SDGs達成に向けて、全国の自治体で企業との連携が進む中、「企業版ふるさと納税」による連携も選択肢のひとつになっている。JTBの「ふるさとコネクト」では、企業のニーズに基づいたマッチングが可能だ。
近年、内閣府ではSDGs(持続可能な開発目標)を地方創生の原動力として位置付け、自治体レベルでのSDGs推進に力を入れている。
そのカギを握るのが民間企業。2019年12月に内閣府が発表した「第2期まち・ひと・しごと創生総合戦略」でも、自治体の取り組みを促進させるための3本柱のひとつとして、「官民連携の促進」が掲げられている。2018年8月には「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」も設立している。
企業が自治体と連携を進めるための手段のひとつとしては、「企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)」がある。企業が国の認定を受けた自治体の地方創生プロジェクトに対して寄付を行うと、その際の税額が控除される仕組みとなっている。2016年にスタートし、2020年4月の制度改正で5年間の延長が決まった。
この制度改正により、税額控除の割合が3割から最大6割にまで拡大。損金算入による軽減効果の約3割も考慮すると、企業は実質約1割の負担で自治体に寄付できるようになったため、注目が集まっている(図1)。
自治体と企業をマッチング
このタイミングに合わせて、個人向け納税ポータルサイト「ふるぽ」を持つJTBが開設したのが、企業向けのサイト「ふるさとコネクト」。ふるさと開発事業部 営業推進課長の永井大介氏によると、日本の古き良き自然や地域(ふるさと)を思う気持ちをきっかけに、企業や自治体などがつながる(コネクトする)場になることを目指している。
サイトでは、企業からの資金調達を希望する自治体の地方創生プロジェクトを紹介。一方、企業からは社会貢献や事業展開などのニーズをヒアリングし、それをクローズドで自治体に発信している。双方のニーズをマッチングさせて、寄付につなげる仕組みだ。
企業に期待される効果は、企業価値の向上、多様性に富んだ人材確保、SDGs経営の実践、新たな事業機会の創出など(図2)。永井氏は「自社の強みや余剰資源を地方創生に活用することができるため、CSRやSDGs、ESGに関わる活動の一環として取り組むこともできます」と話す。
さらに、将来的にはSociety5.0やCASE(*)、MaaSなどに関連した実証実験の場所を探す企業に対して、場所を提供するようなプロジェクトも出てくる可能性があるという。
自治体と連携したPRも可能
寄付をした企業は、寄付先の首長との共同記者会見や感謝状の授与、寄付先での協働検討会や地元大学での講演会の開催など、様々なPRの場も設けることができる。
例えば、岡山県瀬戸内市では2018年11月から、県外への流出が懸念されていた国宝「山鳥毛」(日本刀)を同市へ里帰りさせるプロジェクトを実施。2020年3月31日までに、個人や企業から総額8億8000万円を超える寄付が集まった。このプロジェクトでは、寄付をした企業から市長に目録を贈呈する様子を市の公式SNSで発信し、1万6000リツイートを達成した。
永井氏は「企業版ふるさと納税は、企業と自治体に精神的なつながりを生み出します。この取り組みを広げることで、自治体の関係人口の増加にもつなげ、地方創生に貢献していきたいです」と話している。
「企業版ふるさと納税」活用先行企業に聞く
2自治体と連携するアステリア 長期的にエコシステムを構築
ソフトウエア開発のアステリアは、「企業版ふるさと納税」のスタート時(2016年)からこの制度を活用している。
同社が自治体との連携を始めたのは2015年9月。きっかけは同年5月に主力製品「ASTERIA Warp」の導入社数が5000社を超えたことだった。これを記念してCSR活動「Asteria Green Activity」を立ち上げ、熊本県小国町と提携。町に生育する樹木5000本を管理し、林業の再生に対する支援を行っている。翌年に「企業版ふるさと納税」制度が始まると、内閣府から対象事業として認定を受けた。
ただ、小国町との連携が実現するまでには苦労があった。アステリア コミュニケーション本部長の長沼史宏氏によると、まずは全国森林組合連合会でのヒアリングから実施。様々な協力者の力を借りながら、各地域の課題の把握や予算感に見合ったプロジェクトを実行できる自治体を探した。
2016年には同社のツール「Handbook」の契約件数が通算1000件を超えたことを機に、秋田県仙北市とも連携。桜の保全活動や、産業振興に向けたICT導入促進を行っている。こちらも「企業版ふるさと納税」の対象事業として認定を受けている。
「地域には、東京にはない社会課題とともに自然豊かな環境があります」と長沼氏。企業は、ふるさと納税を通じて地域と強固なパートナーシップを確立することができるのだ。自社の技術やサービスを活かしてよりよい地域社会を実現したり、住民との交流で新たなアイデアが生まれたり、といった相乗効果もある。
「寄付だけでなく、長期的に関係人口の1人になることで、地元の方の血肉になるような活動を行うことができます。そして、自社にも何かしらのリターンがある"エコシステム"が構築できるのです」と話した。
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JTB ふるさと開発事業部
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