炎上のリスクは、ネット上のあらゆる場所に潜んでいる。予防や火種の早期発見、鎮静化などを手がけるシエンプレの桑江令氏が、2019年の事例をもとに、デジタル・クライシスの仕組みを解説する。
2019年を象徴するネット炎上のひとつに、2月に発生した大戸屋ホールディングス(HD)の"バイトテロ"事件をはじめとする飲食・コンビニチェーンでの炎上がある。大戸屋HDの件では、アルバイト従業員がInstagramのストーリーズに不適切動画を投稿し、批判が殺到した。
このように、直接企業に訴えるのではなく、SNSや口コミサイトに投稿される生活者の不満や要望は「サイレントクレーム」と呼ばれる。シエンプレの桑江令氏は「炎上対策として社名やサービス名でエゴサーチをしたり、SNS分析ツールを導入したりしている企業も多いですが、キーワード検索では拾えない火種もあります」と警鐘を鳴らす。例えばTwitterのリプライとして書かれたコメントや、Instagramのストーリーズなどだ。
サイレントクレームを放置すると、企業やブランドに大きなダメージを与える「デジタル・クライシス」に発展する恐れがある。「現在は、注目度の高い話題では投稿から2~3時間でテレビ局に発見され、2日後には全国ネットで放送される、というスピード感です。今までと同じような広報対応では間に合いません」と桑江氏。
火種はGoogleマップにも
大戸屋HDの事例のように、これまで主流だったTwitterやFacebook以外のプラットフォームで炎上するケースも増えている。既存のツールではカバーできず、大炎上状態になってから発見に至るケースもあるため注意が必要である。桑江氏によると、特に見落としや見過ごしをしてしまいがちなのはGoogleマップやYouTubeの口コミだ。
例えば2019年2月、セブン-イレブンの加盟店オーナーが人手不足を理由に本部に時短営業を求め、対立したことで大きな話題となった件。当該店舗をGoogleマップで見ると評価が2.3と極端に低く、報道の前から多くのクレームが書き込まれていた。
「口コミによると、オーナーに問題があったであろうことが分かります。来店客と揉めることが頻繁にあったほか、店員の入れ替わりも激しかったようです。この情報が広く知られていれば、同社への印象も変わったことでしょう」と桑江氏。その結果、2019年4月にはセブン-イレブン・ジャパンの古屋一樹社長が退任する事態に発展した。
このように、サイレントクレームは思いがけない"隙間"に潜んでいるため、広報担当者が日々の業務のかたわら、リアルタイムで見つけるのは至難の業である。
事例を把握した上で判断を
警察庁のサイバーパトロールも担っているシエンプレでは、その調査力を武器に、炎上の対策・発見から鎮静化までの様々なサービスを提供している。例えば、広報・マーケティング活動におけるリスクを専門家が事前に診断する「クリエイティブリスク診断&インフルエンサーリスク診断」は、炎上のストッパー役となる。
クリエイティブリスク診断は、広告表現が炎上しやすいメッセージとなっていないかなどをチェックする。「炎上の可能性があるから絶対に世に出してはいけない、というわけではない。過去の炎上事例を把握して、広報目的やターゲットとも照らし合わせながら、どこまでが許容範囲なのかを判断していただくことが重要です」と桑江氏。
昨今、問題行為や発言で炎上することの多いインフルエンサーに関しても、事前に過去の発言やネット上の評価などを調査しておく必要がある。
「例えば、ある女性アイドルグループのメンバーが出演したCMの商材が、過去に本人が否定的な発言をしていた飲料カテゴリのものだったために炎上が発生したことがありました。これは、過去のブログなどでの発言をリサーチしていれば予測できたことです」。
広報担当者の腕の見せどころは炎上の火種を迅速に消すための広報対応。桑江氏は「サイレントクレームを察知するところまでは、ぜひ外部に任せてください」と話した。
CHECK
炎上事例の原因を分析する「デジタル・クライシス総合研究所」を設立
シエンプレは2020年1月、本社内にデジタル・クライシス総合研究所を立ち上げた。研究員は同社のコンサルタント、外部顧問は元博報堂PR戦略局シニアコンサルタントの芳賀雅彦氏と元米グーグル副社長兼グーグル日本法人代表取締役の村上憲郎氏が務める。毎月、その月に起きた炎上事例を一つピックアップして分析し、細かな経緯や原因をまとめた事例レポートを発行するほか、毎年その1年の傾向をまとめた白書を発行する。
例えば6月にメディアがこぞって「炎上している」として取り上げたカゴメの「父の日」に合わせて公開されたCM。分析してみると、ネット上の口コミ比率はネガティブが2%でポジティブは56%。一面的な報道だったことが判明した。
事例レポートは、企業名を伏せたものを無料で配布するほか、会員(月額10万円)には企業名入りの詳細版を配信する。会員になればこの白書をもとにした炎上事例勉強会にも出席でき、ケーススタディとして自社のリスク対策に活用できる仕組みだ。「デジタル・クライシス白書2019」は、研究所のウェブサイトで無料公開中(https://dcri-digitalcrisis.com/)。
お問い合わせ
シエンプレ株式会社
東京都中央区京橋2-5-17 SKビル3階
TEL:03-6673-4652
mkt@siemple.co.jp
https://www.siemple.co.jp/
【図1・図2調査概要】 | |
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調査方法 | 「炎上」というキーワードを含むTwitter上の投稿を抽出して目視にて分類(特定の団体や個人に依存しない事象は除外) |
精査方法 | 下記の工程でデータを精査①シエンプレのクローリングシステムでデータを抽出②重複を削除(RTなど)③無関係のデータ(火災情報など)を削除④目視で精査(全3万1432件)⑤同一企業の重複を削除 |
調査期間 | 2019年1月~10月 |
*本調査関連のデータは「デジタル・クライシス白書2019」に掲載 |