経営の土台としてのSDGsの重要性を理解している企業は、コロナ禍でSDGsを軸としたコミュニケーションをむしろ加速させようとしている。社会課題を自分ごととして捉えた今、New Normalにおける広報のヒントを探る。
新型コロナウイルス(以下コロナ)の感染者は世界で約1000万人、死者は50万人(2020年6月末時点)に達し、人々にパンデミックの怖さをまざまざと見せつけ、今なお拡大を続けている。
このことは国連が定めるSDGs(持続可能な開発目標)の「目標3すべての人に健康と福祉を」で謳われている感染症への対処や、医療アクセスの問題を顕在化させたが、問題は単なる健康や医療に関するものにとどまらない。緊急事態宣言・在宅勤務推奨という状況下で、職種の特性や企業のITインフラなどの整備状況(多くは企業規模に依拠する)による働く環境の格差や、オンライン授業への対応状況の違いによる教育格差、また家庭ごみや医療ごみの増加といった課題を浮き彫りにした。
その他にも、コロナが直接・間接的に今後社会に及ぼす影響は、SDGsに照らして分析すると俯瞰的・網羅的に把握しやすくなる。Monitor Deloitteでは、グローバルのナレッジやNGO、国際機関などの発表内容を基に、現時点での17目標への主要な影響の速報版をまとめている(図1)。ほぼすべてのゴール領域への悪影響が懸念されるが、特にS領域(社会)においては、コロナ前より存在していた、所得、ジェンダー、障害、人種、雇用形態といった格差がより深刻な結果を伴う形で顕在化している。
一方のE領域(環境)では、経済停止に伴い、CO₂排出量や大気汚染などの指数が一時的に大幅な改善を見せ、中国やインドで青空が見えたというのがニュースになる皮肉な状況が生じている。しかし、根底にある化石燃料依存型のエネルギー構造や資源の大量消費を基調とするリニアエコノミーを能動的に変えていない以上、経済再開と共にリバウンドしてしまうであろう。
コロナ後の人々の意識・行動
一方で、人々の意識にコロナはどのような影響を与えたのだろうか。エシカル、サステナブル、パーパス(存在意義)、といった言葉はコロナ前でも徐々に生活者の中にも広がりを見せており、ファッションライフスタイル誌などでも特集が組まれていた。
楽天インサイトが20年6月に発表した調査結果によると、コロナの影響を受けて、「サステナブルな買い物」に対する意識に変化があったかどうかを聞いたところ、全体では32.9%が「強まったと思う」「やや強まったと思う」と回答した。またコロナ前後と比較して「暮らし方・生き方」がどう変化したかを問う設問では、「個人の幸せだけでなく社会全体のことを考えていきたい」という問いに対し7ポイントの上昇がみられ、人々の意識の変化が見て取れる。
また、以前よりミレニアル世代やZ世代はサステナビリティやSDGsに対して高い関心を示していたが、コロナをきっかけにより高まる傾向にあり、新卒の就職活動においても就活学生の半数程度が、説明会などのオンライン化などコロナ対応で志望度に影響があると回答しており(*1)、就活学生に対する配慮、社会の一員としてのリスク対応といったことが採用活動に影響する可能性が出始めている。このように、人々の購買や就職への意識に変化が生じており、これらを踏まえずにステークホルダーとのコミュニケーションを築いていくことは難しい。
*1「コロナ禍における就職活動の意識調査」MOCHI調べ
SDGsの3つの側面
ではそもそもSDGsとは企業にとってどのような位置づけのものであろうか。企業においてSDGsの捉え方は3つあると考えている(図2)。
1つ目は「守りのSDGs」。この視点から見えるSDGsは、今後強化が予想される法令や規制対応、広報部門においてはIRで重要性を増すESG投資家やESG評価インデックスへの対応や企業に時折送られてくるNGOからの質問状への対応などがあたる。この守りの視点においてSDGsは「外部規範」としての顔を持つ。これらに対してコミュニケーションを見誤ることは、企業としてのリスクとなる。
2つ目は...