リモートワークが常態化する中、改めて注目が集まる従業員エンゲージメント。その向上のため、広報部門はどのようなコミュニケーション施策を実施できるでしょうか。「従業員エンゲージメント向上プロジェクト」第2回では、7社の広報担当者と専門家が集まり意見交換を行いました。
従業員エンゲージメント
自分が所属する組織と、自分の仕事に、熱意を持って自発的に貢献しようとする従業員の意欲のこと。
▶会社の業績との相関が高い
▶組織と個人の間の関係性を規定するもの。会社が向かいたい方向に従業員が共感すると、自発的に貢献しようという意欲を引き出せる
従業員エンゲージメント向上プロジェクト第2回は、アドビ、オムロン、スマイルズ、セコム、東急建設、ハピネット、ファクトリージャパングループ(五十音順)の広報関連部門の担当者が集まり議論。ボードメンバーとして、ブランディング支援を行うクリエイティブエージェンシーのCINRAと、メッセージの共感度を可視化する「共感モニタリング」サービスを提供する日立製作所が参加しました。
社内浸透の4ステップ
会社の活動に従業員が共感し、自ら判断・行動できている。そんな状態を生み出すために、広報部門は何ができるのでしょうか。CINRAの宮崎慎也氏はこう話します。「なぜこの会社が存在し事業を行っているのか?この『なぜ』が人の心を動かします。しかし理念の提示だけでは抽象的。その実践例まで一気通貫で理解できると、共感が生まれ、行動に移しやすくなります」。
これまで宮崎氏は、パーソルキャリア他の理念策定支援や資生堂をはじめとしたオウンドメディアの制作を手掛けており、その知見から、「社内浸透」を4つのステップ(認知、理解、共感、行動)に分けて整理しています(図1)。
「認知の段階で、ポスターや朝会での告知。理解を促す段階で社内報や企業文化を言語化したカルチャーブックの配布、というように、施策全体をマッピングしてみてください。他部門と連携しながら着手すべきところが見えてくるはずです。従来、認知・理解に関しては広報領域、共感・自分ごと化に直結する研修は人事領域、行動を促す表彰などは経営領域でしたが、今やその境界線は薄れ、広報・人事・経営の三位一体が問われています」。
従業員に届くストーリー
社内浸透において、広報部門に期待されているのが「認知・理解」のステップ。つまり「いかに記憶に残すか」です。ここで覚えておきたいのが「エピソード記憶」というキーワード。
「映画の物語が記憶に残りやすいように、『感情(感動・驚き・喜び)』と『ストーリー(誰が・どこで・何のために・何をしたのか)』に紐づく“エピソード記憶”は忘れにくい。企業の価値や事業の意義を発信する際も、感情を喚起しながら、記憶に残る“ストーリー”を中心に据える手法=ストーリーブランディングが有効です」と宮崎氏。「ストーリーの構成要素」(図2)に当てはめて考えると、ストーリーがつくりやすいとアドバイスします。
「ストーリーには、『成功(失敗)体験型』や、読み手と同じ目線で悩みを解決していく『共感型』、何かに出会い発見する『価値発見型』、未来になりたい姿を描く『未来ビジョン型』など、型があります。社長の思いや事業の将来像、従業員の活躍など伝えたい事実に型を当てはめ、起承転結のあるストーリーをつくってみてください」と宮崎氏。
例えば、ポーラの「創業者が妻を助けたい思いで事業が生まれた」という創業エピソードは理念を伝えるうえでは非常に強いコンテンツになります。また「ある事業が成功に至った過程」を顧客と担当社員の対談型のコンテンツにすることで、その社員の活躍を際立たせて伝えることができます。
ただし、どんな記憶も時間が経つにつれ忘却していくもの。「2カ月に4回は伝えたいメッセージに触れられる環境を整えると記憶にとどまりやすくなります。浸透施策の後には、自分の仕事と関連させて受け止められたかなど、調査で浸透度を測ることも重要です」と宮崎氏は指摘します。
社内浸透の取り組み事例
従業員が自ら熱意を持って行動できるようにするために、広報部門ではどのような工夫を行っているのでしょう。
グループ社員数6万4000人強のセコムでは、グループ報(紙とウェブ)、グローバル報(PDF形式)を通じて、ニュースの配信だけでなく理念の浸透も図っています。コンテンツ計画においては「理念・会社方針の浸透」「人の想いに触れ、仕事の目的や意義に立ち返る」「グループの強みやサービスを知り、一体感を高める」「外部の視野を盛り込み、個人の視野を広げる」の4つの軸を意識。人事、営業、国際、サステナビリティ推進といった他部門とのシナジーを生むことを目指しています。
戦後の首都復興を起源とする東急建設は昨年度、VISION2030を新たに策定。ビジョンや長期経営計画の浸透活動を行っています。中でも行動変容につながっているのが、経営者・ビジョン策定メンバーと従業員がTeamsで対話をする双方向のコミュニケーション。ビジョンをテーマに5~7人で1グループとなって話し合い、自分ごと化を進めています。
エンタテイメント総合商社として、玩具の中間流通事業などを担うハピネットは、M&Aを繰り返しながら社員数を増やしています。一体感の醸成を目指し、ウェブ社内報は、事業部担当者が簡単に投稿、コメントできる仕組みに。また人事部門と連携しながら、有志社員との会社改革プロジェクトを5年計画で進めています。
整体サロン「カラダファクトリー」を国内外350店舗以上展開しているファクトリージャパングループ。同社では、約1700人いる整体師(正社員)の教育を担う教育・ES部と広報部が連携し社内コミュニケーションを行っています。「経営メッセージ浸透」「相互尊重」に課題があると分析し、「認知賞賛」や「貢献度(充実感)」の見える化を進め、最近では社内ポータルサイトに顧客の声を紹介。スタッフの活躍に各部署が「いいね」していく取り組みを始めています。
自社に合う施策を発見する
意見交換の場では、「従業員が多様化、部門がサイロ化するなかで、共感が生まれるコンテンツをどう発見していくか」に関心が集まりました。
「どの従業員も共通して持つ“悩み”に注目してキーコンテンツを設定するのも手」と宮崎氏は言います。
「例えばDX。コロナ禍でどの国でも課題ですから、理念実践のための『DX』を社内報の特集にしてはどうか、などと考えてみてください。一方、従業員の多様性は会社にとっての強み。差異を楽しめる、驚きのあるコンテンツもバランスよく入れていくといいでしょう。また社内浸透プロジェクトを開始する際に、チームビルディングの時点から多くの人を巻き込むこともおすすめです。伝えたいメッセージと共通する活動を行う著名人の力を借りて、経営トップと対談してもらうコンテンツも注目度が高まります。組織の風土によって、有効な従業員エンゲーメントの打ち手は変わりますから、自社の場合は表彰が向いているのか、双方向の対話施策が好まれるのか。ビジュアルは重要か、などを把握できてくると、方針が立てやすくなります」。
従業員エンゲージメント向上プロジェクトでは、様々な打ち手について情報共有していきます。次回はエンゲージメントの把握・分析がテーマです。
従業員エンゲージメント向上プロジェクト
事務局(運営・メディア協力):宣伝会議
ボードメンバー:
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従業員エンゲージメント 向上プロジェクト事務局
(株式会社宣伝会議)houjin@sendenkaigi.co.jp
今回はスペシャルパートナーとしてCINRAのサポートが入っています
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