新聞や雑誌などのメディアに頻出の企業・商品のリリースについて、配信元企業に取材し、その広報戦略やリリースづくりの実践ノウハウをPRコンサルタント・井上岳久氏が分析・解説します。
夏に小型扇風機を持ち歩く人を目にするようになったのは2018年ごろからでしょうか。それが爆発的に増えたのは2019年だと思います。
今回は、ブームの牽引役となったインテリアショップ「Francfranc(フランフラン)」による、「フレ 2WAY ハンディファン」リニューアルのリリースを紹介します。
もともとハンディファンブームの発信地は韓国や中国。近年の韓流ブーム再来にのった若い女性たちが、韓国旅行の際に購入して使うようになったのが日本で広まるきっかけだといいます。
フランフランの開発担当者は海外出張が多く、2017年に中国でハンディファンを目撃。日本にあったおもちゃレベルのものに対し、風力も強く十分実用に足るものだったことから、日本でも商品化を検討しました。
とはいえ、日本でのニーズは未知数。2018年は低めの数字で生産したところ、ちょうど5月の猛暑で需要が高まり一時は欠品になったそうです。結果的に、初年度は10万台を販売するに至りました。
露出が減少する2年目の壁
商品のヒットから2年目となる2019年3月末に配信し、爆発的な大ヒットに結びついたのが今回のリリースです。広報担当者なら誰でも分かるように、メディア露出における最大のチャンスは新商品発売時です。ところが、商品リニューアルとなると、残念ながらほとんど取り上げてもらえません。フランフランはそんな2年目の壁をどう乗り越えたのでしょうか。
リニューアルの開発は2018年秋に始まりました。初年度の経験から見えてきたのは、屋外で持ち歩くだけでなく、屋内や車中での需要もあること。例えば自動車のドリンクホルダーに持ち手を立てて使う人も多く、首振り機能をつけてほしいという要望も多かったそうです。そこで2019年度は「回転スタンド」を別売で販売することにしました。
また、カバンの中で勝手に電源が入ってしまうのを防ぐため、スイッチを2秒間長押ししないと電源が入らないようにするなど、実用面を中心に改良していきました。
ここからは実際のリリースを見ていきましょう。まず、「昨年大ヒットした」商品であることを伝えたくても、それだけでは過去のものになってしまうので(ポイント1)「さらに進化して登場する」ことを、タイトルでしっかり訴求しています。
時代に即した表現の手法
注目すべき点は、(ポイント2)発売1年目の好調ぶりを数字やグラフではなく、Instagramに寄せられたコメントで表していること。これはSNSが盛んな時代ならではの表現といえます。
リリースへの引用を考えたのはマーケティングコミュニケーション部PR担当の深沢綾さん。投稿者一人ひとりに引用許可の連絡を取ると、みな快諾してくれたそうです。リリースは配信する側の主観でなく、客観的要素だけで構成するべきですが、SNSならその点もきちんとクリアしており、ありそうでなかった手法だと思います。
先述のように、2年目は「どこが変わったか?」が重要。(ポイント3)2枚目の「改良した点」に箇条書きで簡潔にまとめています。開発チームから届く商品情報をまとめる中で、PR担当の下村彩さんたちは売りどころに苦心したといいます。というのも、リニューアルのメインが「風量増加」や「体感騒音の低下」など、実用重視で派手さに乏しい内容だったからです。
実は2018年のヒットを受けて、他社でもハンディファン市場への参入が激増。両手を使えるよう首かけ式にしたり、ミストが出るようにしたり、多彩な商品が登場していました …