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広報のための行動インサイト

勘定は感情より強い?──東京五輪・パラリンピックと「拍手」

山田 歩(滋賀県立大学)

不祥事。誤報。そのときに必要なコミュニケーションとは。行動科学のインサイトを使って広報実務を点検します。

「遅刻したら罰金」にしたら、かえって遅刻してくる人が増えてしまった…。これは、定刻までに保護者が子どもを迎えにくるようにと保育園が罰金制度を導入したことで起こったことです*1。罰金制になるまえ、保護者は遅刻してしまうことに「申し訳ない」と思っていたのに、制度導入後は「罰金を払えば遅刻しても構わない」と変心し、こんなことが起こったと考えられます。良心や責任といった「感情」は「勘定」に損ねられてしまったわけです。

*1 Gneezy, U., & Rustichini, A.(2000). A fine is price. The Journal of Legal Studies, 29, 1 - 17.

さて、東京オリンピック開催をめぐる問題でも「勘定」が「感情」を飲み込もうとしています。ただし、こちらは主催者側の勘定と国民の感情の話です。

この原稿を執筆している6月4日時点ですが、新型コロナウイルス感染症の対応で緊急事態宣言が続き、国民の中で大会開催に否定的な声が広がるなか*2、「東京はオリンピック史上最も準備の整った主催都市だ」(トーマス・バッハIOC会長)、「(東京に宣言が出されても大会を開くかとの質問を受けて)答えは完全にイエスだ」(ジョン・コーツIOC副会長)、「医療やコロナ感染の観点はあるが、日本経済全体を考えれば、五輪を開催する方がはるかに経済効果があると思う」(武藤敏郎東京五輪・パラリンピック組織委員会事務総長)などの発言が飛び出し、十分な説明もなく五輪開催を推し進めようとする政府やIOCに反発する声が強まっています。

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