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データで読み解く企業ブランディングの未来

今こそ見直す広報効果 慣習を断ち切り測定を

Supported by 企業広報戦略研究所

企業の広報戦略・経営戦略を分析するプロが、データドリブンな企業ブランディングのこれからをひも解きます

今回のポイント
① 広報効果測定の実態、ターゲットと測定対象にギャップ
② KPIの目的に沿って、測定ツールを選択することが重要
③ SDGs時代の新たなKPIに留意する視点

本誌2月号のアンケート調査の結果では、広報活動の効果測定を実施している企業が8割を超えています。重要度が増している効果測定について、各企業はどのように取り組んでいるのでしょうか。

その測定は目的に即しているか

従来の広告換算という手法に疑問を持った広報担当者は、新たなKPI設定に取り組み始めています。広告換算が導き出す、情報発信の量的成果に対し、「せっかく広告とは異なるアプローチとしてPRを選んだのに、果たしてそこに成果を求めていいのか」と疑問に感じた広報担当者も多く存在します。

もちろん広告換算は指標のひとつであり一概に否定はしませんが、本質的な成果を測るものではない、というのはもはや周知の事実と言えます。GDPRなど常に社会環境をスピーディに反映させ“透明性”を重視したPR効果測定の原則「バルセロナ原則3.0()」でも、「広告換算はコミュニケーションの価値を測定するものではない」と明確に宣言されています。併せて「ゴール設定は必須」「目標に対する具体的成果を抽出するべき」「成果評価は量のみならず質も見るべき」と言及されています。

*バルセロナ原則:国際機関AMECが2010年発表した、PRの効果測定に関する7原則。2020年に改定され、「バルセロナ原則3.0」となった。
1.ゴールの設定は、コミュニケーションのプランニング、測定、評価に絶対的に必要なものである。
2.測定と評価はアウトプット(施策の成果)、アウトカム(目標に対する成果)に加え、潜在的なインパクトを明らかにすべきである。
3.ステークホルダー、社会、そして組織のために、アウトカムとインパクトを明らかにすべきである。
4.コミュニケーションの測定と評価は、質と量の両方を含む必要がある。
5.広告換算はコミュニケーションの価値を測定するものではない。
6.包括的なコミュニケーションの測定と評価には、オンラインとオフラインの両チャネルを含む。
7.コミュニケーションの測定と評価は、学びとインサイトを導くため、誠実さと透明性に基づくべきである。

根本にあるKPI設定のズレ

乱暴な言い方をすれば、これまで企業は扱いやすい広告換算という指標を、前例踏襲で採用してきたのではないでしょうか。露出が多ければ社内的な報告がスムーズにいくなど、違う観点でその指標が使われてきたのかもしれません。本来的な意味で言えば「広報活動の目的」に沿って、それら各種活動がなされてきたのかをトレースすべきなのは明らかです。

しかし企業広報戦略研究所が調査をしたところ「目的と指標」の大きなギャップが浮かび上がってきました。この調査によれば、「広報活動における重要なステークホルダー」として1位「株主・投資家」、2位「顧客」がランキングされています。すなわち「株価や企業価値評価」や「製品・サービスの売り上げ」といった事業活動そのものに直接影響を及ぼすターゲットを最重要視しているということです。

一方、広報効果測定として最も採用されている指標が「新聞や雑誌で報道された件数、分量」となっており、ここで既に大きなギャップが生まれています。もちろん「ニュースメディア等への露出」によって、企業価値が高まる、商品が売れるという二次的効果は見込めますが、その前に2大ターゲットに対し、他に効果的な活動がないのかを、よりフラットな視点で検討し、活動・トレースしていくことを考えてもいいのではないでしょうか(図1・2)。

図1 広報活動における重要なステークホルダー(左)
図2 広報効果測定に関する活動(右)

調査対象:東証一部・二部、東証マザーズ、ジャスダック、札証、名証、福証に株式上場している企業/調査期間:2020年5月22日~2020年8月25日/企業広報戦略研究所調べ

ソーシャルメディア浸透と指標

「バルセロナ原則3.0」では、ソーシャルメディアのさらなる浸透を背景に、オンラインコミュニケーションの重要性にも触れ、効果測定に組み込むべきとしています。ここで課題となるのは、従来のニュースメディアとソーシャルメディアが同じ指標で測定できるかということ。ソーシャルメディア上での情報拡散や情報接触の価値は、以前とは異なり大きく拡大・向上しており、これらを一括して見る指標設定が必要となってきます。

そこで企業広報戦略研究所を社内組織として有する電通パブリックリレーションズは、広報施策が市場や社会に与える影響を、論理的かつ包括的にとらえる考え方「Reputation Matrix®」を開発しました。これは、従来の効果測定の手法を体系的、網羅的に活用するものです。

「Reputation Matrix®」についての詳細はこちら。
https://www.dentsu-pr.co.jp/servicemenu/survey/reputation-matrix.html

ソーシャルリスニングや報道調査、企業魅力度調査などを組み合わせ、オンライン/オフラインの広報施策の影響を「レピュテーション」と「リーチ」という質と量の両面から把握します。レピュテーションではステークホルダーにおける評価(評判)を定量と定性の両面でとらえ、リーチではメディア露出の量をとらえます。これらによって、単なる量的な影響の大小だけでなく、影響の内容、たとえば情報の受け手における賛否の反応など定性的な部分も把握できます。

効果測定は、次の活動をより良いものにしていくステップとなるデータです。同じ指標で、継続した調査から学びを得ることこそ、本来の目的に近づく道筋と言えます。効果測定において最も重要なことは「求める効果とは何か」という目的の明確化であり、それに適した効果測定方法を選択し、それを継続すること。今こそ、これまでの効果測定を見直し、新たな一歩を踏み出すべきタイミングと言えるでしょう。

企業広報戦略研究所 上席研究員
(電通パブリックリレーションズ コーポレートコミュニケーション戦略局 リサーチ&コンサルティング部 部長)
酒井 繁(さかい・しげる)

企業のコーポレートコミュニケーションにおける戦略立案、リサーチ経験を活かした戦略PR活動に従事。その後、アパレル、運輸、流通などBtoCビジネスのディレクション業務を経て、2015年より現職。企業広報領域におけるリサーチを核としたプランニング及びコンサルティングを担当。
企業広報戦略研究所は電通パブリックリレーションズ内に2013年に設立。企業経営や広報の専門家(大学教授・研究者など)と連携して、企業の広報戦略・体制などについて調査・分析・研究を行う。https://www.dentsu-pr.co.jp/csi/

COLUMN

SDGs時代における最新KPIの登場

電通パブリックリレーションズは企業、自治体、団体の活動や製品・サービスが生み出す社会への好影響を分析し、数値化する指標「Social Impact Factor」を慶應義塾大学と開発しました。SDGsへの取り組みを軸に社会的価値を測る指標のひとつになり得ると考えています。今や経済活動において、社会課題解決への意識は欠かせません。経済とブランディングの両面から複合的に分析・数値化することで、より投資効果の高い事業展開をサポートすることを目指しています。

出所/著者作成

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