「〇〇してください」「〇〇禁止」。そう呼び掛けても、人はなかなか行動を変えてくれない。それはなぜか。行動科学のインサイトを使って広報実務を点検します。
年度末になると有給休暇の消化具合が話題になります。厚生労働省によると2019年の日本の年次有給休暇の平均取得率は56%。この数値は、制度的には有休が利用できるにもかかわらず、現実的にはあまり取得できていないことを表しています。なぜでしょうか。
メニューだけでは選ばれない
日本企業では多くの場合、有休は従業員が自ら申請して取得しなくてはいけません。手間がかかる上に、「みんなに迷惑がかかるかもしれない」といった罪悪感が生じ、自発的に取得しづらくなると考えられます。「有給休暇を年間20日取得できる」といった選択メニューを用意して、利用を呼び掛けるだけでは、従業員はその選択の機会を十分に活かすことができないわけです。
それならばということで近年広がっているのが、企業が従業員に有休取得日をピンポイントに割り振る「計画的付与制度」です。自分から申請する手間や罪悪感が軽減されるのでしょう。制度を取り入れた企業では取得率が高くなっているようです。
この有休の事例は、行動科学的には、デフォルト(初期値)に設定された選択肢が選ばれやすくなる「デフォルト効果」と見ることができます。他に...