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社会課題への取り組み方と社内外への情報発信

SDGsウォッシュを回避する 取り組み指針の策定ポイント

村上 芽(日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネジャー)

SDGsへの取り組みにおいて過度なPRやマイナス面を無視した発信では逆に会社の信用を落とす事態につながることもある。「SDGsウォッシュ」に陥らない発信のポイントを識者に聞いた。

我が社の経営理念の実現はSDGsの実現と同じ、といくら社長が力説しても、経営理念が社内に浸透していなければ、SDGsの実現への貢献も期待できません。あるいは、「この商品はSDGsにこんなに貢献できる」とプレゼンテーションをしても、データの裏付けが独りよがりになっていたり、知らないところで別のSDGsのゴールに反する実態が隠れていたりするかもしれません。

SDGsウォッシュとは何か?

このような、うわべだけの行動や、不都合な実態にふたをしてよいところばかり宣伝するような行動を、SDGsウォッシュ(wash)と呼びます。「ウォッシュ」が付く言葉の先輩格には、グリーンウォッシュ(環境によいと見せかけてそうとは言えないような実情がある)、ブルーウォッシュ(サステナビリティに貢献していると見せかけてさほどのことはしていない。国連のシンボルマークの青色から取った言葉)があります。SDGsウォッシュはこれらの類似語です。

どのような例がSDGsウォッシュと呼ばれてしまうのか。「あるゴールに貢献できる製品、というふれこみでSDGsの17の目標のうちひとつを取り上げているにもかかわらず、他の目標にはネガティブな影響を与える」ケースがあります。

まず、電気自動車を考えてみます。再生可能エネルギーを利用した電気で、気候変動の緩和に貢献している(目標7:エネルギーや目標13:気候変動にプラス)反面、もしかするとバッテリーの原材料に使われたコバルトという金属の採掘には、コンゴ民主共和国にある鉱山で子どもが関わっていたかもしれません(目標8:働き方にマイナス)。

あるいは、健康のためのランニングシューズ(目標3:健康と福祉にプラス)とうたって先進国で販売しているのに、製造工程をさかのぼるとバングラデシュの、とある安全衛生の行き届かない工場に労働者が詰め込まれて製造していたかもしれません(目標8:働き方にマイナス)。

日本を含む先進国の企業にとっては、途上国に広がるサプライチェーンの上流で起こっていることをきちんと把握できているかどうかが、SDGsウォッシュとなるかならないかの重要な分かれ道といえそうです。

SDGsウォッシュとは?

国連が定める持続可能な開発目標(SDGs)に取り組んでいるように見えて、うわべだけの行動や、よいところばかり宣伝するなど実態が伴っていないビジネスのことを揶や揄ゆする言葉。

類義語

グリーンウォッシュ:環境によいと見せかけてそうとは言えないような実情がある

ブルーウォッシュ:サステナビリティに貢献していると見せかけてさほどのことはしていない。国連のシンボルマークの青色から取った言葉

発信と実情のギャップは逆効果

次に、国内での再生可能エネルギー発電事業を想定してみましょう。最近、太陽光発電事業を行うために森林が過剰に伐採されたり、景観が悪化したりすることを防止しようとする自治体の条例が出てきています。太陽光発電を増やすことはCO2排出量のない再生可能エネルギーを増やし、目標7(エネルギー)にプラスですが、森林が過度に破壊されると目標15(陸上資源)にマイナスになります。

事業を実施する地域(拠点)で、自然環境にどのような影響が及ぶのか、という評価については、SDGs以前からも「環境影響評価」「環境アセスメント」と呼ばれ、事業実施主体にとっては重要なリスクチェックポイントでした。環境への悪影響を放置して事業を推進することは、法令違反になる可能性もあるからです。さらにSDGsへの貢献をPRしたのに環境破壊につながっていた場合には、「よいこと言っていたのに」という悪い評判が上乗せされるわけです。

SDGsウォッシュと同じように、「チェリーピッキング」(よいところどり)も批判の対象となりえます。本来、企業として向き合うべき重要な課題ではなく、簡単に貢献できそうな課題、これまでやってきた実績のある課題だけを取り上げて「こんなに貢献しています」とPRするようなことです。

「本業でステークホルダーに与えている悪影響を、別の社会貢献事業でカバーしようとする」例も、チェリーピッキングといわれることがあります。女子教育のための奨学金を提供して目標4(教育)や目標5(ジェンダー平等)に貢献しているとうたっても、サプライチェーン上流で発生している強制労働の実態に目をつぶっていることが発覚しては、何も評価されないどころかかえって評判が悪くなるかもしれません(目標8:働き方にマイナス)。

何事にもプラスとマイナスがある

このように考えると、どんな活動にも、何らかのマイナス面があるように思えてこないでしょうか。そして、そのように考えられること自体が、「SDGsウォッシュ」発生を予防しているといえます。

自社とステークホルダーの間に完璧な好循環を生み出すような、マイナスのない活動がゴロゴロ転がっていたら、誰でもそれを実行するでしょう。それができれば、そもそも環境や社会的な課題が生まれておらず、SDGsだって要らなかったかもしれません。

SDGsは、21世紀初めの地球上で起こっている多岐にわたる課題に対し、危機感を持ってつくられた目標です。そのため、まずは課題解決に踏み出す意欲を持つことが大切です。けれども、放っておくとこんなに多くの課題が生まれてくる(生まれてきた)わけですから、よくよく注意して取り組まなくてはならないのです。

何事にもプラスの面とマイナスの面があることを前提に、なるべくプラスを伸ばし、マイナスを減らし、その努力をきちんと外部に伝えられることが重要だと考えられます。

最近、むしろ少し心配になることもあります。先に挙げたような「SDGsウォッシュ」への批判が知られ始めると、今ある製品やサービスとSDGsとを結びつけるだけでも、「単なる紐づけをしているだけと思われたらよくない」と、「ウォッシュ的」な批判を恐れて動けないという例まで耳にするようになりました。

ただ...

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