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記者の行動原理を読む広報術

記者の「報道」という立場を理解した上で、良い条件を引き出す

松林 薫(ジャーナリスト 社会情報大学院大学 客員教授)

ITの進歩やステークホルダーの拡大を背景に、広報の仕事は日々、増えつつある。Twitterでつぶやく、自社メディアに記事を配信する、これも今や立派な広報業務。しかし、「広報」の原点とは。それは「記者との交渉相手」だ、と本稿著者は語る。

この春に広報に配属された人は、そろそろ職場の雰囲気に慣れてきた頃だろうか。広報として初めて決算発表や株主総会のシーズンを迎え、てんてこ舞いしている人もいるかもしれない。そんな中で、「広報の仕事とは何なのだろう」と改めて思いを巡らすこともあるはずだ。今回は記者の立場から見て、広報とはどんな存在なのかを考えてみたい。

記者にとって「広報」は交渉相手

一般の人が「PR」という言葉を聞くと、広告・宣伝に近いイメージを持つのではないだろうか。かく言う筆者自身も、記者になるまではそういうニュアンスで理解していた。企業広報であれば、「会社を代表して商品や自社の取り組みについて世間に伝える人」ということになる。この定義が間違っているわけではないし、「PR会社」の仕事については確かにその側面が強いのは否めない。

ただ、PRが「public relations(直訳すれば公的な関係)」の略であることからも分かる通り、実際の業務範囲はもっと広い。だから最近では「広報」ではなく「渉外」と訳すケースもある。日本では「営業」のニュアンスを含むのであまり使われないが、記者の立場から言えば、こちらの方がしっくりくる。

というのも、渉外という言葉には「交渉」や「外交」の意味が含まれているからだ。記者にとって広報とは「交渉相手」なのである。

立場異なる「ビジネス」と「報道」

もちろん記者にとって広報は「プレスリリースを出し、質問に答えてくれる存在」でもある。いわゆるスポークスパーソンだ。しかし、現実の取材・執筆活動の中で記者と広報の間で行われているのは、単なる情報のやり取りではない。むしろそれ以上に重要なのが、ビジネスと報道という立場の違いから生じる「駆け引き」なのだ。

広報としては、メディアを通じて自社のポジティブな面を広く伝えたい。逆に、不祥事などネガティブな情報はなるべく外に出したくないと考えるだろう。一方、記者の側にとって、情報がポジティブかネガティブかはあまり関係がない。「ニュース価値がどれだけあるか」が判断基準になっているからだ。

例えば、「世界で初めて自動車向け全固体電池の量産を始める」とか、「所属選手がオリンピックで金メダルを取った」といったニュースなら、記者と広報の利害は一致する。大きく報じることはウィン・ウィンなので取材もスムーズに進むだろう。

問題は、「製品に深刻な欠陥が見つかった」「工場の撤退により地元で多くの雇用が失われる」といった...

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