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データで読み解く企業ブランディングの未来

『無自覚』が引き起こす ソーシャルメディア炎上

Supported by 企業広報戦略研究所

企業の広報戦略・経営戦略を分析するプロが、データドリブンな企業ブランディングのこれからをひも解きます

今回のポイント
① 企業の不信は損失へ 炎上≒営業活動の制限に
②「炎上に遭う」という被害者意識は危険
③ 発信では「誰かが傷つかないか」を意識して

ソーシャルメディア上で短期間に企業への批判や非難が集中する、「炎上」事例にしばしば注目が集まります。しかし、TwitterやInstagramなどの活用は、いまや企業広報にとって欠かせません。そこで今回は、近年の潮流を踏まえたソーシャルメディアへの向き合い方について考えます。

緊急時対応力を重視

2019年に当研究所が行ったリスクマネジメント力調査によれば、企業が今後強化したいリスクマネジメント力の上位に、「緊急時の対応力」に関する事項が並びました。この「緊急時」の中には、当然ソーシャルメディアにおける炎上なども含まれています。

また、同調査では、一般生活者の企業不祥事に対する意識も調査しており、「不祥事があればその企業の商品・サービスを購入・利用しない」という回答が3分の1を超えました。さらに、「その商品・サービスの不買を身近な人にすすめる」という回答も15%ほど認められ、生活者は企業の不祥事に対して非常に厳しい見方をしていることが浮き彫りになりました(図1)。

図1 企業の事件・事故・不祥事を知った際のアクション
「リスクマネジメント力調査2019(一般生活者調査)」
調査手法:インターネット調査/調査対象:20歳~69歳の全国の男女
調査実施期間:2019年8月30日~8月31日

上位項目を掲載
*詳細:https://www.dentsu-pr.co.jp/csi/csi-outline/20191213.html

炎上が起こると、企業のレピュテーションを損ねるだけでなく、売上への直接的なダメージも発生しかねません。さらに炎上中、その対応に社内の人的リソースが割かれ、営業機会の損失につながる可能性も考えられます。

生活者の大半が手軽に多くの情報を得られるようになった現在、昔とは比べものにならないくらい、企業を見る「眼」が厳しくなりました。今や企業は、社会全体から常時監視されているともいえる状態です。ひとつの投稿が思わぬ大炎上を招くなど、ソーシャルメディア普及前の時代と比べ、ネガティブな声が顕在化しやすくなっています。

特にソーシャルメディアでの話題の広がりとニュースメディアでの広がりが重なった場合には、その相互作用で長く話題にされ、大炎上に発展してしまうケースも多くあります。

炎上には理由がある

一方、炎上した企業に聞くと、「たまたま被害に遭ってしまった」という反応を見かけます。「運悪く炎上した」「発信の揚げ足取りをされた」という捉え方です。突如炎上に遭遇した企業側から見れば、こうした考えが生じるのはやむを得ないとも感じますが、実は間違った認識です。

炎上は多くの場合、企業側の発信に何らかの問題があります。全く問題がないのに炎上するケースは稀です。企業側に本当に瑕疵(かし)がなければ、たとえ炎上しかかってもほどなく沈静化します。炎上の最大の要因は、企業側が自身の間違った認識を自覚していないところにあります。

社会的課題と向き合う

では、どうすればよいのでしょうか。最近炎上した事案は、「ジェンダー、セクシュアル問題」「企業倫理」「差別、格差」など、グローバルで注目度の高い社会的課題に抵触したものが目立ちます。炎上を防ぐにはまず、常日頃から社会的課題に関する感度を高くしておくこと。何が問題になるのか、どのようなリスクがトレンドなのかなど具体的な事例をストックし、社内で共有することです。そして、発信に際してはそれらに抵触していないかを丁寧にチェックします。

このとき、ひとつの物差しとなるのが「特定の誰かを理由なく傷つける表現をしていないか」です。図2は、その視点からソーシャルメディアへの発信を簡便にチェックできるリストです。

☑性別・障害・人種・国籍差別にあたる表現になっていないか

☑職業差別や労働者の権利侵害にあたる表現になっていないか

☑マイノリティーの人々の立場からも検討されているか

☑宗教全般または特定の教義を誤解させたり、信者を傷つけたりする表現になっていないか

☑そのときの社会情勢(災害、大事故)に対して、配慮が欠ける表現はないか

図2 公式でSNSを使う際のチェックリスト

守りから攻めの広報へ

慎重な発信で、炎上のリスクは下がります。しかしこれでは、ひたすら地雷を踏まないように、おそるおそる瀬踏みしている状態であり、企業広報のもつ本来の発信力やダイナミズムが十分に発揮できません。

そこで重要なのは、守りの広報から攻めの広報への視点の転換です。つまり、社会的課題に抵触しないことは無論のこと、その先のレベルである、課題を解決するという姿勢をアピールするのです。

昨年、Black Lives Matter(BLM)問題に対するテニスプレーヤー・大坂なおみ選手の勇気ある情報発信に対し、ナイキは、いち早く議論の中心にいる大坂選手を支持するステートメントを発信し、差別を克服する姿勢を表明。これによって、同社のレピュテーションは一気に高まりました。

一方、ソーシャルメディア上での発信は一夜にして企業のレピュテーションを一変させてしまう力もあります。前にも触れましたが、特に昨今はジェンダー視点など人権全般について企業としての認識をアップデートしておく必要があります。リスクには細心の注意を払いつつ、ソーシャルメディアの潜在的な力を引き出すような積極的な運用が、今後の企業広報の可能性を大きく左右するでしょう。

企業広報戦略研究所 主任研究員
(電通パブリックリレーションズ リスクマネジメント部 危機管理コンサルタント)
池田愛之(いけだ・あいし)

食品メーカーのPRコミュニケーションを中心に、大型商業施設開業におけるコミュニケーションや、BtoB/Eコマース企業の広報支援など、クライアントの窓口として、プランニング&コンサルティングを提供。2018年7月から現職。
リスク発生時の緊急記者会見やネット炎上案件への対処のほか各種リスクガイドラインの作成やトレーニング、ワークショップの開催を通じて危機管理広報、コーポレートコミュニケーション戦略の立案・支援に従事する。

企業広報戦略研究所は電通パブリックリレーションズ内に2013年に設立。企業経営や広報の専門家(大学教授・研究者など)と連携して、企業の広報戦略・体制などについて調査・分析・研究を行う。https://www.dentsu-pr.co.jp/csi/

OPINION

メディア記事によるボヤの炎上化サイクルに注意

この数年の炎上事例における明確な変化は、たいして炎上していないボヤ程度の騒動が、メディアにより「炎上」と報道されることで、実際に炎上状態になるケースが増えたことでしょう。

『鬼滅の刃 遊郭編』をめぐる議論が象徴的でしたが、芸能人の発言や、人気アニメをめぐって賛成派と反対派に分かれて議論が発生すると、数十名程度の議論の状態を「炎上」と一部ネットメディアやまとめサイトが取り上げることが増えています。その結果、議論がスポーツ新聞など既存メディアにも記事化され、ツイッターのトレンド入りしたり、ポータルサイトでも取り上げられたりすることで、炎上状態が現実化してしまうのです。

広報の方にとっては大変な時代といえますが、従来よりも初動対応がさらに重要な時代になっています。

noteプロデューサー/ブロガー
徳力基彦氏

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