行政サービス、福祉事業においてあまり重要視されてこなかった広報デザイン。児童相談所のウェブサイトを例に、財源の不足を市民協働の機会に変え、デザインを実装したポイントを解説する。
児童相談所(以下、児相)のウェブサイトを見たことはありますか?──周囲のデザイナーに尋ねると、「見たことがない」と答える人がほとんどです。そして、実際に検索してはじめて、全国の児相のサイトにデザインの工夫がなされていないことに気付きます。
かといって、デザインが不要なわけではありません。皆さんが児童虐待を目にした場合、児相などに通告(連絡)する義務があることは法律で決められています。しかし、児相への連絡先を知らない方もいるでしょう。通告後にどのような対応になるのか把握できていないと、通告を躊躇してしまい、悲しい事件につながってしまう可能性もあります。
また、児相は虐待対応だけをしているわけではありません。保護者の養育相談、不登校に関する支援、里親制度の普及などの役割を担い、市民に対して提供すべき少なからぬ情報があり、かつ、信頼を基盤として市民との関係を良好に保つ必要があります。
児童虐待事件が起こる度に、児相職員の多忙さが報じられますが、ウェブサイトのみで完結できるUXで一部の相談対応も可能です。つまり、困りごとを抱えた子どもやその家族を支援していくために、児相の広報(Public Relations)のデザインは、必要不可欠なのです。
リニューアル前
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リニューアル後
デザインが届かない現実
それでは、なぜ児相のウェブサイトはデザインされにくいのでしょうか。いくつかの理由がありますが、そのひとつは「デザイン」が持つ特質にあります。
近代以降、デザインの技術は市場原理に支えられ、民間企業を中心に広がっていきました。ユーザーがサービスを選択できるからこそ、提供側は積極的な情報発信に取り組む(=デザインの工夫をする)必然があり、そのための財源が用意されてきたのです。
行政サービスの中にもデザインが広がりつつある分野はあります。例えば、シティ・プロモーションや地域活性化の名のもとに、自治体のオウンドメディアのデザインや広告事業に価値が見出されてきています。地方創生なる大きな働きかけの中で自治体間競争が顕在し、それに応じて補助金をはじめとした財源が確保され、今や広告会社もコミットし、多様なデザイン事例が見られます。
また、福祉分野においては、2000年に入り、高齢者や障害者を対象とした福祉サービスにて措置制度から...