ブランドジャーナリズムとストーリーテリングで共感を呼ぶ広報企画書の書き方
「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。
広報担当者のための企画書のつくり方入門
「広報関連の新たな企画を実現しようとするも、社内で企画書が通らない……」。そんな悩める人のために、広報の活動別に企画を実現するポイントを伝授。筆者の実務経験をもとに、企画書作成に必要な視点を整理していきます。
18歳以下の人口が減少期に入る「2018年問題」から2年が経過した。受験人口の減少で、難関大学のハードルが下がれば、受験生は有名大学に集中する。知名度の低い大学は、その対策が求められる。受験生に「選ばれる」ための広報活動の強化もそのひとつだ。
ただ大学広報についての戦略構築のフレームは、あまり整理されていない。これにはいくつかの理由が考えられる。まず利益を追求する民間企業とは違い、教育・研究機関である大学は、魅力を外部にアピールするカルチャーが根付いていなかったことがある。また大学組織の複雑さも要因としてある。民間企業では、広報、営業、マーケティングなどが別々のセクションに分けられていることが多い。
一方、中規模程度の多くの大学では、①入試活動(マーケティング)②高校教員らとのリレーションづくり(営業)③大学広報(広報)の3つの活動を1つの部門で行うことも多い。このため、①「入試戦略」を考え、入試当日の準備までを行う入試活動と、②地元の高校(指定校)などを訪問して高校教員らと意見交換などリレーション構築を行う活動の2つが優先され、③大学広報(入試広報を含む)が後回しになりがちだ。今回は③の大学広報にフォーカスし話を進めたい。
大学が行う広報活動は大きく2種類ある。1つは大学全体の認知を拡大し大学のブランドイメージを向上させる広報(ここでは大学広報と呼ぶ)。もう1つは大学受験者の増加に直結寄与する広報(入試広報と呼ぶ)だ。
かなり荒っぽい一般論だが、営利を目的とする民間企業は短期的な販促目的の広報活動が発展する。自治体や公共性の高い非営利組織では、存在意義を説明するため、団体全体を広報する長期的な活動を重視する傾向がある。以上を大学に置き換えると、「私立大学=入試広報」「国公立大学=大学広報」に力を入れる傾向があったと考えられる。
一方で大学広報も進化してきた。以前は、多くの場合、大学における広報活動とは受験生募集を目的とした「入試広報」と一体のものとして考えられていた。例えば、大学案内の作成、オープンキャンパスの実施、Webサイト上の入試情報の公開、募集要項の受験雑誌への掲載などだ。
ところが大学間の競争が激しくなり、入試広報に留まらず、ブランド価値の向上のための大学広報が求められるようになり、マスメディアを通じて「どのように取り上げられるか(ブランド訴求)」が重要となってきた。加えて、SNSの浸透によりオウンドメディアを通じた広報が行われ、これまで混在していた「大学広報」と「入試広報」の違い(民間企業でいう企業PRと販促目的のPRの違い)が、強く意識されるようになった(図1)。
大学受験者にかかわらず、広く社会全体(地域、企業(採用担当)、卒業生、在校生、高校生(教員)、大学職員…)との良好な関係づくりを行う広報活動
例:他大学と比べどのような特色があるのか、どういった社会的意義のある学部・学科なのか、入学後どういった学生生活が送れるのか、など、報道を通じて、受験関係者のみならず、社会全体に向け広報する
大学受験者とその家族、および高校関係者などに対して、受験を促進しサポートするための広報活動
大学広報の「企画書」では、大学広報と入試広報、どちらの(あるいは両方の)視点から作成するかを明確にする必要がある。望ましいのは、戦略としての「大学広報」と、戦術としての「入試広報」の両輪で相乗効果を生み出すことだ。
だが現実にはなかなか難しい。大学によって、規模、地域(全国から学生が集まる大学、県内の学生が主の大学)、専門性などが大きく異なる。例えば、総合大学の場合、医学部と文学部とでは、入試ポリシー、理想とする学生像、卒業後の進路は大きく異なる。大学全体としての広報活動上のターゲットが絞りにくく、コミュニケーション戦略上の「差別化」「選択と集中」といったマーケティングの基本的な思考が定着しにくい。広報部門の多くがこうした現状に苦労しているものと考える。
ここからは、変化する大学広報のあり方に対応した企画書を作成するため、大学広報と入試広報に分け、整理を行う。
大学の理想像と現実のギャップから与件を整理
「ブランド」の強化にあたる大学全体の広報(大学広報)の企画書の作成では、「入試広報」をも含む、大学全体のコミュニケーション戦略をいかに大きな絵として構築できるか、経営視点での企画力が重要となる。図2は、企画書の要素だ。入試広報に尽力し大学広報に手付かずだった場合、「与件整理」にあたる1、2、3を行うだけで、手こずるかもしれない。
①自分たちが考える「大学のあるべき姿(将来の理想像)」は何か
②社会(世間)が思う「現在の大学の姿(現実)」はどういうものか
③❶と❷の「ギャップ」の言語化を行う
④「ギャップ」を埋めるための具体的施策(大学広報の活動詳細)について
⑤スケジュール、予算、体制、その他の留意事項
最初に行うことは、大学のあるべき姿(将来像)の組織内での共有である。民間企業でいうと「経営理念」にあたる。この「あるべき姿」を大学の内外に向けて発信していくことが大学広報の基本活動になる。あるべき姿との「ギャップ」について言語化することで、大学の「魅力は何か」についての認識は深まる。ただし気をつけたいのは例えば、自由な学風、国際色豊か、地域密着、自然あふれるキャンパス、駅から近い利便性、といった魅力は、単なる「特徴」に過ぎない。広報で肝心なのは、どういった言葉で「ウリ」として打ち出すかだ。
自分たちの「ウリ」を何にするか?
広報的視点での「ウリ」のことをUSP(Unique Selling Proposition)と呼んでいる。市場において選択される際、有利に働くよう対外コミュニケーション上、特に強く打ち出す“独自のウリ”のことだ。特徴をコミュニケーションすることと、「ウリ」につながる(選択優位)ことは別だ。USPには「排他性(他大学にはマネできない)」が必要となる(図3)。
すでにUSPが定まっている場合は、USPをいかに可視化するかのステップに入る。だが、多くの場合、...