2020年3月4日、スーパーマーケット「イオン」の一部店舗でトイレットペーパーが山積み状態で販売され、大きな話題になった。デマの影響で小売店でのトイレットペーパー不足が深刻化する中、買い占めを抑止しようと協力したのが丸富製紙(静岡県富士市)だった。
Twitterの在庫写真に反響
「トイレットペーパーが品薄になる」というデマが、Twitterを中心に広まり始めたのは2月末ごろ。その後、メディアが「デマの影響で買い占めが起きている」と繰り返し報道したことで、消費者の不安があおられ、本当に品薄状態になった。
丸富製紙執行役員の太田智紀氏(東日本営業本部長兼マーケティング本部長)によると、2月末時点で製品在庫は十分にあったが、通常時の3倍に膨れ上がった発注数に対し、2倍程度のトラック台数しか手配できず配送が追い付かない状況になっていた。
そのため、マーケティング部では3月2日、TwitterとInstagramの公式アカウントにトイレットペーパーの入った箱が大量に積まれた倉庫の写真を投稿。「当社倉庫には在庫が潤沢にございますので、ご安心ください!今後も通常通り、生産・出荷を行なっていく予定です。」などとコメントした(❶)
すると、特にTwitterでの反響が大きく、1週間で約25万件の「いいね」が付いた。投稿日の夜には、タイミングよく『報道ステーション』(テレビ朝日)で同社が取り上げられ、投稿内容と同様の倉庫の映像が流れたことで、より多くの人の認知を獲得。その後もメディア露出が続いたことで、ツイートへの反響も伸びたのだ。
商品の出荷の様子も発信
投稿のきっかけは、前日の静岡新聞の取材。同紙に倉庫の様子が掲載されたことで、他のメディアからも取材や写真提供の依頼が入り、メディア向けの素材を自社のSNSでも発信しようと考えたという。太田氏は「“今なら多くの人に訴求できるのでは”と考えて、SNSが得意な部下の2人に投稿を指示。彼女らが明確で簡潔な文章を考えてくれました」と話す。
ただ、この投稿へのリプライには「これだけ在庫があるのに、なぜ店頭には売っていないの?」という不安の声も多かった。そのため太田氏らは「倉庫の写真だけではなく、実際に出荷している様子や運転手が大変な思いをしていることも知ってほしい」と考え、3月3日~4日には商品を出荷する写真や動画を投稿した(❷)
さらに、4日には小売店の販売員に向けたメッセージも発信。「いつもお客様からの問い合わせなど丁寧にご対応頂き、ありがとうございます!」などと投稿した。
大量陳列で消費者の理解促進
そんな中、3月3日にイオンから「トラックを手配して在庫を取りに行きたい」との供給要請があった。同社がそれに応えたことで、翌日には関東圏の複数店舗での大量陳列が実現したのだ。
その量は1店舗あたり6000~9000パック。消費者に圧倒的な在庫数を体感してもらうことで、買い占めの防止にもつながった。中には現場判断で「おひとり様10点まで」と掲げ、“無理して買わなくても大丈夫”と訴えるユニークな店舗もあった。
この取り組みは訪れた買い物客によってSNSでシェアされ、瞬く間に全国に広がった。ウェブメディアを中心とした多くのメディアでも取り上げられ、社会全体にも影響を与えた。イオン以外の数社の小売店でも、トラックを手配して倉庫まで在庫を引き取りに来るケースがあったという。
太田氏は「Twitterにたくさんの温かいコメントをいただき、生活必需品メーカーとして感激しています。物流企業さまや店頭の販売員さまのご苦労を、消費者の方々に少しでも理解していただけてよかったです」と振り返った。