「〇〇してください」「〇〇禁止」。そう呼び掛けても、人はなかなか行動を変えてくれない。それはなぜか。行動科学のインサイトを使って広報実務を点検します。
「酔っ払い客が線路に転落するまでの5秒間を実演してください」。大学の授業でこうお題を出すと、たいていの学生は、プラットホームに見立てた教壇の端をふらふらと千鳥足で歩き、バランスを崩して、ホーム下へ転げ落ちる。そんな演技を見せてくれます。
国土交通省の統計によると2019年度のホーム転落人数は2888人。そのうち1566人(約54%)を酔客が占めます。鉄道事業者にとって酔客の転落事故は放置できない問題。酔客に声かけしたり、ポスターで事故防止を呼びかけたりしています。
こうした声がけを効果的に行うには、酔客がどのように転落するのか、その行動傾向を正しく把握する必要があります。転落する可能性が高い酔客とそうでない酔客を見分けることができれば、効率的に声をかけられますし、転落防止につながる情報を旅客に伝えることができます。
転落防止を呼びかけるポスターには、「ホーム端を歩かないでください」といった文言とともに、学生が実演してみせたようなシーンが描かれていることが少なくありません。しかし、この転落シーンは、酔客が見せる最も典型的な転落パターンではないのです。
実際の転落映像をJR西日本などが分析した結果によると、学生が...