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ネット炎上 予防策と発生時の対応

ウィズコロナ時代の情報発信 SNSで共感される・気を付けたい表現

前田めぐる(危機管理広報アドバイザー、SNS文章術講師)

この非常下において社会的インフラとしても活用が期待されているSNS。広報担当者は何に備え、どう判断し、誰に、どのように自社の思いを伝えればいいのか。リスクコミュニケーションも含めたSNS発信のポイントを言葉と危機管理広報のプロに聞いた。

緊急事態宣言下では「こんなときにSNS発信して大丈夫?」「非常事態の今、自社アピールはまずいだろうか?」と心配になった広報担当者がいるかもしれません。しかし、発信の自粛が求められたわけではありません。むしろ、社会不安が増すときだからこそ、これまで以上に「何かできることはないか」と考えて発信し、お客様とのつながりを深めている企業もあります。

大切なのは「企業もひとりの人である」というスタンス。企業が顧客や社員に対して不適切な対応をした際、ユーザーの反応でよく見られるのは「人として残念だよね」というものです。

企業、自治体、団体、個人⋯⋯全てのアカウントが混然一体となったタイムラインのなかでは、規模はもちろん、企業や個人という認識は薄れてフラットになり、「人対人」としての関係性に意識が向きます。企業としてはもちろん、社会の一員としていかに顔の見える情報発信を行えるか。発信のベースとなる企業姿勢が、社員・顧客・社会に対して誠実であるかどうかも常に見られ、問われています。

誹謗中傷が増殖しやすいSNS

2020年3月末、京都のある大学における新型コロナウイルス感染症のクラスターが報道されると、大学にクレームの電話が鳴り続けました。多い日で毎日100~150件の電話やメールが殺到。感染を報じるメディアのTwitterやYouTubeには多くの誹謗中傷が書き込まれました。大学が公表した理由は、情報を明らかにして社会的責任を果たす、というポジティブなものでしたが、バッシングはすぐにやまず、関連のない学生までもが風評被害に悩む事態に陥りました。

誹謗中傷は、批判や批評とは明解な違いがある悪質な行為です(図表1)。同大学はこのことに関して特にSNSで触れてはいませんが、反論しても火に油を注ぐことも多いので、静観したことはひとつの正解だったといえます。特にTwitterでは文字数制限もあり、丁寧な説明をするにはやや無理もあることから、HPでの公表にとどめることに問題はなかったでしょう。

図表1 誹謗中傷・非難・悪口・批判・批評・評論の違い

出所/『広辞苑』から引用

7月に感染者1人を確認した京都のある女子大でも、HPでの公表にとどまっています。注目したいのはその中で「感染した学生、ご家族様および関係者の人権尊重と個人情報保護にご理解とご配慮をお願い申し上げます」(HPから引用)と学生、関係者への配慮を要請する明記があることです。

新型コロナウイルス感染症は、一種の災害。感染者は被害者であり、守られるべき存在です。配慮を願う1文からは、大切な学生を守り抜くという大学の意思を読み取ることができます。ちなみに、第三者が大学のHPのURLをTwitterで呟いていますが、見た限り誹謗中傷は起きていません。

守るべきは、誰か。これを明確にすることは、大学でも企業でも必須です。社会の目が気になる災害・非常時、ブランドを守ることに意識がいきがちですが、まずは人(人材)です。学校は学生・職員を、企業は社員を、真っ先に守るべき。次に、関係者・取引先、地元・行政、社会の順です。

また、情報に過敏になりやすい災害時には、外部からの意見をすべてネガティブに感じることがあります。しかし、誹謗中傷・非難・悪口と、批判・批評・評論は別のもの。中には愛着があるからこその健全な批判や、もっと良くなってほしいという気持ちからの批評もあるのです。そのような意見に対しては「身の引き締まる思いです」「アドバイスをありがとうございます」「ご意見を真摯に受け止め、一層の対策を講じていきます」など、必要に応じて対応しても良いでしょう。

ただし「善処します」「鋭意努力します」など使い古された表現は、誠意が伝わらず「結局、何もしないということか」と受け止められることがあるので、避けることもポイントです。

「慣れ」というリスク

50年、100年に一度の自然災害が毎年起きたり、感染拡大による警報や緊急事態宣言があちこちで発出されたりする昨今。災害や非常時で先が見えにくい状況では、様々な炎上リスクに気を配る必要があります。例えば、ネガティブな情報の海の中で感覚が麻痺してしまうと、「コロナ慣れ」「宣言慣れ」も起きやすくなります。

こうした「慣れ」も一種のリスクです。通常なら、他社の炎上やバッシング事例にヒヤリとする人でも、慣れがあると「またか」と見過ごしてしまうのです。他社の事例に鈍感になると、自社のリスクにも気付きにくくなります。「慣れはリスク」と肝に銘じ、この機会にあらためて、SNSで書くと炎上やバッシングなどのトラブルになりやすい内容を確認しておきましょう(図表2)。

図表2 炎上やトラブルの火種
誹謗中傷(*)、自粛警察・不謹慎狩(*)、誤った情報・デマ、不確かな医学情報やそのリツイート、上から目線、若者批判、不用意なハッシュタグ「#」、特定の地域やクラスター発生エリアへの差別、民族・人種・国に関する差別、プライバシーの暴露、デマの拡散安心・安全を脅かす、ジェンダーやLGBT(性差)、ハラスメント、バイトテロ・飲食テロ、自虐ネタ、法令違反(薬機法や景品表示法)

印は第三者によることが多い

特にコロナ禍では、誰もが「早く収束を」と思うものです。もしも「〇〇がコロナに効く」など聞きかじりの誤情報を深く考えずに書いたり、リツイートしたりすると、たちまち広まってしまう恐れがあります。たとえ実際に効果が認められる場合でも、該当の製品があっという間にお店から消えるなどの混乱を招くこともあるので、医学情報については専門外なら安易に書かない方が賢明です。

排除ではなく限定で対応

また、「マスクをしていない方のご入店はお断りします」というのは感染防止対策を徹底する意味で問題ないのですが...

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