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社会課題解決型PRの進め方

メディアも求めているソーシャル視点 PRの力で社会課題を解決するには

片岡英彦(東京片岡英彦事務所 代表/企画家・コラムニスト・戦略PR事業)

SDGsの考え方が浸透し、メディアや投資家が企業を判断する視点が変わってきた。利益優先ではなく、社会的な文脈のなかで企業価値を感じてもらうことが必要だ。広報担当者はそんな変化をどのように捉え、日々の活動に取り入れるべきか。

スペックよりも重視される「社会的価値」

広報担当者にとって「自社の商品をどうすればメディアに取り上げてもらえるか」は、古くて新しい課題のひとつだ。

かつて、メーカーなどの広報担当者は、商品PRの際に自社の商品・サービスの「スペック(機能や性能)」を第一に訴求した。技術革新が進展しスペック訴求だけでは商品差別化が難しい時代になると、次に独自性ある「デザイン」「サポート」など商品の機能以外の付加価値を広く訴求するようになった。

近年では、商品デザインやサポートに加え、いかに自社商品が「社会的価値」を持つかを訴求する機会が増えてきている。「社会的価値」とは自社商品が社会に生み出す、新たな「価値(ストーリー)」のことだ。これは社会的な文脈のなかで、生活者の「共感」として伝えられる。

広報担当者はメディアに対して、自分たち"しか"生み出すことができない排他的(Exclusive)な価値と、自社が社会で果たす役割をいかに示せるかが重要となってきている。どんなにメディアに商品の機能や利便性を訴求しても、新たな社会的価値を持たない商品(企業)がメディアで紹介されることは難しいのだ。

企業の広報活動における、このような「ソーシャル視点」を重視する姿勢は、もちろん以前からもあったが、この流れに火をつけたのが、昨今のSDGsの企業コミュニケーション活動への影響だ。

「ソーシャル視点」のストーリーとは

2019年8月、私はBBCニュースのサイトで「米経済団体、『株主第一』を廃止 福利厚生や地域に注力へ(日本語版)」という記事の見出しを見て驚いた。

企業は利益を生むこととともに、社会的責任を果たすことにも注力すべきだと、アメリカ最大規模の経済団体が発表したのだ。これまでは「株主利益優先」が企業にとっては当然のことだと考えられてきたが、企業の持つ価値観が根底から変わりつつある。

業界をリードするような大企業ばかりではない。私の周りにはこの手のムーブメントに敏感に反応する中小・ベンチャー企業の経営者も多い。彼らの多くがこうした流れに遅れないようにと、自社の広報部門が中心となり「ソーシャル視点」のメッセージをメディアを通じて発信しようと試みている。

経営自体がこうしたソーシャル視点に立ってなされない限り、企業の存続や存在そのものが成り立たなくなるであろうことを、直感的に感じているようだ。企業の経営者ばかりではない。メディアの中の人々にとっても、この価値観の急激な変化は影響を及ぼしている状況だ。

では、広報担当者は具体的にどう対処すればいいのか。メディアはいつの時代にも、読者や視聴者に有意義な情報を提供したいと考えている。企業のプロモーション情報をそのまま企業目線で掲載することを嫌う。

したがって広報担当者は自社や自社商品の強みやスペックを伝えようとするのではなく、いかに現代の社会にとって自社の製品は意味があるのか(生活者に望まれて生みだされた「モノ」なのか)を生活者目線での文脈(ニュース)としてメディアに提供する必要がある。

今、広報担当者がメディアに届ける際に求められている視点は、こうした社会的な文脈づくりだ(図1)。よく経営者や企業内の広報担当の方々は自社や自社商品の"革新的技術"や"世界初の機能"などについて、いかに画期的かということを熱く語ってくれる。だが残念なことに、その商品が「今」という時代の生活者に、具体的にどういう「意義」があるのか、生活者と社会をどのように「幸せ」にするのか、説明からだとどうしても理解できない。

    ①社会問題を解決する商品。開発から問題解決までの分かりやすいストーリー

    ②地元の特産品を用いた商品開発。地域密着した活動。その土地ならではの気付き

    ③若者や子ども、社会的弱者、困っている人を支援する企業と地域の活動

    ④目新しいユニークな発明・発見、社会に役立つ"初"のチャレンジ

図1 メディアが好むストーリー

おそらくこの調子で積極的にメディアにアプローチしても、メディアがこの商品を取り上げて、生活者に向けて広く紹介するハードルは高い。なぜならば、あらゆる企業が安価なネット広告やSNSの公式アカウント、オウンドメディアを通じて商品情報を発信することが可能になったからだ。

単なる「(優れた)商品情報」だけでは大量の情報の中に埋もれてしまうのだ。わざわざマスメディアが報じなくとも、生活者はいくらでもネット上から情報を拾ってくることができる。こうした情報はメディアがわざわざ取材してまでも読者や視聴者に伝えたいと思う内容ではない。

ところが、私が「ソーシャル視点」での広報活動を経営者や広報担当者に勧めても、なかなか反応が良くないこともある。例えば「社内(おそらく営業や販売部門)の社会貢献意識が高くない」、だからあえて「ソーシャル視点で情報発信を行うことに、後ろめたさ、気おくれを感じる」という反応だ。

ソーシャル思考は「偽善」なのか?

先日、大手企業の幹部の方と、最近の就活生の傾向について興味深いやりとりがあった。

私:最近は学生の「社会貢献」への意識が高まっているので、ES(エントリーシート)や面接の内容にも表れてきていますか?

幹部:半分くらいの学生は「ボランティア活動を通じて社会貢献の意識が高まった」「入社したら社会課題を解決したい」というようなことを書いていますね。

私:企業ブランドや商品PRをソーシャル視点で考える企業は増えてきているので、会社にとっても良い傾向では?

幹部:ところが困ったことに「将来どういう社会貢献活動を行いたいか」は熱く語っても「活動費はどこから出るの?」と尋ねると、うまく答えられないのですよ。

「社会貢献への熱い思い」よりも「ビジネスとして成立するか」を自分たちは重視する。答えられなければ採用はできない、とこの幹部は続けた。世の中のムードとしての「ソーシャル思考」が高まる中、単なる「寄付活動」と異なり、実際に何をどう実行したら、より具体的に社会問題を解決できるのか。その資金はどこから獲得したらよいのか。こうした具体的な解決手段についての議論は一般的にはあまり進んでいないように思える …

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