企業の広報戦略・経営戦略を分析するプロが、データドリブンな企業ブランディングのこれからをひも解きます
今回のポイント | |
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① ソーシャルバリューへの姿勢が企業の評価を左右する | |
② 広報は、社会と企業の接点=ファクトをつくる役割へ | |
③ 企業の実力で向き合える、身近な社会課題に着目する |
組織や製品・サービスの魅力を伝えるため、日々様々なアンテナを張り巡らし、時流に乗った情報発信のチャンスを狙っている読者の方は多いと思います。しかし世の中の情報量が爆発的に増加した結果、世に出した「話題」が注目される“賞味期限”は短くなる一方です。せっかく話題化しても、すぐさま大量の情報に埋没してしまう。従来の広報活動だけでは、中長期的なブランド形成が難しくなっています。今の時代において、発信する意味がある情報、効果がある情報とは、どのようなものでしょうか。
向き合う社会課題を深掘り
ソーシャルメディアが普及した今日、企業に関する様々な情報や評判は、容易に生活者の知るところとなります。昨今注目されている「SDGsウォッシュ」といった、上辺だけの取り組みはすぐに見透かされ、批判の的となります。だからこそ、企業が社会のために取り組んでいる活動の「ファクト」を伝えることが重要です。
2020年に実施した企業広報戦略研究所の調査によれば、企業のSDGsに対する取り組みを知った人の7割以上に、その企業の情報を検索したり、商品・サービスを購入・利用するなどの何らかの行動変容が起きています。
またSDGsに対する取り組みを知ったきっかけでは、年代が高い層では「メディアの影響」が大きく、一方で年代が低い層では具体的な利用体験や身近な人の意見といった「リアルな接点」の影響が大きくなります(図1)。若年層の方が、実感や体験を通した情報を重視しているようです。
では企業はどのようにして、社会課題に関連したファクトの発信に取り組めばいいのでしょうか。第一に、事業領域と密接な社会課題を選ぶことが重要です。事業に関することはすでに知見も多くあるため、深掘りすべきテーマを比較的見つけやすく、世の中からの理解も得られやすいでしょう。第二に、切迫度が高い社会課題に注目することも大事です。喫緊の課題は社会からの関心も高く、肯定的に受けとめられやすいと言えるでしょう。
一方、向き合うべき社会課題が見つからない場合は、世の中で注目を浴びている社会課題のハードルを下げることも一案です。例えば「労働生産性」というテーマは重要ですが幅広いテーマです。しかし、自社の製品・サービスが生み出す意外な効率化、というところまでハードルを下げると、情報発信の切り口が見つかりやすくなることがあります。このように企業の実力で向き合える社会課題を抽出し、ファクトの発信を目指すべきと考えます。
ファクトを“つくる”広報へ
ソーシャルバリュー(社会的価値)は各企業が社会課題に向き合い、その実力によって課題の一部を解決するだけでなく、その事実が世の中に伝えられることではじめて、具現化します。
ただし、企業として取り組むべき社会課題とは、必ずしも大規模、広範囲な事柄だけではありません。企業広報戦略研究所の調査によれば、生活者の多くは食品ロス、エネルギー、廃プラスチックなど身近な暮らしの中にある、持続可能な社会の実現に向けた問題に強い関心を持っています(図2)。それらを自社の事業領域から捉え直せば、いっそう関心を引くことができます。
この先、社会の状況や環境の変化によって、課題そのものも生活者の関心の在り様も変わっていくことでしょう。広報セクションの方々はこれらの変化に対する感度を常に磨いておく必要があります。
その上で、変化に応じたソーシャルバリューの創出への取り組みを社内に促し、「ファクトづくり」や「ファクトの補強」の実績を積み上げ、その「ファクト」をベースにしたコミュニケーションを展開していく。すなわち「話題づくり広報」から「価値づくり広報」への進化により、ソーシャルバリューに向き合う企業変革を後押ししていくことこそが、今の時代の広報に求められる役割ではないでしょうか。
CASE
社会における価値の創出に向き合う
大和ハウス工業では、「人・街・暮らしの価値共創グループ」として、絶えず変容する社会の要請に応える事業を推進しています。社会の在り方、人の暮らし、既存の価値が大きく変化する中、私たちが重視しているのは、社会価値の創出と提供です。
例えば、当社のヒット商品である「家事シェアハウス」では、家事の悩みという社会課題を「名もなき家事」として言語化し、住宅という領域で解決する価値を提供してきました。
今後も新たなニーズや課題をとらえ、それに対応する価値を提供、さらにはサステナブルな社会の実現に貢献していきたいと考えています。