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組織が公開抗議する際のポイントと意義

鶴野充茂(ビーンスター 代表取締役)

ブログや掲示板、ソーシャルメディアを起点とする炎上やトラブルへの対応について事例から学びます。

イラスト/たむらかずみ

組織が公開で抗議するとき
毎日新聞に掲載された風刺漫画をめぐって、出版社が社長名で抗議のメッセージを自社HPに掲載した。ネット上で注目を集め、これを支持する声が広がった。

5月、絵本『はらぺこあおむし』の作家エリック・カール氏が死去したと報じられた。ネット上では自らの思い出などを交えて悲しみの声が多く見られた。一方でこの時期、五輪開催をめぐって強気で一辺倒な姿勢を崩さないIOC幹部に対して、世間では厳しい見方が広がっていた。6月初旬、そんな中で、毎日新聞は風刺漫画を掲載。バッハ会長らIOC幹部の顔をしたあおむしが、「放映権」と書かれた「ゴリン(五輪)の実」をむさぼっている様子が描かれていた。

はらぺこあおむしの版元、偕成社は社長名で「風刺漫画のあり方について」と題する抗議の声明を自社HPに掲載。風刺自体は表現の自由の観点から異議を申し立てるものではないとしつつ、今回の風刺漫画は原作の世界観を理解せず不適当で、「おそらく絵本そのものを読んでいない」とし、「作者と紙面に載せた編集者双方の不勉強、センスの無さを露呈したもの」であり「出版に携わるものとして、表現の自由、風刺画の重要さを信じるがゆえにこうしたお粗末さを本当に残念に思う」などと痛烈に批判した。

3つの抗議の形

一般的に、組織が抗議を検討する場合の選択肢は3種類だろう。「スルー(無視・放置)」「直接の申し入れ」、そして今回のような形「公開の抗議」だ。まず「スルー」。影響や注目度が低いなら多くの場合、スルーとなる。抗議で注目を集める方がマイナスに働くという時である。

次に、「直接の申し入れ」。これは、注目を集めずに訂正を求める場合だ。メディア露出の多い広報部門や、記事に対する拒絶反応が強い組織などでは、頻繁に機会があるかもしれない。

この2つではなく、「公開の抗議」をする時は、世間の注目を集める、少なくとも抗議をする姿勢を見せることが意図の一部にある。実際のところ、抗議文をきっかけに、風刺漫画にも注目が集まってネット上で拡散された。声を上げた偕成社を支持する声が多い印象だったが、否定的な声もあった。

内容の削除や訂正だけなら、直接伝えればいい。一方で今回のような抗議の形態は、毎日新聞への抗議でありつつ、世間へのアピールでもある。

何かを守るために抗議する

ポイントは、自分たちだけの考えではなく、誰か別の人たちを守ろうとしていることである。今回の場合は、版元としてビジネス面で問題視したものではなく、作品の読者やファンの気持ちを代弁するものであり、大切に思ってくれている世界観を壊してはならないという強い意思表示だと感じられる。誰かのために、何かを守るために、同じようにそれが大切だと感じている人たちを代表してメッセージを発信できれば、これは有効に機能するのだろう。

毎日新聞社は6月中旬、「絵本や作者をおとしめる意図はありませんでした」などとする見解を掲載し、偕成社も「紙面にて誠実にご対応いただいた」とHPに追記している。

社会情報大学院大学 特任教授 ビーンスター 代表取締役
鶴野充茂(つるの・みつしげ)

社会情報大学院大学特任教授。日本広報学会 常任理事。米コロンビア大学院(国際広報)卒。国連機関、ソニーなどでの広報経験を経て独立、ビーンスターを設立。中小企業から国会までを舞台に幅広くコミュニケーションのプロジェクトに取り組む。著書はシリーズ60万部のベストセラー『頭のいい説明「すぐできる」コツ』(三笠書房)など多数。個人の公式サイトはhttp://tsuruno.net/

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