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何から着手?どう効率化?ゼロから始める「ひとり広報」

できることが限られる「ひとり広報」 目的を整理して取り組もう

真鍋順子(BAKE 企業広報室 室長)

ひとりで広報を始めるにあたっては、業務に優先順位をつけ取り組んでいく必要がある。ここでは、「ひとりで始める広報活動基礎講座」(宣伝会議 主催)の講師に、受講生である広報担当者からのお悩みに答えてもらった。

メディア人脈をどう作る?社内の情報収集は?

──広報に着任したばかりですが、コロナの影響でメディアへ直接訪問もしにくくリレーション構築に苦戦しています。

私も初めて広報になった時、社内に相談できる人がいない状態からのスタートでした。メディアの方が登壇する広報勉強会などに出席し、挨拶する機会をつくったりしていましたね。

コロナ禍の外出自粛で、人脈がない状態からのスタートは厳しいですよね。それでも会社がメディアリレーションズに期待しているなら、一時でも予算をつけてもらって、関係が築けるまで、PR会社やフリーランスのPRプランナーの方に並走してもらい、ネットワークを広げていくのも手だと思います。またコロナの時期は、人脈の「広さより深さ」と考えてみてはどうでしょう。今あるリレーションを深めることに注力し、いいネタがある時は取り上げてもらえるような関係を築いておくということです。

メディア側もオンライン取材が進み、移動時間がない分、いろんな取材ができるようになったと聞きます。時流にあった本当にいいネタなら、突飛なことをしなくても、メディアから問い合わせが来ます。リリースやオウンドメディアを使った発信など、気づいてもらう活動をすることが前提ですが。

──リモートワーク中でも、社内から広報ネタをスムーズに集めるにはどうしたらいいでしょうか。

会社のキーマンと日頃から仲良くしておく必要があります。でもキーマンは忙しい。話しかけるタイミングに気をつかいますね。ゼロから「何かないですか?」と聞きに行くのではなく、事業の情報が入ってくる会議に参加しておいて「今、こういう動きがありますよね、広報ネタになりそうな気がするのですが」と話しかけてみましょう。もちろん会議のメンバーが限られ、参加できないこともあります。その時は、会議に出ている担当役員からネタを集め、資料だけは見せてもらうなどして、ヒントをつかみましょう。

押さえておきたい広報活動の基本

出所/著者作成

SNSの炎上対策は?何を投稿する?

──SNSの「中の人」をしていますが、炎上が怖いです。具体的にどういった点に気をつけるべきでしょう。

会社の事業内容、業界特性、会社の成長ステージ、経営状況によって注意すべき点は変わります。なので一概には言いづらいですが、予め法務担当を交えてリスクを洗い出し、運営ガイドラインを作っておきましょう。過去の炎上事例をもとに、自社の場合は、こういうことが起きる可能性がありそうだ、と予測を立て、リスト化しておくといいですね。同業他社の炎上事例は確認しておいたほうがいいです。

とはいっても、ひょんなことから炎上は起きるもの。後から振り返れば、「こういう書き方をしなければよかった」と気づいても、何人かで投稿内容をチェックしていたのに炎上、ということもあり得ます。そんな時に備え、炎上の影響が最小限で済むよう、対応フローをつくり、有事に備えましょう。

──SNSで何を投稿すればいいか、悩んでいます。

闇雲にSNSを運用していないでしょうか。そもそも広報として誰に何の情報を届けないといけないのか、目的とターゲットを整理した上で、SNSに取り組む必要があります。SNSを始めるなら、ターゲット層に合うのは、TwitterかInstagramか、と考えていきます。「上から指示があったから」「流行りだから始める」というのは危険。本当にSNS運用の必要があるのか?何の目的で運用するのか、整理しましょう。

例えばBtoB企業でTwitterを運用するなら、つぶやくことで、売上が上がるのか?記者が見ているのか?採用につながるのか?などと疑ってみます。すると自社なら、Twitterよりも、ウェビナーの実施や、公式サイトに事例記事を出すほうが目的に合うな、などと気づくはずです。すると、ウェビナーの内容を公式サイトで記事化して、Facebookで発信しよう、といった投稿内容のアイデアもわくはずです。

運用にあたっては、広報担当者だけでSNSネタを考えるのは大変です。目的が事業に紐づいたものならマーケティング担当と、採用目的なら人事担当と協力して運営しましょう。

私の場合は、BtoC企業に移ってから、コンシューマーに直接情報を届けるTwitterやLINEの大事さを知りました。キャンペーンの発信にユーザーが反応し、商品が売れて話題になると、テレビ取材につながることもあります。またデザインにこだわったブランド展開をしているので、Instagramも重視しています。SNSからの取材獲得はハードルが高いかもしれませんが、どんなネタを発信すると、時流にあっているのかを考えるプロセスは、メディアリレーションズと同じです。

企業ブランディング、まず何から取り組む?

──企業ブランディングの強化を指示されました。何をゴールに取り組んだらいいのでしょうか。

広報担当者として、自社の企業ブランディングは今、何が課題なのかを考えて、提案できると一番いいですね。組織の内外からの評判に常に耳を傾けている広報なら、自社の課題を把握して、あるべき姿とのギャップを見つけることができるはずです。広報が何も提案をしないと、上から指示が飛んで来てしまうわけです。「企業ブランディングを強化してほしい」と指示を出した人が何を期待しているのか、よく確認しておく必要もあります。

ブランディングを含め広報については、私も日々勉強を続けていますが、広報がブランディングの基礎知識を学んでおくことは大切です。どのような会社と見られたいのか、社内外にいつ・どのような発信をすれば企業ブランディングの向上につながるのか、まずは自分で考え、そこから経営陣とディスカッションしたりしながら、考えをまとめてみてください。

私が所属しているBAKEでは、コーポレートブランディングの一環として、ミッション、ビジョン、バリューの改定に取り組んでいます。なぜ今改定する必要があるのか、根拠資料を作って、経営陣を口説き、予算をつけることから始めました。着手した背景には、自社の経営体制の変化による組織強化の必要性、スイーツ業界の競合環境の変化、コロナの影響による消費環境の変化、ESG経営へのシフトの必要性などが挙げられます。

広報は、経営の一つの機能です。経営者と一緒に、ヒト、モノ、カネの経営要素について、課題を解決していく立場にあります。課題が何か、経営者と共通認識ができれば、広報として何ができるか提案しやすくなります。

課題解決にビジョン改定が必要だと思えば、取り組めばいいですし、売上拡大のためにメディア露出が必要だというならば、情報発信を強化していけばいいのです。

ブランディングツールの制作はあくまで情報発信のひとつの手段。制作することが目的にならないように、全社的な経営状況に鑑み、費用対効果や適切なタイミングを見計らって制作するといいですね。今、何に着手すべきか、見極めるようにしてください。

「経営課題を解決していく仕事をしているのだ」と考えれば、広報活動が単なる業務ではなくなり、もっと楽しめるのではないでしょうか。

広報のKPIとは?優先順位をどうつける?

──新設した広報部門で、活動の効果をどう測定するか、考えています。KPIを数値でと言われていますが、具体的にどう考えればいいのでしょう。

企業の成長ステージや事業内容によってKPI(中間指標)は異なりますが、例えば立ち上げたばかりの商品や事業があって、そのブランドのSNSも立ち上げた、というタイミングなら、KPIのひとつにフォロワーの増加が入ってくるでしょう。一方で、軌道に乗ってきたタイミングでも、フォロワーの「数を増やす」ことが、広報にとっての目標として相応しいか、は考えてみる必要があります。

例えば、新ブランドに関心を持ってくれた人たちと、SNSを通じて良い関係を構築し、共感してもらえるブランドにしていくことが広報活動の目的なら、ブランドの好意度が、SNS施策の前後で向上しているかをKGI(最終目標)とし、いいね数やコメント数をKPIにするといった考え方があるかもしれません。

私は前職で、採用広報を担当することがあったのですが、応募者数がKPIと言われ、それは広報のKPIだろうか、と戸惑った経験があります。経営視点では、いい人を採用することが課題ですが、広報は、自社への理解度や入社意向が高まったのか、を追求していくものと考えていたからです。もちろん、広報担当者が人事も兼務している状況なら、応募者数がKPIというのは正解なわけで、状況に応じて設定していく必要があります。何のためにPRしているのか、目的は何か、逆算していくと適切な目標数値が出てきます。

ちなみに、広報と人事を兼務する場合、会社が成長期で、一気に人を雇わないといけないタイミングというケースもあるでしょう。スタートアップ企業でひとり広報の場合、経営課題が多岐にわたっていても対処できることは限られます。案件が同時に複数やってきた時は、「優先順位はこう考えていて、スケジュールはこうしようと思っている。Aの案件はすぐ着手できるが、Bの案件は来週になるので、待っていてほしい」などと相手に伝えると、安心してくれると思います。

「急ぎです」と言われる案件が多い時は、「本当に急ぐのはどれだ?」と自問します。最優先は、緊急事態への対応です。絶対に出たいテレビ番組から問い合わせがきたら、もちろん即対応しますが、同じタイミングで緊急事態が発生したら、先に緊急事態に対処して、ほぼ同時並行でテレビ対応する。見極めが大切ですね。

ひとり広報担当へのアドバイス

❶メディアリレーションズ

コロナ禍の外出自粛で人脈を広げづらい時は、「深さ」を重視。外部の力を借りるのも手。

❷社内の情報収集

経営会議に参加している役員に話を聞く、資料を見せてもらうなどして情報収集。それをもとに、広報ネタを持っているキーパーソンに話しかけよう。

❸炎上対策

SNSガイドライン、炎上が起きてしまった時の対応フローを作成しておく。自社で起こりうる炎上のパターンの研究を。

❹SNSの運用

誰に何の情報を届ける必要があるのか、目的を整理してからSNSの運用を始めよう。目的に応じた投稿を。

❺企業ブランディング

今の経営課題は何か、広報視点で考え、どんなブランディング活動が必要か提案できる広報担当者になろう。

❻効果測定

何のためにPRしているのか、目的は何か、逆算していくと適切な目標数値が導き出せる。

❼仕事の優先順位

緊急事態への対応を最優先に。本当に急ぎの案件から優先順位をつける。予め相手にスケジュール感を伝えると、安心してもらえる。

BAKE 企業広報室 室長
真鍋順子(まなべ・じゅんこ)

SMBC日興証券にて営業を担当後、留学しマーケティングを専攻。帰国後、IR支援会社でIRコンサルティングに従事。その後、IT関連企業にて約12年間、社内外向けのPR・IR業務を主幹。2019年よりBAKEにジョイン。副業としてスタートアップの広報顧問も担う。

ゼロから広報を始めるためのステップについてもっと知りたい方は、真鍋氏も登壇している宣伝会議の「ひとりで始める広報活動基礎講座」(オンライン)を活用ください。

https://www.sendenkaigi.com/class/detail/basic_pr.php

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