コロナによる在宅勤務の浸透。これを好機と捉え、働き方改革を加速化させる企業が相次ぐ。従業員が多様な働き方を自分の意思で選択できるようになりつつあるのがニューノーマルの時代だ。ストレスを極力減らした“自分にあった”働き方とは。産業医の視点から語ってもらった。
Q1 リモートワークの長期化は従業員のメンタルヘルスにどのような影響がありますか?
管理職側にも異変が「オンラインハラスメント」に注意
最も大きな影響としては、従来型のワークに比べて、隙間時間や雑談などの「あそび」の要素がなくなってしまったことが挙げられます。会議室への移動時や、ミーティング時における、隣の人とのたわいもない会話。ランチでの同僚との世間話や、飲み会での上司へのグチなど。取り立てるまでもない、これらのささやかな行為が、わたしたちの仕事の中でいかに重要な役割を果たしていたのかと考えさせられます。
このようなあそびがなくなってしまうことで、人は孤独を感じ、帰属意識を失い、主体的な役割を見出せなくなってしまうのです。先行きの見えない、不透明な時代感と相まって、産業医として従業員の方々と接していると、また、精神科医としてビジネスパーソンの方々と対峙していると、みなさん、異口同音に「不安」を口にされます。
一方で、経営やマネジメントの立場から状況を眺めますと、リモートワーク特有のタイムマネジメントのしやすさが際立ち、工数の可視化が進むため、従業員に対する期待値やアウトプットの高さは、否が応にも上がります。その結果、予定通りにタスクが進まない事態に直面すると、理論値と実態値の乖離(かいり)ばかりに目を奪われ、もどかしさや怒りの感情が先鋭化してしまいます。いわゆる「オンラインハラスメント」が生じてしまうのです。
あそびを奪われ、不安の渦中にいる従業員に対し、容赦なく浴びせられる叱咤の砲火。従業員はより萎縮してしまい、マネジメント層はよりストレスを募らせる。悪循環を生み出してしまうのです。通勤時間の削減、効率的なタスク管理など、ポジティブな側面が先行しがちなリモートワークですが、このようなメンタルヘルスに関する問題の露呈が、過渡期にあるリモートワークが抱える、リアルな実情、なのかもしれません。
こうした多様な働き方に対し、メンタルヘルスの領域でも以前と違う認識を持つべきでしょう。
Q2 企業が従業員のメンタルヘルスに関与することで、組織のブランディングや生産性向上につながりますか?
真摯な対応にこそブランド好意度向上の秘訣が
まず、ブランディングの観点から一言。健康経営が叫ばれ、経済産業省の企画する「ホワイト500」といった認定制度も後押しして、従業員のヘルスケアに対する企業の取り組みが、国民や市場の評価に直結する環境が整いつつあります。
企業に大切にされている従業員は、従来的な意味における企業庇護(例えば、終身雇用制に代表される制度保証など)とは異なる、強いロイヤルティを持ち得るといったメリットがあります。いきいきと活躍する従業員自体が企業の顔となり、ブランディングに貢献。また、成長企業において見られるリファラル採用(*1)なども促進されれば、採用活動の力強いバックアップとなるでしょう。
*1 リファラル採用⋯自身の勤める会社に知人や友人を紹介したり推薦したりする採用手法のこと。一般の社員でも紹介・推薦できる点などから縁故(コネ)採用と異なる。
一方、組織の生産性の観点からは...