子どもの人権を守るため、多くの制限が要される家庭福祉の広報。福岡市の里親制度の普及の背景には官民協働のチャレンジが。センシティブな表現を地道に対話ですり合わせていった経緯を解説する。
2016年に改正された児童福祉法は、その理念として「家庭養護」を明確に位置付けました。家庭養護とは、虐待などを理由に家族と暮らせなくなった子どもを、児童養護施設などの施設ではなく、里親家庭などで育てていくことです。
その理念を踏まえて2017年にリリースされた「新しい社会的養育ビジョン」では、里親家庭などで養育された子どもの割合を示す「里親等委託率」の大胆な数値目標が示され、全国の自治体でその向上を目指した施策が取り組まれているところです。こうした背景には、諸外国と比して日本は里親等委託率が極めて低く、家庭養護が相応しい子どもに適切な養育環境を提供できていない現実があります。
子どもの権利とニーズを踏まえ、家庭養護の受け皿を増やしていくことは喫緊の課題であり、私が住む福岡市も里親制度の広報を含めた里親リクルート(里親候補者を募集、登録を促し、養育を開始するまでの一連の活動)に取り組んできました。その結果、福岡市は里親等委託率が52.5%(2019年3月末現在)となり、全国の都道府県・政令市の中で2位となりました。
また、児童福祉法が改正された2016年からの伸び率は全国1位であり、成果を挙げている都市のひとつとして知られています(図)。福岡市の実践は、2004年から始まる第1期と2014年くらいから展開する第2期に分けられると捉えています。里親等委託率は児童相談所の体制など、様々な要因が影響しますが、今回は、私も携わってきた広報の面からその実際を紹介します。
福岡市における官民協働
福岡市が積極的な里親リクルートに取り組み始めたのは2004年です。児童虐待の増加に伴い、市内の児童養護施設の定員が逼迫し、受け皿が足りなくなったのです。そこで児童相談所「福岡市こども総合相談センターえがお館」は、里親を増やす取り組みについて、自主事業ではなくNPOへ外部委託することを選択します。
さらに、里親制度に馴染みのある団体ではなく、子どものまちづくりに関わる団体との広いネットワークを有するNPO法人「子どもNPOセンター福岡」に委託した点が功を奏しました。里親制度を初めて理解したNPOセンターは、その普及の必要性を痛感し、自組織のリソースを活かした実行委員会「ファミリーシップふくおか」を組成、広報活動を展開していきます。
2か月に1回開催される会議には、官民の多様な関係団体から約20人が集まり、議論を深めます。そして、年に2回開催している市民向けフォーラム「新しい絆」は、毎回200人弱の市民が集まり、吟味されたテーマの...