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シャープ公式×橋口幸生「なぜ企業の言葉は伝わらないのか?」

シャープ公式Twitter運営者

ツイートがネットニュースでも話題になる、シャープ公式Twitter運営者の山本隆博さんと、著書『言葉ダイエット』で効率的に情報を伝える文章術を解説した、コピーライターの橋口幸生さん。言葉のプロ2人が、読みたくなる文章、SNSとは何かについて語り合う。

「読んでもらえる」前提を捨てる

山本:橋口さんの『言葉ダイエット』、面白かったです。責任逃れしたいときほど、過剰に敬語を重ねて、読みにくい文章になる。そのことが、やさしく解説されていて(図1)。Twitterだと言葉をダイエットできても、メールやプレゼン資料になると、途端に書きすぎてしまう。これは根深い問題です。

図1 2020年5月
橋口さん著書『言葉ダイエット』に対するツイート。

橋口:本で書きたかったことを一言でまとめると、山本さんが以前、採用ページについてツイートした内容になるんです(図2)。美辞麗句で人の心は動かない。でも、なぜか仕事で文章を書くとなると、漢字・カタカナ連発の上っ面な言葉になりがちなんです。自信がないときほど「内容を伝える」より「ビジネスっぽい体裁に整える」ことを優先してしまう。そこに一石を投じたくて本を書きました。

山本さんは、今のTwitterスタイルにたどり着く前、プレスリリースをリライトして投稿していたと聞きました。でも薄っぺらな言葉は伝わらない。この問題意識は、僕たちが共通して持っているものだと思います。

図2 2017年6月
採用ページの美辞麗句に関するツイート。

山本:僕はもともとマス広告の宣伝を担当していた時期が長かったんですが、広告主の側にいると無意識に、こちらの伝えたいことは全部聞いてもらえるような感覚に陥るんです。そもそもまず、代理店の方たちがクライアントの話を熱心に聞いてくれる。そして広告の枠を買って出せば、一定数の認知や反応は返ってくるとされていますから。でも現実は、広告は無視されがちですし、見られても嫌われやすい。ましてやSNSでは、拡散なんて程遠いし、第一フォローなんてしてもらえない。

そもそも友人知人と好きなものでTLが構成されるSNSでは、企業アカウントをフォローする義理はないわけです。「なぜ、自分の文章は伝わらないのか」と悩んでいるなら、そもそも相手は「自分の文章を読む筋合いがない」というところから考え始めないといけないはずです。マイナス地点からスタートして言葉をつくる。それには「読んでもらえる」と考えてしまう“クセ”を直す必要があるんですが、それが意外と難しい。

橋口:新人コピーライターも「広告なんて誰も見たくない」とまず叩きこまれますね。「相手が全部読んでくれる前提でいる」という山本さんの指摘は、日本全体のコミュニケーションの問題だと思っています。

最近だと、給付金の案内。必死に読み込まないと、何を言っているか分からない。でも、給付金が必要な人ほど、読み込む余裕はないと思うんですよね。僕は、相手の心理を汲み取るのが苦手で、遠回しな言葉で言われると、本気で理解できません。日本の組織で活躍する人は共感力が高いから、複雑な長文でも通じてしまう。本当は「言葉ダイエット」をして、誰でも理解できる文章にしたほうがいいはずです。

山本:責任逃れの言い回しを積み上げていくと、丁寧で正しいけれど、既視感のある物言いになります。つまり誰が言っても変わらない言葉になるということ。代替可能な文章に、誰も聞く耳は持ちません。

小学校の朝礼の校長先生の話って、ほとんど誰も聞いていないですよね。「夏休みは宿題を計画的にやれ」とか「3学期は短い」とか、既に知っていることを同じ言葉で同じ話法で話すから、聞いている側は次に何が来るか予想できてしまう。それと同じで、企業の文章も、言葉使いや構成に既視感があると、もう読まれません。読んでいるけど素通りする。

橋口:僕はコピーライターになってから「誰でも知っていることを、格好つけた言い回しに換えるだけではダメだ」と教わりました。例えばテレビを広告するとき「圧倒的な美しさ」と言っても伝わらない。開発された映像エンジンの性能とか、具体的なことを書いたほうが読みたくなります。

本にも書いたのですが、面白いとは、発見がある、ということ。先ほどの校長先生の話も、校長になるぐらいの人なら人間的に面白いところは絶対にあるはずです。でも、その人自身でなく、校長として話すと、人格のない言葉になりがちです。仕事の文章も、少し自分に引き寄せて書けば、変わってくるはずです。

主語を小さくする

山本:主語が「私は」じゃなく「我が社は」になると、読み難いんですよね。そこをなんとか「社員である私は」ぐらいまで引きずり下ろした文章に書き直すことが、SNSでは必要だと思ってやってきました。広報部門が発信する文章だって、「開発チームは」ぐらいまで、主語を小さくできると思います。主語をパーソナルな方向に見直すことは、橋口さんの言う「具体的に書く」に通じるはず。主語をパーソナルにしすぎると会社から怒られることもあるでしょう。でも読まれたいなら、踏み込む勇気は必要です。

僕が、いわゆるテンプレツイートをやめて、人格のある投稿に変えたのは、数千人のリストラが報道されたとき(図3)。不安が漂う会社の中の雰囲気を言ってみようと「今日は眠れるかな」とツイートしました。それが大いにリツイートされ、内側のものを外側に提示することがコミュニケーションのきっかけになると気づきました。

図3 2012年8月
大規模リストラの報道が出た後のツイート。

橋口:僕も企業スローガンやステートメントを書くとき、時間をかけて企業の様々な部署の人と話して、企業の人格みたいなものを意識します。あるメーカーに取材したときは、優しくて紳士的な人が多かったので、従来のクールなステートメントを、丸い雰囲気に変えました。「卓越した先進性のあるグローバル企業」みたいな自己紹介より、普通に使える言葉にしませんか、と相談しながらつくったところ、評判が良かったです。

山本:企業が自然な自己紹介をするには、外側からの視点が要ります。僕は「シャープ社員を半分辞めた立ち位置でツイートしている」とよく言うのですが、会社からはみ出た分だけ、外側から会社を冷静に見られるし、同時にメッセージを届けたい人との距離も詰められます。

橋口:山本さんは「八百屋さんの軒先で、店の前を通る人としゃべる」感覚でツイートしているそうですね。この話を聞いたとき、「シャープさん」としてアカウントで実践されていることが、すごく腑に落ちました。

山本:シャープという母屋は巨大ですが、僕が運営しているアカウントは、商店街の店ぐらいの気分でやっています。馴染みのお客さんをつくって、通りがかりの人と世間話をしながら、何かを買っていってもらう感覚です。これをデジタルマーケティングの話に置き換えてしまうと、店の前を通りがかる人をなぜコンバージョンさせないのか、となる。だけど僕からしたら、通りがかった人を呼び止めて、いきなりキャベツを売りつけるのは、狂った行為にしか思えない。

八百屋さんなら「今日は暑いですね」と世間話しながら、キャベツが欲しければキャベツをお出しするし、ニンジンが欲しければ、今日のニンジンいいですよ、とおすすめするわけで。そういう等身大の振る舞いをずっとTwitter上で続けているだけです。

投稿タイミングを知る方法

橋口:世間話のタイミングも絶妙ですよね。ポテトサラダをつくるのは面倒か簡単かのポテサラ論争がTwitter上であったときも、さらっと調理家電でつくるレシピを出されていました(図4)。

図4 2020年7月
ポテサラ論争に対するツイート。

山本:軒先に立っていれば、往来の人が今日はポテサラの話をしてるな、というのは聞こえてきます。そうこうするうちに、フォロワーさんから「ポテサラの件、どう思います?」と振られるわけです。たぶんそこが、僕がしゃべるタイミングだと思っています。フォロワーと関係性が築けているので、「あいつなら、ちゃんと発言してくれるにちがいない」とリプライをくれます。そうした信頼関係を築き上げることは、タイミングよく投稿するための武器になります。

橋口:自分が言いたいことではなく、言ってほしいことを言うわけですね。山本さんは、「みんな薄々思っているけれど、なんとなく言わないでいること」を発見してツイートするのがすごく上手です。

山本:人はSNSを見るとき、メッセージだけでなく「誰が言ったのか」までセットで捉えます。企業の広報部門にいると、「どう言うか」に頭を悩ますことが多いと思いますが、それ以前に「誰が言うか」を構築することがずっと大事だと僕は思います。「シャープが言っている」より「“シャープさん”が言っている」のほうが、聞いてもらえる確率は上がりますから。“シャープさん”という人格を確立するために、自分の言葉で毎日しゃべる。継続的なコミュニケーションを積み上げています。

「誰が言うか」を構築するために、例えば広報部の誰かが実名でリリース文を書く、あるいは開発者の一人称で発信するような試みもあり得ると思います。

橋口:「実家が全焼したサノ」というアカウントで、インフルエンサーになった後輩が「これまでは会社が個人に人格を与えていたけど、これからは個人が会社に人格を与える時代になるんじゃないか」と言っていました。リリースも企画書も、さっきの校長先生の話じゃないですけど、もっと自分を出していいと思うんですよね。伝えにくい内容のときほど、短く端的な、自分の言葉で伝えたほうが、楽になるはずです。

山本:誰の言葉なのかを提示したほうが、言葉に体温が宿るし、読まれるということ。その意味で、企業アカウントで一番いいのは経営者が行うことですし、いずれは社員が全員やればいいと思っています。

橋口:スタートアップの経営者などは、顔を出してSNSをしていますよね。社員が実名・顔出しでSNSを行って、人事採用につなげるケースもあります。

普段の自分を仕事に混ぜる

橋口:山本さんはフォロワーからの購入報告にリプライしたり、購入相談にのったりしながら、体温のあるコミュニケーションをとっていますね。

山本:お客さんに軒先で話しかけられたら、ご用命は聞きますし、「買いましたよ」と言われてお礼をするのは当たり前のこと。でもルール化するとうまくいかなくなります。「10人中8人にしかリプライしなかったら怒られるんじゃないか」と心配して、すべて返信しないルールにしたりする。でも残り2人に怒られるかと言ったら、そんなことはない。人はそこまで自分たちのことを気にしてないですよ。

僕は八百屋さんの肌感覚で、できる範囲でやっています。そこにはコミュニケーション戦略など存在しません。ただしSNSの場合、1対1のコミュニケーションでも、見ている人は見ていて、広めてくれます。変な言い方ですが、徳を積むには、効率のいい時代です。お客さんひとりひとりへの対応が、多くの人の目に留まり、企業価値へと還元されることもある。

なにより僕ら家電メーカーの場合、商品を売るのは量販店の人たち。ありがとうを言っていたのはお店の人でした。それがSNSにアカウントをつくったおかげで、直接購入者にお礼が言えるようになったのは、画期的なことです。

橋口:普段の仕事でも「こんなことを言ったら怒られるんじゃないか」と心配することってあると思います。すると異常に遠回しな敬語が出てくる。「させていただきました」という言い回しが、よく使われますよね。進化系だと「させていただけるとよろしいかと存じます」とか。これは自己主張をしたいけど、嫌われたくない現れ。

その点、僕は「嫌われてもいい」というスタンスで、なるべく単刀直入に伝えるようにしています。そのほうが、いい結果が出るし、主張したいなら嫌われる覚悟はすべきだから。たとえ失礼だと怒られても、相手は1年後まず覚えていないでしょう。本来仕事って、共通の目的に向かって頑張るものですから、好きか嫌いかといった人間関係から自由になれる手段なんです。それに、恋人に嫌われたらショックでしょうけど、仕事上ならそこまでダメージはないはず。

山本:僕は、正確に言うと職業人として言葉をつむいでいるわけで、自分のすべてをTwitterで出しているわけではありません。でも、個人的に好きなものと関連づけて自社製品をツイートすることはあります。なぜかというと、「好き」という発信が、SNS上でポジティブな反応を呼ぶからです。

橋口:海外のビジネスパーソンは、スピーチでプライベートな話を絶妙に混ぜていて、自社のサービスの話に落とすのがうまいですね。あるソーシャルメディア企業のプレゼンで、スピーカーが娘のキャンプの話を始めたんです。キャンプ写真の紹介が続いた後、「私たちのサービスは、ソーシャルメディアの中ではなく、ふだんの生活を充実させるためのものです」って話に落として見事でした。自分の一面を仕事に少し混ぜていけると、もっと伝わる言葉になるし、発信も楽しくなると思います。

山本:橋口さんはコピーライティングで自分の好きなものを反映されるんですか。

橋口:得意なことになるべく引き寄せようとはしています。例えば、タレントCMよりは、コピーを軸にした企画で勝負することが多いです。タレントCMが必要なときは、得意な人を連れてきますね。山本さんは、ツイートで文脈をつくるのが得意だとおっしゃってましたよね。

山本:1個1個のツイートよりも、日々の発信によって人となりを強固にさせていくほうが得意です。今は、フォロワーから「こういうことを言いそう」と思われるようにもなりました。こうしたことができるのはSNS上だから。広告の一回性なキャンペーンでは、こうはいきません。

蓄積の効果

橋口:山本さんは、弱い人に弱い言葉で、同じ目線に立って語る、ブランドのコミュニケーションを確立されました。今人気のある企業アカウントは、だいたいシャープさんっぽい人格です。海外だと、米ウェンディーズのTwitterは毒舌キャラだったりしますから、そろそろ次のキャラクターが出てきてもいい。

山本:そうですね。人格のあるSNSでのコミュニケーションを、どのように継続させていくかに悩む広報担当も多いのだろうなとは想像がつきます。だけど拡散だけじゃなく、蓄積できるのがSNSの強みだと思います。

橋口:蓄積されたSNSアカウントの効果に、注目しないのはもったいない。

山本:KPIとか、効率性に対抗する数字は出せないので、お客さんとのやり取りのエピソードやツイートがきっかけとなったパブリシティといったものを積み上げて、具体的な事実をアルバムのように見せるのが、今のところ最適解ではないかと思います。企業のSNSでのコミュニケーションを継続させるため、こうした策を組み立てていくと、もう少しやりやすくなると思います。

シャープ
公式Twitter運営者
山本隆博(やまもと・たかひろ)

@SHARP_JP
フォロワー数83万を超えるシャープ公式Twitterを運営するシャープ社員。第50回佐治敬三賞、2018年東京コピーライターズクラブ新人賞など。マンガ家コミュニティ「コミチ」でコラム連載も。

電通
コピーライター
橋口幸生(はしぐち・ゆきお)

@yukio8494
代表作はスカパー!堺議員キャンペーン、劇画鬼平犯科帳25周年記念動画「鬼へぇ」、ANA、FRISKなど。TCC会員。ギャラクシー賞、グッドデザイン賞、ACC賞ゴールド、スパイクスアジアなど受賞多数。著書に『言葉ダイエット』。

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シャープ公式×橋口幸生「なぜ企業の言葉は伝わらないのか?」(この記事です)

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