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IRの学校

IR分野でSNSは活用できるか【後編】

大森慎一(バンカーズ)

広子たちはIR担当として、忙しくも刺激的な日々を送っている。新型コロナに対応した新しいビジネス様式、とりわけIRに関する環境を模索しているが、SNS活用について、さらに掘り下げて、議論を続けている。



東堂:前回の話をまとめると、SNSの活用は、IR分野でも双方向性を活かした展開は期待できるが、問題点もある。商品PRや企業広報と違って、インサイダー取引を防ぎ、フェア・ディスクロージャー・ルールを全うする必要がある。特に商品や会社をリコメンドするような要素、「速報価値(早耳情報)」「優待価値(お得情報)」「限定価値(ここだけの話)」などは織り込めない、という状況を踏まえて、どんな内容の発信をするべきかを考えよう、ということでいいですか。

広子:ん~。でもこれだと限定的過ぎて、あまり魅力的な情報発信にならないのでは?

大森:そういう面もあるね。一旦論点を整理するため、進むね。そんな状況でもIR分野でSNS活用に期待すること・目的をまとめてみよう。

広子:やはり、双方向性によるコミュニケーションの豊かさですかね。ファン株主づくりに貢献できると思います。

東堂:それと、広がりですね。つながっている人々とコミュニケーションを深めるだけでなく、横への伝播力は魅力的ですね。一方で、マイナスに作用した場合は怖いのですけど。

大森:発信対象として、意識するのは?

東堂:そうですね、広く投資家ですが、特に当社に興味を持っていただいた投資家、実際の株主が中心でしょうか。

大森:おっ?投資家に情報発信してくれるメディアやセルサイドのアナリストはあえて意識しないと?

東堂:すみません。そういうわけではないですが⋯⋯。

大森:いや、責めているわけではないよ。逆に、SNSによる情報発信は要件・要素を絞った方がいいと思っている。自社の事業内容やIRテーマ、目的などに合わせて、デザインするといいと思うよ。総花的な発表は違う媒体の役目と割り切った方がいいな。

広子:なるほど。通常のIR的な発信なら、わざわざSNSを使うまでもないということですね。

大森:そうだね、一応SNSもやっています、でいいんだったら、力を抜いて、どの情報発信手段でも同じように発信するというのもありだと思う。なので、今日はあえてSNS発信を積極的に行うことを前提に考えてみよう。

情報発信をデザインしよう

広子:ただ積極的にと言っても「決算短信開示しました」「会社説明の日程決まりました」といった「〇〇しました」IRだと、あまり喜ばれませんよね。

大森:そうだね、単純な事務連絡ではなくて、発表内容にある程度の情報⋯⋯例えば、要約や見るべきポイント、意見や評価付けを加えるなどの工夫もあっていい。株式関連のポータルサイトなどへの掲載に触れたり、説明会なら決算イベントを専門に扱うIRサイトの情報を活用してもいいだろうね。

広子:事実に基づいての範囲で工夫できそうですね。

大森:こうした内容は、1on1や説明会では加えているものだったりしないかな?

広子:そうですね。考えてみます。

大森:よしそれじゃあ、まず、双方向のコミュニケーションを行うという目的達成のために必要な条件、目指すべき状態を挙げよう。

広子:はい、お願いします。

大森:①会社の公式であり、信頼のおけるアカウントであることの認知度を上げる ②フォロワー数を一定数集める ③過剰にならない範囲で定期的に発信する ④質問や意見に応えてくれるアカウントだという認知、などかな。

広子:なるほど、メモメモ。

大森:情報発信デザインやポリシーの設計に必要な残りの部分も考えていこう。発信する側の姿勢や立場、フォロワーなどとの接し方などだね。場合によっては発信者のキャラクター設定なんかもしていいと思う。

広子:そうですね。当社の場合は製品のお客様にも株主になってもらおう、もしくは株主にも製品のご愛用者になってもらおうという目標があるので、フレンドリーで温かみのある文体にしたいと思います。

大森:まあ、そうだろうね。

広子:でもキャラクター的には、私ではなく東堂風にしたいな。

東堂:えっ、私ですか?

広子:親しみやすさの中にも、知性を感じる方が信頼性は高まりますよね。

大森:ははは、いいんじゃない?

運用方針の設計も入念に

大森:次に運用面の設定だね。例えば、情報発信の権限や承認ルート、リプライの権限は? といった発信にかかわるプロトコルを決めておくことが必要となる。

東堂:なるほど。迅速でないと面白くない半面、内容については会社として責任をもって確認する必要がありますものね。

大森:そうだね。あくまでも公式だからね。ある程度、個人的な見解を認めてもいいと思うものの、一度発信すると簡単には消せないからね。

広子:そこのバランスが一番怖いから⋯⋯やっぱり東堂キャラでいきましょう!

大森:ハハハ。それに、一部の人間に頼らなくてよい業務フローも用意しないと、休暇取得時やリモートワーク時に、対応が困難だったりすると問題だよね。まあ、これはIR活動全般に言えることだけど。

広子:そうですね、全般的に情報の一元管理も必要ですね。

大森:それから定期的な発信のためには、SDGsやCSRなどへの取り組みや活動報告、コーポレートガバナンスに関する考え方など、必ずしもタイムリー性を必要と...

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