衰退産業における効果的な広報企画書のつくり方
近年になって、日本の多くの産業が成熟期を迎え、一部は衰退期に入っているとも言われている。グローバル化や技術革新の加速、消費者の価値観の多様化など、企業を取り巻く環境は日々大きく変化している。その中で生き残りを図るためには、従来の常識にとらわれない、新しい視点での広報戦略が不可欠である。特に衰退産業においては、市場の縮小や競合との競争激化といった逆風の中で、いかに企業の存在意義を示しつつ、ステークホルダーとの信頼関係を維持していくかが問われている。
広報担当者のための企画書のつくり方入門
「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の活動別に企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。
コロナ禍における「PRイベント」の企画書の書き方について考えたい。まず、広報部門が携わる企業イベントを大きく2種類に分けて考える。①プレス誘致を目的とした「PRイベント」(商品発表会、販促イベント、ブランドキャンペーン)②プレス誘致を目的とはしない「イベント」(入社式、社会貢献活動、社員総会)。
②を工夫して、コロナ禍においても自社と社会との接点(コンタクトポイント)を育てていくという視点は大切だ。だが「入社式」「社会貢献活動」などの個々のイベント活動の企画と展開は、企業経営にも直結する話として検討しなくてはならない。今回は「企画書の書き方」にフォーカスして、①のような「プレス誘致」を前提とした「PRイベント」をどう企画していくか取り上げる。
一般的なニュース・報道は、リアル(対面)イベントを好む。社会的意義があり、多くの人に役立つ情報であっても、プレスリリースの原稿や宣材写真だけでは、「ニュース」としては「絵」にならない。「絵」としてのインパクト、さらに客観性・信頼性が高い素材が、読者・視聴者への訴求力の強い素材として、一般的なニュース・報道では好まれる(図1)。メディアが報道するためには「絵作り」が欠かせない。
➡重要であっても「情報」があるだけでは「報道」はできない
➡ウラ取りとなるコメント、公式発表などがあって初めて「報道」は可能になる。ただし「絵」にならない
➡文字情報を補強する意味でも写真や音声は有効。ただしテレビ報道においては不十分。さらに「動き」が欲しい
➡いわゆるCM、レビューなど「動き」のある映像の提供は効果的だが、企業側が用意した映像は「手前味噌」に思われ信頼性、客観性には欠けてしまう
➡企業側の「仕掛け」のあるイベントであっても、公式発表の場や、コンシューマーを巻き込んだイベント、店頭販売の様子などは、信頼性、客観性、リアリティーが高まるため報道素材として効果的
➡企業側が直接関係しない一般的な「現象」として可視化された場合が最も報道ネタとして望ましい。熱心なファンやユーザーが自主的に行うイベントなどはこれにあたる
広報担当者は「話題作り(メディア露出)」を狙うために、単なる文字情報や写真素材だけではなく、「絵(商材の可視化)」を行い、より魅力的な素材としてメディアに提供しようと商品発表会などを日常的に催してきた。
しかし、コロナ禍においては、警戒のレベルが上がるに連れ、これまでは「常識」とされてきたプレス発表会などの「リアル(対面)」での企業施策は難しくなった。「イベント(対面)」での施策の“意味”を改めて考えなくては、社内外で企画書として通りにくい状態にある(図2)。「リモートでもできるイベント」は、対面にはない新たに打ち出せる経験価値を打ち出していきたい。
●映像やリモート配信では伝えられない「盛り上がり」を表現する(ライブ・記録に挑戦)
●「場所」が重要な意味を持つ発表会(新規オープン、リニューアル、ライトアップ)
●ゲストなど「一堂に会す」ことに意義がある企画(授賞式、引継ぎ、懐かしの再会)
●試乗・試食・試写会など、その場での「経験」に意味がある
オンラインかオフラインかを問わず、「イベント」を企画する際の企画書の骨格(考えなくてはならないポイント)に大きな差はない。プレス誘致を目的としたイベントで重要なのは、マーケティングのスケジュール全体の中で、どうやって効果的に「山」を作り戦略的なスケジューリングを行っていくかだ。
例えば、会社として重要な新商品の商品発表会をイメージして、企画書の作成の際の「構成」を考えると、時系列順には大きく次の3部構成になる。①イベント前に行うこと②イベント当日に行うこと③イベント後に行うこと。この流れでPR活動の「山」をどうやって最大化していくかが企画書作成のポイントとなる。
イベント概要の構成
まず「イベント概要」を決定しなくてはならない。「イベント概要」の構成には図3の内容が必要となる。
❶イベントの目的
❷ターゲット(参加者)
❸基本戦略(コンセプト)
❹運営体制(チーム構成)
❺広報計画
❻イベント内容
❼予算
「目的」と「ターゲット」を決める
「イベントの目的」を決める時は、「認知向上」「集客促進」「理解推進」など、イベント実施を通じて成し遂げたい「効果」を考えたい(図4)。
●認知向上(新商品、新規事業の発表会など)
●集客促進(新店舗オープン、店舗販促キャンペーンなど)
●理解推進(NPOの資金獲得活動、社会課題解決型企業(商品)の提案
「ターゲット」は、イベント自体に一般客を誘致する場合(コンシューマーイベント)と、イベントはあくまでプレス誘致に限定する場合(プレスイベント)に分かれる。ターゲットは「一つ」でなくても構わない。
私はよく「Primary(優先)ターゲット」と「Secondary(二次)ターゲット」の2つを設定する。また「但し書き」として「○○を排除しない」などの文言を加えることで、クリエイティブ制作物のコミュニケーションターゲットを絞りすぎる(先鋭化)のを避けることもある(図5)。
首都圏に住む20代後半の働く女性
全国の20代~30代後半の働く男女
(但しファミリー層や高齢者を排除しない)
プレス向けの商品発表会をコロナ禍にオンラインで行うケースも増えてきた。こうした場合、プレス関係者だけではなく、一般からの参加を募り、コンシューマーイベント(オンライン)とすることをオススメしている。
ただ、プレス関係者向けの発表内容(ビジネス向き)とコンシューマー向けの発表内容は分けた方が良いケースが多い。一部、二部などプレス向けと一般参加者向けの発表内容を分ける構成などの配慮が必要である。
基本戦略の考え方
基本戦略で重要なのは、「イベント前」「イベント当日(期間中)」「イベント後」を通じた「骨格」になるコミュニケーション戦略の基本方針を…