「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。
SDGsは「パートナーシップ広報」と相性が良い
この数年で多くの企業が「持続可能社会」というキーワードを経営の一環としてうたうようになった。一方で「自社ならではの広報活動ができていない」「長年取り組んできたCSR活動と何が違うのか?」「昨年度ほどSDGsの話題が広がらない。メディアに取り上げられにくくなった」といった声も耳にする。
こうした相談に対し、私は「パートナーシップ広報」という言葉を使い、「共創」を意識したコミュニケーション活動を取り入れたらどうかと提案させてもらうことがある。今回はSDGsに関連した広報活動を発展させる上で効果的な「パートナーシップ広報」の企画書の書き方について考えていく。
視点1
CSR活動との違い
時代と共に変化した企業コミュニケーション
SDGsに関連した広報活動の企画書を書く担当者の方に、「与件整理」として説明するのは「CSRからCSVへ」の企業コミュニケーションの大きな流れだ(図1)。近年では「企業の社会的責任」(CSR)に加え「共通価値の創造=共創」(CSV)という考えが一般的になった。ここがしっかり整理されているかどうかで、企画書の説得力が大きく変わる。
図1 CSR、そして共創(CSV)へ
CSR(Corporate Social Responsibility)
●善いことを任意(善意)で行う
●社会的責任を求める社会圧力への対応
●CSR予算の範囲内で実施
CSV(Creating Shared Value)
●社会との共創で企業の競争力を高める
●社会的利益と企業利益を生み出す
●企業予算全体の中で最適化
かつて(1960~70年代)は公害問題などがあり、企業の利益と社会の課題とは大きく対峙していたが、やがて社会からの批判を受け入れ、積極的に社会的責任(CSR)を負うに至った。企業が「社会的コスト」として社会に還元することで、社会の一員としての役割を果たすようになっていった。
ただ、こうした流れはあくまで「社会との対立を避けたい」「市民と良好な関係を築きたい」「企業イメージを向上させたい」といった経営方針によるものであり「コスト」と見なされるのが普通だった。そしてCSR担当者の思いとは別に業績が良ければ予算は増額され、業績が下がるとCSR予算は削減されるなど、継続性という視点から新たな課題が生じていた。
そして1995年の阪神・淡路大震災、2011年の東日本大震災と、二度の大きな災害が起き、CSRからCSVという考え方が広がり、これと並行して企業が自社以外のパートナー団体と共に新たな社会価値を生み出していく「共創」が注目されるようになった。
SDGsに関連する広報活動を行う際には、既存のCSR活動と違いを明確にし、単に現在のSDGsの“ブーム”に乗るのではなく、これまで自社が行ってきたコミュニケーション活動と、社会全体の変化を踏まえておくことが重要だ。
「共創」とは単に「生活者の意見を聞き、共に商品を創る」という意味だけではない。「生活者とともに新しい価値(ライフスタイル)を創る」ことが自社の「本業の一環」であることがCSR活動とは決定的に違う(図2)。これまでのような「(社会的)コスト」ではなく「(企業利益のための)投資」であることを、まず社内によく理解してもらう必要がある。
図2 企業利益のための投資であるCSV活動
企業にとってプロフィット(利益)を生む活動
●企業利益の追求のための欠かせない活動
●コストに見合った「社会的利益」と「企業利益」を生み出すこと
●企業の「本業」を通じてのWin-Winの活動
●企業利益の還元ではなく「事業予算」としてPL管理を行う
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「守り」ではなく「攻め」(チャレンジ)の活動となる
視点2
「共創」の座組みづくり
パートナーシップで社会課題を解決
あらゆる「モノ」が常用品となった今日では、市場調査やマーケティング思考だけでは捉えきれない新たな需要を生活者とつくっていく必要がある。最近は商品コンセプトの検討段階から消費者やNPO団体と「社会課題の解決」を目指した共同開発が行われている。そして広報部門が行うコミュニケーション活動においても同様の変化が起きている。
これまでは、企業内で情報の収集・分析・整理を行い、外部メディアを通じて社会に情報発信を行ってきた。今後は、共創の視点を取り入れることで、生活者やNPOなどとの日常的な関係性の中で、社会的課題の解決を実現するパートナーシップ活動がさらに増えていく。企業のコミュニケーション部門には、こうした共創活動の場(座組み)を自ら構築しマネジメントしていく戦略的な「パートナーシップ広報」が望まれている。
大きな物語(社会的課題)の発見
パートナーシップ広報で難しいのは、多くの類似した共創活動が存在する中で、自社とパートナー企業との取り組みをどうやって「差別化」し、社会に広く伝えていくかだ。「差別化」という点からも、NPOや教育機関などの非営利領域のパートナー団体と協力関係を結んだ共創活動が注目されている。
社会課題を解決することを目的として活動している非営利組織とWin-Winの関係を築くためには、自社にとってのメリットを最適な広報ストーリー(小さな物語)として創出するだけではなく、パートナー団体と共に解決していく共通の課題の設定(大きな物語)が必要となる(図3)。パートナーとの「共通価値の創造」(共通の社会課題を解決する)という視点がパートナーシップ広報上の最大の差別化のポイントとなる。
図3「大きな物語」の発見と「小さな物語」の実現
大きな物語(社会的課題)の発見と解決策の創出
●社会的課題は何か?(課題の設定)
●課題解決のためのアイデアを広く募集
●ワーキンググループやネットワークなどの活用
小さな物語(事業施策)の実現
●外部のアイデア・技術の選択とブラッシュアップ
●事業化・PL管理・組織マネジメント
●商品・サービス・事業の拡大と情報発信
広報部門が中心となって「大きな物語」を設定し、パートナー団体と共創を展開しプロフィット(利益)を生む活動にするためには、マーケティング発想を十分に取り入れたパートナーシップ広報を展開していかなくてはならない。このためには自分たちの共創が社会問題を解決する上でのパフォーマンスが高いこと、また自社独自の「強み」を活かした活動であることを広く示していきたい。自社の「強み」によって社会的な課題を解決すると同時に、共創によって企業収益にも直結していることを社内外に示していく必要がある。
視点3
ストーリーの可視化
「パーパス」重視のストーリーづくり
これまで「株主利益優先」が企業にとっては当然のことと考えられてきたが、企業の目的は「利益を生むこと」であるとともに「社会的責任を果たすこと」だと、価値観はすでに変わりつつある。経営自体が「パーパス(社会における存在意義)」重視の視点に立たない限り、今後商品の差別化はもとより企業の存続そのものが成り立たなくなるだろう。
これまでペルソナ設定など、消費者を特定し、消費者「個人」の持つ価値観を軸に、これに見合った顧客メリットの訴求を行ってきた。そして広報担当者は自社や自社商品の強みやスペックを伝えようと必死に務めてきた。しかし、今ではいかに現代社会にとって自社の製品は存在価値があるのか、大きな物語を提示しなくてはならない。生活者に望まれて生み出されたモノなのか、生活者目線でパーパスをストーリー化する上で、パートナー団体との共創が果たす役割は大きい(図4)。
図4 パートナーシップ広報「ストーリーづくり」の例
❶社会課題の解決(パーパス)に向けたパートナーシップを締結、サービス・商品の企画立案。
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❷地域に密着したパートナーシップの形成。地元特産品を用いた商品をパートナー企業・人・学校などと共同開発。その土地独自の課題に対する新たな気づきなど「共感」の醸成。
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❸若者や子ども、社会的弱者、困っている人を支援するため企業と地域がパートナーシップによる「社会的正義」を実現。