいます。

演奏の体感を重視

重視したのは、できるだけアコースティックサックスの演奏と同じ感覚を得られること。音は国内の一流サックス奏者が吹いたものが内蔵され、マウスピースを吹いたり指で押さえたりすると、本体が振動して先端のベルから音が出ます。「サックスの人気が高いのは、やはりフォルムの格好よさに理由があります。重さや吹いた時に伝わる感触などがアコースティックのサックスそのままで、持った時の高揚感も同様に味わえます」と稲満さん。

それでいてデジタルなら初めて吹いた時から音が出せます。価格はオープンですが、だいたい10万円前後。4~5万円で買える楽器の中では多少ハイクラスですが、アコースティックサックスは高いものだと数十万円するので、それに比べれば確実に低価格でサックスが楽しめます。

また、デジタルならではの機能として、ソプラノ、アルト、テナー、バリトンの音が搭載されているため、通常なら複数のサックスを使い分けるところを1本ですべて演奏することができ、まさにいいとこどりなのです。

広報がかかわり始めたのは発売の3~4カ月前。まったく新しいコンセプトの注力商品ということもあり、通常より少し早めのスタートでした。まずはマーケティングや開発の担当者と商品の定義を確認し、広報ならではの視点を加えていきます。

稲満さんが特に意識するのは、社会トレンドとの関連や「なぜヤマハがつくるのか」という点です。デジタルサックスの場合、ヤマハがアコースティックと電子、どちらの楽器にも精通しているという強みがあったからこそつくれたということでしょう。

稲満さんが開発者と話をして強く感じたのは、アコースティックの要素を非常に大事にしているということです。すなわち、息を吹き込むと本体が振動して、先端のベルから音が出てくること。これがないと、ベルはただの飾りになってしまいます。そこで「ベル一体型」を強く打ち出すことにしました。

ではそのリリースを見てみましょう...

あと60%

この記事は有料会員限定です。購読お申込みで続きをお読みいただけます。

お得なセットプランへの申込みはこちら

実践!プレスリリース道場 の記事一覧

「静かなサックス」が巣ごもり需要で大人気 ヤマハのリリースを分析 (この記事です)
コロナ禍でECサイト売上260%、ダイニチ工業のリリース
契約企業をアピールする「販路拡大」リリースとは
ギネス世界記録の認定で商品の魅力を視覚化、ケンミン食品のリリース
取材のきっかけを誘発 サンコーの「ニュースレター」
人気企業の加盟を話題に、出前館のリリース を分析
広報会議Topへ戻る

無料で読める「本日の記事」を
メールでお届けします。

メールマガジンに登録する