在宅勤務やテレワークを初めて導入する企業が急増する中、先行事例として話題となったGMOインターネットグループの事例を紹介する。
2020年1月27日、他社に先駆けてグループ全体で在宅勤務を開始したGMOインターネットグループ。グループコミュニケーション部グループ広報・IRチームの石井晴美氏は、取材依頼が相次ぐなか、「経営陣の意向をステークホルダーの方々にいかに正しく理解していただくか、を意識して活動してきました」と話す。
平時からの訓練が役立った
同グループでは、日本国内で初の感染者が確認された翌日の1月16日に緊急対策本部を設置。日本国内で3人目の感染者が出た翌日の1月26日(日曜)に、月曜日からの在宅勤務を決定した。元々定めていたBCP(事業継続計画)に基づいて、従業員の身を守ることを最優先にした手段を実行したのだ。
在宅勤務の対象は全従業員の9割に当たる約4000人。同グループでは、2011年の東日本大震災以降は毎年、避難訓練とともに“コミュニケーションラインの確保”やリモートワークについても訓練してきたため、在宅勤務への移行もスムーズにできた。
やむを得ず出勤する従業員や来社する取引先もいるため、社内でも受付にサーモグラフィーを設置したり、エレベーターのボタンに除菌シートを貼ったりするなど、感染予防を徹底している。
メディア対応用の資料を用意
このような早期の取り組みはメディアからの注目を集め、在宅勤務開始から1週間で新聞25件、テレビ3件、ウェブメディア67件の報道があった。
石井氏によると、まず行ったのは在宅勤務体制への移行についての発表。経営陣の意思決定は日曜日の午後だったが、ステークホルダーへの影響を考慮して、すぐに発信した。その日の日経電子版や翌朝の日経新聞本紙にも記事が掲載され、多くのビジネスパーソンに周知することができた。
その後、問い合わせが急増。取材には石井氏を中心とした広報部門の4人で対応してきた。緊急対策本部に広報部門のトップが参加しているため、グループ全体の動きと連動した情報発信がスピーディーに行えているという。
「取材では、複数のメディアから在宅勤務に至った経緯やその後の進捗状況を繰り返し聞かれました。そのため、自社の取り組みと外部要因を時系列に整理するなど、メディア対応のための社内資料を用意しました」と石井氏。
もちろん、取材の現場でも感染対策を徹底。例えば通常の取材はオンラインへ切り替えるなど、できる範囲で臨機応変に対応した。特に気を付けたのが従業員を対象とした取材だ。「在宅勤務をしているパートナー(従業員)の自宅に取材が入るのは感染予防の観点で途中からNGとしました」と石井氏。
在宅勤務開始から約1カ月後の2月28日には、プレスリリースで従業員アンケートの結果を発表(回答数2800件)。「在宅勤務体制については、9割近くがおおむね高評価」という内容だ。
石井氏は「当社ではこれまで、これほど大規模な在宅勤務を実施することがなかったので、今後のためにも記録に残せるデータを取得しておきたいという意図で実施しました」と話す。リリースを出したのは、在宅勤務を検討する企業が増えたため、他社の参考になればという想いからだった。
3月10日にはテレビ東京の『ガイアの夜明け』の特集「見えない敵と闘う~“新型コロナ”に立ち向かう企業~」で取り上げられるなど、ストレートニュース以外の取材も増えている。
Twitter分析でコントロール
石井氏が最も難しいと話すのが、ブランドイメージのコントロール。ネガティブな社会課題に絡んだメディア露出だけに、「便乗して企業イメージを高めようとしているのでは」と批判されることにもなりかねないからだ。
そのため、新型コロナウイルスの発生を機にTwitterを分析するツールを導入した。3月10日時点で、検索ワード「GMO、在宅」で分析すると、ポジティブコメントが30%、ネガティブコメントが7%と、今のところ大きな炎上はないという。
意識しているのは「従業員の身を守ること」という経営陣の意向を正しく伝えること。そして、在宅勤務そのものに対するイメージを下げないこと。「すべての記事・番組がこちらの意図通りの報道内容だったわけではないですが、SNSの分析を見ながら発信の仕方を工夫しています」と石井氏。
インターネット上に様々な情報が飛び交う中、広報は情報の発信側と受け手側のバランスを調整して企業ブランドを守る、重要な役割を担っているのだ。