新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ」)が世界経済に大きな影響を及ぼす中、ネット通販を行うECサイトが存在感を増しています。これからのニューノーマルな時代には広報でいかにネット販売を伸ばせるかが企業成長のカギになるでしょう。
今回は、新潟県で石油ファンヒーターや加湿器、コーヒーメーカーなどの製造・販売を行うダイニチ工業が、ECサイトの好調を告知したリリースを紹介したいと思います。
同社の製品は家電量販店やホームセンターを中心に販売していますが、それらの付属品を販売するECサイト「ダイニチWebShop」を2007年から運営しています。例えば加湿器は5シーズンに一度の頻度でフィルター交換が必要となりますが、量販店には売り場がないことが多く、あったとしても種類が限られています。ECサイトではそうした付属品を中心に直売することで消費者への便宜を図ってきました。
ところが2020年3月、突然ECサイトの売上が前年同月比260%に跳ね上がりました。コロナで、加湿器関連商品が急激に伸びたのです。
「このころ、ウイルス感染対策として乾燥を避ける意識が急激に高まり、加湿器本体も売れ行きが伸びていました。また、1月下旬に首相官邸のウェブサイトで一人ひとりができる対策としてマスクや手指消毒とともに、部屋の湿度を適切に維持することが載せられた影響も大きかったと思います」と管理本部広報室室長の小出和広さん。
毎年、加湿器の販売は11~12月にピークを迎え、3~4月には下落するのが通例ですが、4月10日ごろの社内会議で逆に200%以上の伸びを示したという報告を受けて、リリース配信を決めたそうです。通常、ECサイトが伸びただけではリリースを出さない企業が多い中、目のつけどころがよかったといえます。
客観的なデータも活用
そこからは広報室の中川花美さんが社内データベースから使える数値を引き出すなど、材料を揃えていきました。「当社のデータだけでなく客観的なデータも入れたかったので、8割がたリリースをつくっておいて、毎月24~25日ごろに出る日本電機工業会のデータを待ってから掲載しました」。配信が月末の24日になったのはそういう理由で、このように普段から客観性のあるデータが出る時期に目を配っていると、タイミングよく活用できます。
それでは、配信されたリリースを具体的に見ていきましょう。まずタイトル。(ポイント1)主題である「ECサイト」はもちろん、「巣ごもり」「前年同月比260%」などニュース性のあるキーワードを組み合わせています。通常は補足をつけて3~4行にすることが多いそうですが、今回は2行でシンプルにまとめています。
また、同社を知らない人への配慮から「ダイニチ工業」とタイトルに入れるところにも工夫を感じます。タイトルに社名を入れる工夫は昨年から始めたとのこと。定型スタイルも時には見直してみると発見があります。
本文では売上増の数字を提示し、その理由を説明。(ポイント2)グラフを表示して納得感を高めるなど、ロジカルで分かりやすい構成です。グラフを3つ載せたことで、例年であれば売上が落ちる3月に伸びていること、それが業界全体の傾向でもあることが伝わります。グラフだけだと意図が上手に伝わらないこともあるので、キャプションで補足しているのもいい点です。
(ポイント3)2枚目は補足資料として、初見のメディアにも分かるようにECサイトの基本的説明を載せています。さらに製品本体にQRコードがついていて、消耗品が必要になったらスマホからECサイトにアクセスできる仕組みも掲載しています。
リリースは...