新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
新型コロナウイルス感染症の影響で外食産業が大打撃を受ける中、市場規模を拡大しているのがフードデリバリー業界。その代表格といえる出前館に取材をしました。紹介するのは、2020年夏に博多とんこつラーメンの人気チェーン・一風堂が加盟店に加わったことを知らせるリリースです。
出前館のウェブサイトには加盟店募集のボタンがあり、店舗側から応募するケースもあれば、営業チームのリサーチにより出前館から提案するケースもありますが、コロナ下においては飲食店側からの応募が急増しています。
一風堂は以前から自宅で調理できる生タイプの即席麺を販売していて、さらなる販路拡大を模索しているタイミングでした。ちょうど出前館も以前から一風堂に関心を持っており、昨年夏に加盟が成立したといいます。
出前館のようなビジネスモデルの場合、メーカーのように新商品を出すわけではないので、リリースのネタに困る広報も多いのですが、今回のように、タイアップ企業の著名性を活用するのは有効な手段です。一風堂といえば国内外で300店舗ほどを運営し、根強い固定ファンも数多く存在します。そんな人気チェーンが加盟したとなれば、メディアの注目度が高まるのは間違いありません。
出前館では大手・中小企業を問わず、消費者に知名度の高い加盟店があればリリースを配信し、ほかの加盟店もコーポレートサイトで紹介するようにしています。リリースは、一風堂から配信したものをベースに出前館側で編集しています。ここからはリリースを見ながら解説をしていきましょう。
企業名をメインビジュアルに
(ポイント1)まず、当たり前のことですが著名性のある企業名をタイトルの目立つ位置に配置し、メインビジュアルとともに訴求しています。
そしてメインビジュアルは通常、商品写真を載せるケースが多いのですが、
(ポイント2)文字だけで構成したものをドーンと1点使うことで、写真よりも大きなインパクトを与えています。
「当社も普段はメニュー写真や配達員が手渡している写真を載せていますが、今回は一風堂さんがリリースのキービジュアルで『出前館はじめました』と書いてくださり、デザインも赤地でとても目立つものでした。私たちもタレントの浜田雅功さんが出演するテレビCMで『出前館』の名前を広くアピールしている時期だったので、そのまま活用することに決めました」と話すのは、コミュニケーショングループPRメディアリレーションの濱本愛さん。
どの加盟店でも、特に抽出するのはデリバリーに参画することへの「思い」だといいます。一風堂の場合は「新型コロナウイルスで店に行きたくても行けない人に熱々の麺を食べてほしい」という理由が書かれており読み手に響きます。その言葉通り、一風堂はデリバリー専用のオリジナル麺を開発。出前館もエフピコと共同で汁漏れしにくい容器を開発していたおかげで、店舗でも人気の、麺が硬い「バリカタ」を提供できるようになったのです。出前館ではこうしたデリバリー用品を開発する「仕入館」も運営しています。
(ポイント3)2枚目では自社のビジネススキームを図解しています。フードデリバリーはまだ歴史が浅く、一般的にはよく知られていないところもあります。定型フォーマットにして毎回掲載することで浸透を図るとともに、メディアがデリバリー業界の特集として取材する可能性も高まります。
配信はリリース配信サイトと記者クラブ、自社リストを使ったメール配信などで数百件。「BCN+R」(BCN)などのニュースサイトに掲載され、「Yahoo!ニュース」(ヤフー)「グノシー」(Gunosy)「ウレぴあ総研」(ぴあ)「ライブドアニュース」(LINE)などに転載されました。
出前館は、リリース配信時に現地で積極的な展開をすることがあります。例えば...