新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
「○○大賞」や「○○オブ・ザ・イヤー」など、業界ごとに優れた商品を顕彰するコンテストは、大小多数あります。有名な「本屋大賞」は、選ばれた本が10万部以上売れることもあり、書店員たちも盛り上がり、業界の活性化にも大いに役立っています。
けれどごく一部の賞を除いて、その話題を目にすることが少ないと思いませんか?それはPRをほとんどしていないからです。主催者が広報・PRのやり方を知らず、せっかく表彰式を行ってもメディアを招かず業界内だけで完結しています。
結果もホームページに掲載するだけでリリースを配信しないため、メディアに取り上げられることもないのです。それでは受賞した商品の売れ行きが伸びるわけもありませんし、非常にもったいないと思いませんか。
そこで今回は、リリースが上手で、しっかりPRもできている「時計屋大賞」を取り上げたいと思います。「時計屋大賞」は2019年に始まりました。主催はファッションウォッチ振興会という任意団体です。メンバーは時計ショップの社長や時計のライターなどで構成され、こうしたコンテストではよくとられる形態です。
「時計屋大賞」を始めた背景には、若者を中心とした“腕時計離れ”があるようです。携帯電話やスマホが普及し、腕時計を身につけない人が増えているといいます。また腕時計には高価なイメージがあるので、買い求めやすい価格帯の「ファッションウォッチ」に焦点を当てているのが特色です。
私も腕時計にはあまり詳しくありませんが、明確な年間統計データがないくらい多くの新商品が発売されるそうです。日本のメーカーだけでなく、時計の本場である海外メーカーからも多数輸入されるのが多さの要因のひとつです。2019年はまず1000商品をエントリー。全国のショップ店員の投票で全体の最高金賞を選んだほか、国別の部門賞も選定しました。
表彰式がメディアに取り上げられたあと、全国のショップでフェアを開催。自分の経験から考えても、腕時計は商品が多すぎて選び方が分からず、なんだかんだ店員に勧められるままに買ってしまいがちです。そんな時、「受賞商品」があると選ぶ目安になりますし、店員も勧めやすいものです。
また、腕時計はギフト需要も高く、プレゼントする際に「受賞した商品」という物語があると贈りやすいものです。こうした背景もあり、2019年の受賞商品は売上が大いに上がり、その効果が顕著だったため第2回の開催となりました。
2019年はクリスマスギフトの時期に合わせて12月5日に表彰式を行いました。しかし、それでは直前すぎるということで2020年は前倒しで行うべく、2月にはすでに企画が動き出しました。ところがその直後、ご存知のようにコロナ禍に突入しました。
コロナ禍ならではのテーマ設定
2019年は国別の部門賞を設けましたが、2020年は新たなテーマを検討していました。ところが、コロナ禍により再検討が必要に。そこで「服装心理学」の専門家を招いて話し合う中で、感染症への不安や行動制限での閉塞感に陥りがちな現代人が「ポジティブ」になれることを柱に、「ストレスフリー部門」「エネルギーアップ部門」など6つの部門を創出しました。
緊急事態宣言が解除され、7月にエントリー商品1000品番を決定。8月に選考委員会が1000商品の中から27品をノミネート。9月に47都道府県の時計店スタッフ200人が投票を行い、11月10日の「腕時計の日」に記者発表をしました。
では、そのリリースを見てみましょう。こうしたコンテストは大賞だけでなくいくつかの賞を選ぶので、必然的に情報量が多くなります。それが散漫にならないよう...