新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
最近、よく耳にするようになった言葉のひとつに「食品ロス」があります。まだ食べられるのに捨てられる食品のことで、これを減らそうという意識が世界的に高まっています。
食品メーカーの大手・ハウス食品グループ本社も、家で残ってしまった食材をカレーにして消費しようと呼びかける「“もっとカレーだからできること”プロジェクト」を2020年5月にスタートし、ホームページ開設に合わせてリリースを配信しました。このプロジェクトは近年注目されているSDGsの取り組みでもあります。
プロジェクトが始動したのは2019年4月のこと。同社には、もともと社会的課題に対する自社の取り組みを発信していこうという意識がありました。
ちょうど同年5月に食品ロス削減推進法が公布される動きもあったことから食品ロス対策を推す声が上がり、企画制作課長の生田幸平さんが所属する広告統括部など、複数の部署を横断した6~7人ほどのメンバーでスタート。まずは実態を知ろうと、会員サイトの登録者にアンケートを取りました。そして10月に法律が施行されます。
内食が増えたコロナ禍に発信
本来はもう少し早い時期に発信する予定でしたが、「押しつけがましくない発信をするにはどうすればいいのか」と検討しているうちにコロナ禍に突入。内食の需要が高まり、食品ロスの話題を発信するのに適していると判断して2020年5月15日からのテレビCMに先駆け、5月13日にホームページ開設・リリース配信となりました。
広報・IR部の広報チームも、今回のプロジェクトの動向はスタート時から把握しており、配信のひと月ほど前からリリースの準備を開始。生田さんがまとめたものをたたき台にして絞り込んでいったといいます。それでは、実際のリリースを見ながら話を進めていきましょう。
タイトルにはホームページを開設したことを入れ込んでいます。単に「プロジェクトが始動」したといっても、具体的な動きがなければメディアとしては捉えようがありません。その点、(ポイント1)現代ではホームページという便利なツールがあるので、大がかりなイベントを開催しなくてもプロジェクトを始動でき、リリース配信のいい機会となっています。
本文では冒頭にプロジェクトの内容と背景を載せています。私もカレーの専門家なのでよく分かりますが、カレーはスパイスの力でどんな食材もおいしくまとめてくれること、プロジェクトをきっかけに食品ロス問題に関心を持ってほしいことなどが無駄なく伝えられています。(ポイント2)ダラダラと文章が長く、的が絞れていないリリースも多いので、核心部分を簡潔にまとめることが大切です。
1枚目後半からは、ホームページの内容をダイジェストでまとめています。まずはアンケート結果をグラフや表で分かりやすく表示。このプロジェクトでは、事業系の食品廃棄もさることながら、家庭系も匹敵するくらいに多いことを訴えています。また、野菜以外にも乳製品や大豆製品、肉類などが多いということが伝わるよう、アンケート結果を上手に活用しています。
(ポイント3)アンケートは、本文の主旨とつながるような結果を抽出できてこそ、説得力が増します。食材の項目は、選択肢でなく自由回答にしたことで集計に時間がかかったといいますが、そのぶんリアルな結果が得られることになりました。
ホームページでは次に、廃棄しがちな食材を活用したカレーレシピを多数紹介しています。生田さんがリリースに2つのレシピを載せたのも理由があってのこと。
1品目の「豆腐とキャベツのカレー」は、廃棄しがちで、かつ通常はカレーに入れない豆腐と葉もの野菜という、プロジェクトを象徴するメニューでキャベツの緑も目を引きます。2品目は...