衰退産業における効果的な広報企画書のつくり方
近年になって、日本の多くの産業が成熟期を迎え、一部は衰退期に入っているとも言われている。グローバル化や技術革新の加速、消費者の価値観の多様化など、企業を取り巻く環境は日々大きく変化している。その中で生き残りを図るためには、従来の常識にとらわれない、新しい視点での広報戦略が不可欠である。特に衰退産業においては、市場の縮小や競合との競争激化といった逆風の中で、いかに企業の存在意義を示しつつ、ステークホルダーとの信頼関係を維持していくかが問われている。
広報担当者のための企画書のつくり方入門
広報部門の部門長やリーダーの方から「広報業務の改善」について相談を受ける機会が増えた。理由はいくつか考えられるが、ひとつの理由はコロナ禍の継続によるものだ。
多くの広報部門のリーダーが、続くコロナ禍でどう部門運営を行っていけばよいか手探りしている。私はあまり悲観的にならないようアドバイスしている。コロナ禍を機に、これまで部門内としての課題だった社内リソースの活用や外部メディアとのリレーション構築などを見直すチャンスでもある。
こういった時にこそ、広報部門が全社に先駆けて「ニューノーマル」に最適化した業務フローを構築し、見本となってほしい。今回は、広報業務の見直しを企画書にする際に欠かせないポイントを順番に押さえていきたい。
自社の新商品の発売開始に合わせ商品リリースと販促イベントの告知を出す。決算発表のタイミングで業績と新規事業について記者発表─。企業の業績が順調な時は、こうした「パブネタ(広報トピック)」には困らない。メディアが一度取り上げると、次から次に取材依頼につながった。
だが、「当たり前」だった広報活動の良い循環がコロナ禍で大きく変わってきた。メディアが報じる情報の多くが今でもコロナ関連情報で占められている。対面での取材やプレスイベント実施には様々な制約がある。しかし、こういう時にこそ、「守り」の姿勢から「攻め」の広報スタイルへと自ら仕掛けていく、そういった企画が望まれる。
「攻めの広報」の基本は、❶外部から得たインサイトを広報戦略に活用 ❷全社ビジョンとの連動と部内での情報共有 ❸PDCAサイクルの推進 ❹評価指標の設定 ❺社内協力体制の確立など、広報部門の業務を見直し、ブラッシュアップすることで「体質改善」を行うことだ(図1)。
❶ヒアリングや調査を通じて社内外のインサイトを活かし対外活動へとつなげる
❷部内での情報共有を強化し、全社的なビジョンと連動した広報戦略を立案する
❸広報スケジュールの作成、メディアリレーションの構築などのPDCAの推進
❹コロナ禍(ニューノーマル)における情報発信、取材対応、掲載内容の評価などのプロセスを整理しブラッシュアップする
❺社内の各部門と連携を強化して、広報活動の目的、内容、スケジュール、掲載結果、効果などを社内に積極的に共有し全社的な協力体制を築く
これまではメディアからの取材依頼に応じる形での「受け身」の活動が中心だった場合には、広報部員がより積極的に「情報創造」を行い自ら発信する必要がある。プッシュ型の活動への転換が望まれている(図2)。
●プレスリリースを読んだメディアからの取材依頼を待つ
●ストレートニュースとしての報道、掲載を実現する
●時事ネタと関連した事業内容(メディア側の文脈、記者が取材したい内容)
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●メディアへ提案する。企画を持ち込む(最初はメディアから持ち込まれる場合も含む)
●ターゲット媒体に自社が企画する内容が掲載される
●計画的な活動(情報収集➡企画➡メディアへアプローチ➡掲載➡効果の把握)
●自社が訴求したいイメージ、戦略商品、具体的な事業活動➡メディアで訴求
「攻め」の広報をより強く進めるには、社内外から収集した情報を活用して部門内でメディア環境について分析、そして戦略構築のための意思決定、こうしたプロセスをスピードアップさせたい。メディアから得たインサイトをもとに、広報戦略を考えていく際、私自身は「アウトバウンド」「インバウンド」の2つを併せて考え、企画書の構成をシンプルに整理している。
情報発信する上では、どういった時事ネタや社会的テーマに広報ストーリーを寄り添わせれば有効なのかを考えていく。記者や外部メディアの制作者との交流から、外部インサイトを広報部から社内に取り入れ、情報発信における意思決定の精度を高めていく(図3)。
新しい「入浴剤」を発売する(商品企画部)「香り」にフォーカスした宣伝を予定(宣伝広告部)
コロナ禍で在宅時間が増え「家で快適に過ごしたい」人が増えている
●商品PRの一環として外部調査会社と連携して「調査パブリシティ」の準備は可能か
●「入浴剤」以外にも自社商品に「家で快適に過ごす」という切り口の商品はないか
●各事業本部に関連した情報がないかヒアリングを行う
外部メディアから取材依頼があった場合、これまでは相手からの要望に応じて個別の回答を用意していた。しかし、これでは自社が打ち出したい情報ではなく、メディア側が知りたい情報が優先される。外部からのヒアリング結果を踏まえ、広報部門内では「理想とする広報ストーリー」を複数用意する。そして部内で作成したプライオリティに従って自社が理想とするメディア露出に近づけていく。
社内外から得た情報をもとに広報部門が情報分析を行う際に注意したいのは、自社にとって有益な情報掲載(世論に伝えたい情報)は必ずしも社会(メディア)にとっての情報価値が高いとはいえない点だ。そこで図4について確認し、大まかな方向性を決めてみてほしい。さらに図5の項目を踏まえて、どういった方法で情報公開を行うかの精査に入りたい。
❶どういった「社会的文脈」がある情報なのか
❷どのようなストーリー性(展開)が可能か
❸具体的なターゲット(特定の業界、ステークホルダー、株主、顧客)は誰か
❹報道素材として提供が可能か。情報はどのように可視化できるか(映像、写真提供、グラフィック、調査データ、有識者、ユーザー自身の言葉、社員による解説映像等)
❺有効な媒体は何か(報道番組、経済紙、業界紙、ビジネス誌、採用専門媒体)
❻どういう方法でアプローチするか(プレスリリース、特定メディアの訪問、記者クラブ等)