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データで読み解く企業ブランディングの未来

米バイデン政権で変わる 日本企業の対応

Supported by 企業広報戦略研究所

企業の広報戦略・経営戦略を分析するプロが、データドリブンな企業ブランディングのこれからをひも解きます

今回のポイント
① 企業に影響を与える国際情勢への関心の高まり
② バイデン政権の「気候変動対策」は全ての政策の根幹
③ 政策動向を日々情報収集し、経営課題とひもづけを

企業広報戦略研究所の企業広報力調査で、「自社に影響を及ぼす法規制・行政動向について継続的に把握している企業」は2014年以降年々増加し、2020年には67.7%と2014年から20ポイント以上も増えています。企業は、政策的な要因によるビジネス環境の変化に、より敏感になっていると言えます(図)

図 企業の法規制・行政動向の把握(経年変化)
調査機関:企業広報戦略研究所
調査内容:企業広報力調査・第1回(2014年)以降、2年毎に、国内の上場企業を対象に調査を実施。

米国ではバイデン新政権が誕生し、さまざまな分野で変化の波が押し寄せています。国際情勢は日本の経済政策や企業活動に大きな影響を与えることから、広報パーソンもグローバルな情報収集およびパブリックアフェアーズに関する理解を深めることが重要といえます。

バイデン政権の気候変動対策

前任のトランプ大統領はパリ協定から脱退するなど経済を優先しましたが、バイデン大統領は就任早々から同協定への復帰を果たし、気候変動対策を重視する姿勢を鮮明に打ち出しました。バイデン政権では気候変動対策を単なる環境問題と捉えずに、通商、社会インフラ、エネルギーなどの多岐にわたる政策の根幹に位置づけています。アメリカ社会が大きなパラダイムシフトを迎える中、日本企業は新たな対応を求められることになります。

通商政策は中国への対抗継続

バイデン政権は気候変動対策に関しては、CO₂排出量世界1位の中国と連携する立場を取り、反中国一色であったトランプ政権とは一線を画しました。しかし、その他の分野、特に通商政策においては、新政権の基本は中国依存からの脱却であり、中国と距離を置く方向性は変わっていません。

バイデン政権は経済安全保障の観点から、これまで国外に多くを依存してきたサプライチェーンの国内回帰を進めようとしています。中でも、レアアースや半導体は中国との対抗上不可欠であり、それらのサプライチェーンを米国内あるいは日本・韓国・台湾を含め、東アジアおよびインド太平洋の同盟国内で完結させようとしています。こうした方針は、日本企業にはビジネスチャンスですが、サプライチェーンの国内化は米国の国内回帰志向の表れでもあり、日本企業はより米国内での製造を余儀なくされる懸念もあります。

エネルギー政策が柱に

気候変動対策の中心はなんといってもエネルギー政策であり、2035年までに電力網における炭素排出ゼロを目指すというものです。トランプ政権では、シェールガス/オイルなどの開発が重視されましたが、バイデン政権では、再生可能エネルギー(太陽光、洋上風力発電など)、小型原子力発電(SMR)が注目されています。中期的には天然ガス(外国への輸出の場合はLNG)も重要な位置づけとなりますが、再生可能エネルギーへ大きくシフトし、脱炭素の実現を目指します。

インフラ整備に巨額投資

米国内では社会インフラの老朽化が進んでいます。バイデン政権は8年間で総額2兆ドルのインフラ投資計画を掲げ、「百年に一度」という規模でインフラ設備の刷新を行う予定です。インフラ整備は広範に及んでいて、運輸・交通分野では道路、橋梁、交通システム、EV電池の充電ステーション、生活分野では電力、水道、高速通信網(光ファイバーや5G)などが含まれます。

クリーンエネルギー化の実現には、大規模なインフラ整備が必要不可欠です。そして、これは多くの高給与かつ労働組合に守られた雇用の創出にもつながるのです。現在バイデン大統領を擁する民主党は、投資計画予算の議会承認に向けて共和党と調整しています。

環境正義によるリスク

日本企業にとって注意すべき点として、環境正義(Environmental Justice)という概念が挙げられます。環境正義とは、公害や環境汚染の被害者となりやすいマイノリティや貧困層などの社会的弱者が、安全な環境で生活できるように改善する、社会正義と環境保全の実現を目指したものです。環境政策は州ごとに取り組みが異なる分野ですが、今後、企業や事業拠点が立地する州では、低所得者層の居住環境の保全に配慮した規制や制限を受ける可能性があります。

欠かせないグローバル対応

バイデン政権の気候変動政策によって、サプライチェーンの組み替えや再生可能エネルギー、インフラ整備等、多くの分野で日本企業にビジネスチャンスが広がる可能性があります。

しかし、政策変更によるビジネス環境の変化は、チャンスばかりでなくリスクとなることもあります。例えば、自社製品のサプライチェーンに中国製の部品が含まれている場合、アメリカへの輸出が禁止される可能性があります。また、機関投資家が石炭火力発電に反対し、今後、投資をしないという大きな流れが出来上がっています。

日本企業がビジネスチャンス/リスクを早期に察知するためには、日常的に米国政府の政策について情報収集・分析を行い、自社の経営環境および経営課題とどう関係するかについて考えていかなければなりません。グローバルなビジネス遂行にあたっては、グローバルな企業広報戦略・体制が必要になります。今後は、広報パーソンもパブリックアフェアーズに関する感性を高めることが重要となるでしょう。

「米国雇用計画」について演説するバイデン氏(ホワイトハウス)

©Getty Images

※本原稿は2021年5月24日時点で執筆しています。

企業広報戦略研究所
(電通パブリックリレーションズ パブリックアフェアーズ戦略部 シニア・プロジェクト・マネージャー)
許 光英(きょ・みつひで)

パブリックアフェアーズ領域において、国際情報分析およびグローバルコミュニケーションを担当。これまで情報通信、商社、化学、国際輸送、航空業界等のクライアントサポートを歴任。日本におけるネット選挙解禁(2013年)以降、政治とSNSの関係をリサーチ。

企業広報戦略研究所
主任研究員
(電通パブリックリレーションズ パブリックアフェアーズ戦略部 コンサルタント)
関口 響(せきぐち・ひびき)

パブリックアフェアーズ領域を専門にコンサルティングを担当。ステークホルダーの調査・分析、報道論調を基にしたメッセージの策定、立法府・行政府へのアプローチを行う他、国内外企業の広報戦略立案・実行に従事。

企業広報戦略研究所は電通パブリックリレーションズ内に2013年に設立。企業経営や広報の専門家(大学教授・研究者など)と連携して、企業の広報戦略・体制などについて調査・分析・研究を行う。https://www.dentsu-pr.co.jp/csi/

OPINION

バイデン政権、対中強硬の経済政策 日米の同盟に期待

バイデン政権では、サプライチェーンの弾力性や信頼性について、これから多くのことが検討されるでしょう。そこには、サプライチェーンにおける中国の不正行為、例えばIP(知的財産)の窃盗も含まれます。関税の撤廃や削減について、バイデン政権ですぐに実行されることはないでしょう。トランプ時代の輸出管理が継続され、投資のスクリーニングやIP移転のルールも維持されるはずです。

これからの課題は、米国が中国と競争するための枠組みを構築する上で、日本を含めて多国間、特に同盟国とどのような合意や協定ができるかということです。

全米アジア研究所
参与
チャールズ・W・ブスタニー・ジュニア氏
元米国下院議員(ルイジアナ州選出)、外交・通商政策・国際税制・エネルギーが専門
詳細は当社研究所サイトにて
https://www.dentsu-pr.co.jp/csi/csi-topics/20210701.html

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