新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
コロナ禍で外出自粛ムードが続く中、食料品のネット販売需要が急伸しています。中でも産直ECサイトは、野菜や肉、魚などを消費者が注文すると、生産者から直接発送するシステムで、手書きのメッセージが添えられることもあるなど、コミュニケーションも魅力のひとつです。今回はその最大手である「食べチョク」を運営するビビッドガーデンを取材しました。
データは自分たちで調査
このリリースでは、競合サイト12社の中で4つのNo.1を獲得したことと、生産者別の月間最高売上が1479万円を記録したことの2つを訴求しています。ジャンルでいえば達成リリースですが、一般的には調査機関や授与団体などから表彰を受けて配信することが多いところを、食べチョクの場合は自身で4つのNo.1を調べ出してリリースにしています。つまり、達成リリースの応用版ともいうべきリリースなのです。
このリリースを思いついたのは2020年5月下旬。代表の秋元里奈さんとマーケティング責任者、そして広報の下村彩紀子さんを交えたミーティングで決まったといいます。背景には、7月18日に始まった同社初のテレビCMを援護射撃する狙いがありました。
コロナ下で同社のユーザー数は2020年2~5月に9.4倍まで増加し、販路に困った生産者からのSOSが月間500件も寄せられるなど、市場から必要とされるサービスになっていく手応えがあったと下村さんは説明します。調査はマーケティングが担当。お客さま利用率と生産者認知度は有料で利用できるリサーチサイトを利用してアンケートを実施。ウェブのアクセス数はSimilarWebが発表しているデータを引用。SNSフォロワー数は実際にアクセスして算出しました。
そうして見つけたデータを、下村さんと社内デザイナーで相談しながらグラフに落とし込んでリリースを作成。6月30日に配信しました。
ではそのリリースを見てみましょう。(ポイント1)まずタイトルに「12社の中で4つのNo.1」「生産者別の月間最高売上は1479万円」という強い数字を出してインパクトを与えています。
読み手に響く数字はいろいろありますが、中でも「No.1」は競合社でもトップということで信頼感を与えます。下村さんたちもその効果が分かっていたからこそ、わざわざ自分たちで探してでもリリースをつくったのです。
皆さんの会社でも、この手法は使えるはずです。さらに「1479万円」の数字を出したのは、全体の売上を非公表にしている同社が出せる、分かりやすい数字だったからです。実店舗を持たずに1500万円近い売上が出るとは、本当に驚きの数字です。
そしてこのリリースで私が最も注目したのは、(ポイント2)1枚目は4つのグラフがメインで、ほとんど文章がないことです。いくら文章が記者に読まれる可能性が少ないとはいえ、文章をまったく入れないのは非常に勇気がいります。しかし図版に関心を持てば、2~3枚目の本文もきっと読んでもらえるはず。そう信じて、グラフは実に10パターン以上つくって最もいいものを選んだそうです。
例えば、自社の数字はグラフに入れず吹き出しにした方が目立つこと、それにより棒グラフが天井に届きそうな勢いを出せることなど、受け手の目線を実によく考えています。今回のようにグラフなどがないときも、生産者の顔や野菜など、目につくビジュアルを1枚目のメインにして構成しているようです。
(ポイント3)2枚目では、達成した理由の説明に4分の3ページを割いています。理由は①社会背景 ②利用者(消費者) ③つくり手(生産者)という3つの視点から分析していて、非常に納得感のあるものになっています。
配信方法はリリース配信サイトを通じて約300件、すでに関係性のあるメディアに直接50件ほど。下村さんは...