コロナ禍で事業低迷の危機にある企業は少なくない。トップからリストラや事業縮小といった発信を行う際、配慮ある社員への伝え方や、社員が奮起できる発信のポイントを聞いた。
コロナ禍で多くの企業が苦境に立たされている。大規模リストラや事業撤退など、企業としてマイナスな発表をせざるを得ない状況は、規模の大小にかかわらず散見されている。業績が下を向く中でも社員の心を掴み奮起させる発信とはどのようなものだろうか。またその時広報はどのようにサポートできるであろうか。危機管理広報の専門家 田中正博氏に聞いた。
平時からの関係性が第一条件
「付け焼き刃では、危機下において社員からの協力、信頼は得られない」。田中氏はこう明言する。「結局は会社も人間関係の中で出来上がっている組織です。『この社長が言うのであればやむを得ないだろう』『協力せざるを得ないかも』と思われるコミュニケーションが平時からできていたか。こういった関係性の構築が危機下において明暗を分けるのです」。
平時から関係性を築くためにどんなことができるのか。例えば全国に支社と工場をもつ、あるメーカーの社長の場合。社長就任と同時に、自ら全国の工場に足を運び、日ごろのお礼と励ましの言葉を伝えた。単なる工場訪問だけに終わらせず、広報と連携し“メディアキャラバン”を計画。地元メディア番組に社長訪問が報道され、ニュースとして形に残ることで、より従業員からのエンゲージメントを高める戦略をとった。
「特にローカルメディアで取り上げてもらう時はその土地への“思い入れ”を一緒に広報すると、親近感もニュース性も高まります。入社して最初に赴任した営業店だった、新婚旅行で訪れた土地だったなど、ご当地(土地)への個人的な思いが加われば、エピソードはなんでも構いません」。
平時からのコミュニケーションの重要性は社長対社員に限らない。上司と部下間においても同様のコミュニケーションが必要だ。「部下の仕事に関心を持って一声をかけることが重要です。形骸化しがちな管理者向け研修においても、『なぜ上司からの声かけが重要なのか』『どんな効果があるか』を具体的な事例とともに示していくことを意識し、広報と人事が連携して設計していくべきです」と田中氏はいう。
責任逃れしない姿勢を示す
上記のコミュニケーションを前提として、実際、自社のマイナスな事柄に関し、発信する際に一番重要なのが「責任回避しない」...