「働き方改革」がうたわれて久しいが、従業員を置き去りにした独善的な改革では思うようには進まないだろう。一方で、カゴメの提唱する「生き方改革」、それは余暇時間を含めた暮らし方にも目配せした、従業員目線の改革だった。
「働き方の改革とはつまり、“生き方改革”である」。2017年、当時のカゴメ社長の寺田直行氏(現在は会長)は従業員にそう語りかけた。その意図を、同社経営企画室広報グループの北川和正氏が説明する。「(巷一般に使われる)『働き方改革』は、企業が従業員に生産性向上を求めた“企業視点”のものに終始しています。一方、寺田のこのメッセージは、従業員一人ひとりが自身の余暇時間も含めて、我が事として捉えてほしい、という想いが込められているのです」(図1)。
「生き方改革」の意図
2014年、寺田氏の社長就任時のカゴメの経営状況は、決して芳しいものではなかった。その理由の一端に、労働環境があった。「“残業が多い” “業務に無駄が多い”など、改善の余地がありました。そこで、業績の立て直しを念頭に、働き方と収益構造の両輪で改革を進めたのです」(北川氏)。
労働環境の改善。しかし、ただ闇雲に従業員に終業を促しても意味がない、そう考えた寺田氏は、余暇時間も含めたメッセージにすることで、従業員の“自分ゴト化”を狙った。「当社は、2020年度までに年間総労働時間を1800時間以内にすることを目標にしていますが、それは1年間、8760時間のうちのおよそ20%になります。一方、個人が自由に使える可処分時間は、労働時間や通勤時間、睡眠時間などを除くと約4割あります。こうした事実を踏まえ、『この4割をどう活かすかを従業員一人ひとりが考えて欲しい』と訴えているのです」。
もちろん、メッセージのみならず、従業員が自律的な働き方を選択できるよう、2017年に在宅勤務制度をいち早く導入。その後も...