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社会的責任としてのファクトチェック

武蔵大学社会学部メディア社会学科教授 奥村信幸

見えないウイルスの感染拡大による社会不安から誤情報・偽情報が拡散しやすくなっている。社会に混乱を招くインフォデミックはいかに起こるのか。情報収集・発信力が求められる広報担当者が知っておきたい情報拡散のプロセスを解説。

新型コロナウイルスによる不安な空気が長引き、いわゆる「フェイクニュース」も増え続けています。IFCN(国際ファクトチェッキング・ネットワーク)の集計では、2020年1月から5月初旬までに世界で5000件近くの間違った情報が広がり、ファクトチェックされました*1。ネットワーク社会が進み拡散のスピードは増し、感情的反応も強くなっているように見えます。

*1 The Corona Virus Facts Alliance Databese, IFCN(International Fact-Checking Network),

しかし、対応するニュースメディアの能力は必ずしも充分とは言えません。この問題に取り組む医療や公衆衛生政策などの分野の専門記者は数が限られています。2011年の東日本大震災当時、原子炉や放射性物質について状況判断し、解説もできる記者が不足していたのと同じ状況が起きています。また、誤報を検証し正すファクトチェックの分野でも日本では常勤のファクトチェッカーが、ほとんどいないのが現状です。

私たちが今後、この未知の脅威と共存していく中で、企業も一般の市民も、経験やデータをシェアして積極的に集合知を作っていくことが求められるでしょう。企業もトラブルフリーの考え方を脱し、自社の業種に専門的な問題について整然に、毅然と対応すれば、信頼感醸成、ブランド向上に資するのではないかと思います。

そのためのヒントとなりそうなトピックをいくつか説明します。

「フェイクニュース」は時代遅れ

国際的なファクトチェックのコミュニティでは、「ミス/ディスインフォメーション(mis/dis-information)*2」という言葉を代わりに使うべきという考え方が、すでに常識となっています。2019年11月30日のニューヨークタイムズ記事*3によると、アメリカのトランプ大統領に刺激され、2016年末から約3年の間に、世界40カ国の政治リーダーや高級官僚が、気に入らない報道を「フェイクニュース」と呼びました。もともと定義があいまいだった言葉が、ジャーナリズムを攻撃する高度な政治的な意味を持ってしまいました。

*2 国際的なファクトチェック推進団体 First Draftによると、misinformationはパロディの誤解などを含む意図的ではない間違った情報の発信、disinformationは誰かを攻撃することを狙ったものという大まかな線引きがあるとされています。

*3 The Editorial Board of the New York Times, "Who Will Tell the Truth About the Free Press?", The New York Times, November 30, 2019,

残念ながら日本ではまだ、そのような認識が共有されていないのが現状です。

情報がどんなに馬鹿げたものであっても、間違って信じている人たちを感情的に貶めるニュアンスの表現で批判するのは社会のためにはなりません。シンプルに「間違った情報」「正確でないニュース」「誤解」「でっちあげ」などを使う方が、ファクトチェックをする側の信頼強化にもつながるのです。

日常的な情報収集の必要

新型コロナウイルスによる不安や自粛ムードのストレスは、この原稿が出される6月初旬に、どのくらい緩和されているか筆者も予想ができません(執筆は5月初旬)。ソーシャルメディアも普及している現在、「どこから矢が飛んでくるかわからない」状況です。しかし、自社や同業種に影響がありそうな分野で、どのような誤情報が飛び交い、どのような人たちが反応しているのか把握しておくことは、万が一の際に行動を起こすために重要だと思われます。

冒頭に紹介したIFCNでは、世界各国で新型コロナウイルスに関連して拡散しているミス/ディスインフォメーションが、どのように検証されたのかのリストをウェブサイトで公開しています。地域別や間違いの深刻さを示す「レーティング」別で検索もできます。日本のファクトチェック普及を支援するFIJ(ファクトチェック・イニシアティブ)でも特設サイトで、国内のメディアパートナーのファクトチェックとともに、IFCNのリストの中から日本に影響があるものを選び翻訳して紹介しています*4図1)。

*4 「新型コロナウイルス特設サイト」FIJ(ファクトチェック・イニシアティブ)https://fij.info/coronavirus-feature

図1 FIJ(ファクトチェック・イニシアティブ)の「新型コロナウイルス特設サイト」
国内情報まとめのページではメディアパートナーのファクトチェックの結果をリストアップ

リストを見渡してみるとミスインフォメーションのカテゴリーは、予防法、殺菌のしかた、ウイルスの発生源、有名人の感染、マスクの配布などの政府の対応、施設の開放などのアナウンスなど多岐に渡ります。IFCNではどのような種類の情報が多いのかをグラフ化しイメージできるよう工夫もしています*5

*5 IFCN,"Fighting the Infodemic:The #CoronaVirusFacts Alliance",

専門分野には「介入」も必要に

たとえば、新型コロナウイルスの感染予防法について、疑わしい言説を探してみますと、「お茶を飲め」、「部屋に玉ねぎを置け」などから、「唐辛子とオレンジの皮を煮て蒸気を吸え」など多少手間がかかりイヤな思いはしても、健康には無害に見えるものが大部分を占めているようです。

しかし、2020年1月末にアメリカでツイッターを通して拡散した「漂白剤を飲むと感染予防できる」のような、深刻な健康被害の恐れがあるものもあります。MMSやクロロックスなどの名前で知られる漂白剤は、2010年以降、「飲むとガンやHIV、肝炎に効く」というデマが何度となく広まって、FDA(米食品医薬品局)はHPで何度も警告を出してきました。

今回は有力なファクトチェック団体のポリティファクト(Politifact)がただちに、何の医学的な根拠もなく危険だと指摘し、「真っ赤なウソ(彼らのレーティングで最下位の「パンツに発火(Pants on Fire)」)と伝え、警告のメッセージを強化しました*6

*6 Samantha Putterman,"Says drinking a bleach solution will prevent you from getting the coronavirus.-No,drinking bleach will not ward off coronavirus", Politifact,January 30, 2020

大部分の人にとって漂白剤を飲むことが馬鹿げているのは当たり前です。しかし...

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