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SDGsコミュニケーションから新たな事業が生まれる

コロナ復興の土台にSDGs 広報で企業の存在意義を指し示す

藤井麻野(モニターデロイトアソシエイトディレクター、CSV/サスティナリビティ戦略プラクティクス)

経営の土台としてのSDGsの重要性を理解している企業は、コロナ禍でSDGsを軸としたコミュニケーションをむしろ加速させようとしている。社会課題を自分ごととして捉えた今、New Normalにおける広報のヒントを探る。

ロレアルグループ
2020年6月、ロレアルグループが“地球の限界”を考慮したビジネスモデルに転換することを発表。ジャン-ポール=アゴン会長(写真左)は“地球の限界の範囲内で活動すること”に対し常に誠実であり続けると話した。同日、日本法人である日本ロレアルも2030年に向けたサステナブル目標を発表した。

トヨタ自動車
2020年5月、コロナ禍で行われたトヨタ自動車3月期決算説明会。豊田章男社長は、誰ひとり取り残さないという姿勢で国際社会が目指しているSDGs、持続可能な開発目標に本気で取り組むと話した。

国連
2020年4月、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は国際マザーアース・デーで、コロナからの復興を「未来のために正しいことをする真の機会とする必要がある」と話し、税金による事業救済措置は環境に配慮した雇用と持続可能な成長の達成に関連づけるなど、「6つの行動」を提案。

画像:国連広報センターYoutubeチャンネルから

新型コロナウイルス(以下コロナ)の感染者は世界で約1000万人、死者は50万人(2020年6月末時点)に達し、人々にパンデミックの怖さをまざまざと見せつけ、今なお拡大を続けている。

このことは国連が定めるSDGs(持続可能な開発目標)の「目標3すべての人に健康と福祉を」で謳われている感染症への対処や、医療アクセスの問題を顕在化させたが、問題は単なる健康や医療に関するものにとどまらない。緊急事態宣言・在宅勤務推奨という状況下で、職種の特性や企業のITインフラなどの整備状況(多くは企業規模に依拠する)による働く環境の格差や、オンライン授業への対応状況の違いによる教育格差、また家庭ごみや医療ごみの増加といった課題を浮き彫りにした。

その他にも、コロナが直接・間接的に今後社会に及ぼす影響は、SDGsに照らして分析すると俯瞰的・網羅的に把握しやすくなる。Monitor Deloitteでは、グローバルのナレッジやNGO、国際機関などの発表内容を基に、現時点での17目標への主要な影響の速報版をまとめている(図1)。ほぼすべてのゴール領域への悪影響が懸念されるが、特にS領域(社会)においては、コロナ前より存在していた、所得、ジェンダー、障害、人種、雇用形態といった格差がより深刻な結果を伴う形で顕在化している。

図1 SDGs17目標へのCOVID-19の影響(速報版)

出所/各種公開情報、Global Deloitteのナレッジ等を基にモニターデロイト作成

一方のE領域(環境)では、経済停止に伴い、CO₂排出量や大気汚染などの指数が一時的に大幅な改善を見せ、中国やインドで青空が見えたというのがニュースになる皮肉な状況が生じている。しかし、根底にある化石燃料依存型のエネルギー構造や資源の大量消費を基調とするリニアエコノミーを能動的に変えていない以上、経済再開と共にリバウンドしてしまうであろう。

コロナ後の人々の意識・行動

一方で、人々の意識にコロナはどのような影響を与えたのだろうか。エシカル、サステナブル、パーパス(存在意義)、といった言葉はコロナ前でも徐々に生活者の中にも広がりを見せており、ファッションライフスタイル誌などでも特集が組まれていた。

楽天インサイトが20年6月に発表した調査結果によると、コロナの影響を受けて、「サステナブルな買い物」に対する意識に変化があったかどうかを聞いたところ、全体では32.9%が「強まったと思う」「やや強まったと思う」と回答した。またコロナ前後と比較して「暮らし方・生き方」がどう変化したかを問う設問では、「個人の幸せだけでなく社会全体のことを考えていきたい」という問いに対し7ポイントの上昇がみられ、人々の意識の変化が見て取れる。

また、以前よりミレニアル世代やZ世代はサステナビリティやSDGsに対して高い関心を示していたが、コロナをきっかけにより高まる傾向にあり、新卒の就職活動においても就活学生の半数程度が、説明会などのオンライン化などコロナ対応で志望度に影響があると回答しており(*1)、就活学生に対する配慮、社会の一員としてのリスク対応といったことが採用活動に影響する可能性が出始めている。このように、人々の購買や就職への意識に変化が生じており、これらを踏まえずにステークホルダーとのコミュニケーションを築いていくことは難しい。

*1「コロナ禍における就職活動の意識調査」MOCHI調べ

SDGsの3つの側面

ではそもそもSDGsとは企業にとってどのような位置づけのものであろうか。企業においてSDGsの捉え方は3つあると考えている(図2)。

図2 企業から見たSDGsの3つの側面

出所/Monitor Deloitte

1つ目は「守りのSDGs」。この視点から見えるSDGsは、今後強化が予想される法令や規制対応、広報部門においてはIRで重要性を増すESG投資家やESG評価インデックスへの対応や企業に時折送られてくるNGOからの質問状への対応などがあたる。この守りの視点においてSDGsは「外部規範」としての顔を持つ。これらに対してコミュニケーションを見誤ることは、企業としてのリスクとなる。

2つ目は、「攻めのSDGs」。この視点に映るSDGsは、社会課題という未開拓の市場であり、新たなビジネスチャンスと捉えられ、自社の持つ技術やケイパビリティ(組織的な能力)を活用し、ビジネスとして課題解決に貢献していくことである。

この文脈でよく引き合いに出されるのが、世界経済フォーラムの諮問機関「ビジネスと持続可能な開発委員会」が報告書「Better Business,Better World」で打ち出した、「SDGs達成で年間12兆ドル(日本円で約1300兆円)の事業機会開拓が可能」という試算である。ここでSDGsは、「外部機会」として認識されている。また、ミレニアル世代やZ世代の中にはSDGsに対する貢献を重視する層も多い。その観点ではSDGsに取り組み、事業を通じた社会価値を創出していくことは、人材獲得競争における機会にもつながる。

そして3つ目が、より根源的な位置づけであるSDGsを長期経営の「土台」に位置づける見方である。これは、自社の事業を支える自然資本や人的資本、社会資本の持続可能性を確保することで、事業の持続可能性と自社の長期的成長を可能にするアプローチだ。この視点が持てているか否かにより、コロナからの経済回復の仕方においても違いが生まれ始めている。

日本では政府が緊急事態宣言解除後の経済の「V字回復」に向けた予算措置などを図っているが、国際社会や資本市場は企業に対し、サステナビリティを中心に据えた経済システムへの転換を強く求めている。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は国際マザーアース・デーで発表したメッセージにおいて、パンデミックを「より良い経済復興(build back better)」の機会にするべきとし、公的資金による救済の条件として企業にグリーン雇用の創出や持続可能な成長へのコミットメントを求めるなどの「6つの行動」を提案している。

復興の土台にあるSDGs

同様の動きは国家レベルでも起きている。欧州ではコロナ後の経済復興の軸に先般発表されたEUの経済戦略「グリーンディール」を据え、カーボンニュートラルな経済への移行を加速すべきと訴えた。現実の政策レベルにおいても、ロックダウンで経営危機に陥った航空会社の救済申請に対し大幅な環境負荷削減を課す事態が起きている。

また、国際コーポレート・ガバナンス・ネットワーク(加盟機関の運用資産総額は約5800兆円、日本からは年金積立金管理運用独立行政法人の他、多くの生保、信託銀行、アセットマネジメントなどが加盟)は4月23日、長期思考を重視し、従業員や社会に対する責任を優先すべきとする企業向け書簡を公開した。平時に自社の成長を支えてきた労働者を、有事の際に企業側がどう扱うかにこそ、その企業の長期的な成長性が表れると投資家が判断した格好だ。

書簡の中で経営陣に要請されていることには、パーパスの公言やすべてのステークホルダーとの包括的なコミュニケーションなど広報とも密接に関わる内容が記載されている。

これらの動きに呼応するように企業も動き始めている。米国では、ペプシコ、マイクロソフトなど330以上の企業トップがコロナからの経済復興政策の中で気候変動対策を重視する「グリーンリカバリー」を実現する立法を求める共同声明を発表し、英国では、ユニリーバやNECヨーロッパなど150以上の企業・団体のリーダーらが、ボリス・ジョンソン首相に、復興計画の根幹にSDGsを据え、危機を機会として捉え、より良い未来を構築するよう求める書簡を送るなどの動きが起こった。

個社レベルでも、ロレアルグループが2020年6月にプラネタリー・バウンダリー(地球の限界)を考慮したビジネスモデルに転換することを発表し、日本においてもトヨタ自動車が2020年3月期決算説明会で、コロナを踏まえたうえで「SDGsを強化する」と宣言している。企業経営の土台としての重要性を理解した企業はコロナ禍でもその取り組みの手を緩めておらず、むしろ加速させようとしている。

広報のNew Normalとは?

このような状況下で広報担当者に期待されること、意識すべきことは何であろうか。

1点目は様々な社内外のステークホルダーとつながっているからこそ入ってくる、外部の変化や声に耳を傾ける「サステナビリティ・センシング」機能を持つことである。

多くの場合、新たな社会課題の提唱は、ある地域や個人固有の社会運動として草の根で始まり、ある熱量を超えると、市民社会、その一員としてのNGOや市民社会の声を取り上げるメディアが有する「拡声機能」が働き、急激に世論が高まる。この過程で他のステークホルダーも当該課題の提唱に巻き込まれていった結果として、サステナビリティ関連の評価機関の評価基準や業界ルール、政府の規制などにまで広がっていく。

このような動きは、「サステナビリティのステージ論」として(図3)のように整理される。縦軸に市民(その代表としてのNGO)の関心度の高まり、横軸に規制当局や資本市場の関心度を取り、左下のStage1から左上のStage2を経て、最終的に右下のStage4に到るという過程を辿る。できるだけ早期の段階(特にStage2)で新たな社会課題の潮流を先進的に捉え、自社にとって何をどうコミュニケーションすることがブランド形成や企業価値につながるのか、あるいはそれらを毀損することになるのかアンテナを張る機能を整備しておくことが求められる。

図3 サステナビリティ・センシング・フレームワークと社会課題の例

出所/Monitor Deloitte

例えば、米国で広がるBlack Lives Matterに対してステークホルダーの反応を見誤り、巨大なプラットフォーマー企業が従業員からのストライキや取引先から広告の引き上げを受けるなどの事態を生んでいる。社会課題に対する企業姿勢、それをどのようにコミュニケーションするかによって(時には沈黙することが)、非常に大きなダメージを負うことにつながりかねない。

2点目は、センシングしたことを踏まえて、「CSV(Creating Shared Value)の視点で発信をしていく」ということである。

SDGsについての具体的な活動は、社内の中でもCSR部門が中心となって担当しており、慈善活動の延長で取り組まれているケースもある。そのような結果、情報発信していく内容や方法も一側面的な範囲に留まりがちで、企業活動全体の社会価値あるいは存在意義といったステークホルダー間の共通価値を生み出すような目標やアスピレーション(志)といったことが十分に語られていないこともある。また自社の商品やサービスが広がるほどより良い世界が生まれる(結果シェアも拡大する)といった競争優位性の視点が込めきれずにいるケースも見られる。

SDGsに対する方針や貢献をコミュニケーションしていく上では、その内容が、センシングした世の中の関心と合致しているか、期待を超える視点を込められているか、自社のパーパスの訴求につながっているか、経済価値と社会価値の両方を訴求できているか、またメッセージに社会課題解決として取り組む範囲や目標水準、課題の解き方といったステークホルダーが求める要素が込められているかなどといったことをふまえておく必要がある。

また、コミュニケーションの方法の観点でいえば、格差社会の中で様々な課題を抱えている人に十分に届く方法であるか、あるいはコミュニケーションを通してエコシステム形成につなげていく場を用意できているかといったことを考慮していくことも重要である。

コロナをきっかけに、社会課題がもたらす危険性を人々や企業が自分ごととして感じ始めている。今まで以上にステークホルダーの変化や声をいち早く捉え、社会にとって自社がどのような価値をもたらすかという視点でのコミュニケーションが広報にとってのNew Normalのひとつとなっていくのかもしれない。

CHECK
SDGsコミュニケーションで考慮すべきこと

☑世の中の関心と合致しているか、期待を超える視点を込められているか

☑自社のパーパスの訴求につながっているか

☑経済価値と社会価値の両方を訴求できているか

☑メッセージに社会課題解決として取り組む範囲や目標水準、課題の解き方といったステークホルダーが求める要素が込められているか

☑様々な課題を抱えている人に十分に届く方法でコミュニケーションできているか

☑エコシステム形成につなげていく場を用意できているか

モニター デロイト
アソシエイトディレクター、CSV/サスティナリビティ戦略プラクティクス
藤井麻野(ふじい・まや)

メーカー、運輸、金融、サービス、商社などを対象に戦略コンサルティングに従事。近年はCSV、サステナビリティを切り口としたビジョン・戦略策定やブランド・広報戦略、SDGsを起点とした新規事業戦略策定、マネジメントシステム構築などのプロジェクトを手掛ける。共著に『SDGsが問いかける経営の未来』。

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