SARSやMERSなど数年単位で流行が繰り返されてきた感染症。2009年の豚インフルエンザ発生時に企業取材に当たった元日経新聞記者の松林薫氏が、感染症流行時のメディア対応を解説する。
2019年末に中国で発生したコロナウイルスによる新型肺炎が、日本でも猛威を振るっている。感染力こそ強いものの、致死率は1~2%程度とSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)ほどは高くない。
しかし、中国・武漢の例を見ても分かるように、この感染症の真の恐ろしさは、短期間に重症患者が増えて「医療崩壊」を引き起こす点にある。本気で抑制に取り組まなければ、犠牲者の急増や東京オリンピック・パラリンピックの中止につながりかねないことは認識しておくべきだろう。
また、仮に新型肺炎が国内で大量の死者を出す前に終息したとしても、近い将来に「強毒性鳥インフルエンザ」が流行する危険性が控えていることを忘れてはならない。
強毒性鳥インフルは、幸い、現時点では大規模な「ヒト・ヒト感染」を起こす変異が起きていない。ただ、筆者が厚生労働省記者クラブにいた2006年にはすでに、専門家が「いつパンデミックが起きてもおかしくない」と警鐘を鳴らしていた。つまり、新型肺炎による騒動のような事態は繰り返される可能性が高い。今回は直接的な被害がなくても、「強毒性鳥インフル対応の予行演習」と捉え、危機管理体制を見直す契機にすべきだろう。
低い致死率ほど感染力が強い
では、こうした感染症の流行が発生したとき、広報はどのように対処すべきか。2009年に大流行した豚インフルの取材経験も踏まえて考えてみたい。
注意すべきなのは、大きな被害をもたらす感染爆発は、必ずしも「強毒性」の病原体によって引き起こされるとは限らないということだ。実際、エボラ出血熱やSARS、MERSなど致死率の高い感染症は、新型肺炎ほどの犠牲者を出す前に封じ込められている。
これは、毒性が高いほど宿主であるヒトを早く弱らせるため、感染が広がりにくいからだ。裏返せば、パンデミックは毒性が弱めの病原体によって引き起こされる可能性が高い。新型肺炎はまさにこのケースだ。
現在の医療システムの下では、感染症の流行は早い段階で把握され、世界に伝えられる。ただ、その毒性が弱い場合はリスクを過小評価し、対応が遅れがちだ。広報も新型肺炎の教訓を踏まえ、今後は"致死率が数%程度で、感染力の強いケース"も含めて警戒すべきだろう …