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IRの学校

IR担当者の危機管理

大森慎一(Prop Tech plus 監査役)

広子たちはIR担当として、忙しくも刺激的な日々を送っている。「異物混入の疑い」というインシデントに対応したことを契機に、今一度、危機管理とリスクマネジメントについて、考えてみることにした。



広子:こんばんは。ちょっと聞いてくださいよ。

大森:こんばんは。どうしたの?

東堂:広子先輩、消費者から異物混入の疑いという問題が浮上して、製造本部に詰めて対応したらしいのですが、それが大変だったようで・・・・・・。少し荒れているんです。

広子:東堂さん。荒れているのは、別に環境が変わったからでも、激務だったからでもなく。製造本部の対応姿勢が秘密主義というか、隠ぺい体質というか、今時ありえないような対応にあきれ返ったからなんですよ。

大森:結局は何もなかったわけでしょ?

広子:異物混入の疑いは、消費者の方の勘違いだったようです。でも、その結果に至る前の製造本部の調査結果は「原材料受入の際に混入した形跡はほとんどない」とか「製造過程の検査も正常に行われており、ほぼ大丈夫」とか、曖昧な表現でごまかしていて、根拠となるような科学的な裏付けが説明されなかったんですよ。

大森:まあまあ、彼らなりに分かりやすく説明したつもりかもしれないし。

広子:まあ確かに。専門的な数値を出して説明されても、しようがないですけど。

大森:それにしても状況が確定していない前に製造本部へ派遣とは、ずいぶん早い対応だったね。IR業務的には、発生事実の段階では、やれることは少ないだろうに。

広子:なんでも、お客さまからのクレームがあったとき、たまたまコールセンターを視察していた業務管理本部の副社長の耳に入ったらしく、一大事だと騒いで、自分が率先して対応を指示し始めたんです。

大森:おやおや、若干問題があるかもね。

東堂:インシデントが起こったときはリスクマネジメント担当の業務管理部長に情報を集めて、対応の一次仕分けを行うことになっていたんですが。

広子:上司が直接動いちゃったら、仕切り直しはやりづらいですよね。現物が届く前に調査開始してしまって、私たち後方支援組も現場待機という流れでしたけど。

大森:製造本部側も、本社から突然来た怖い人たちに、どう対処していいか、分からなかったんじゃない?

東堂:確かに怖いかも。

広子:東堂・・・・・・。何か言いたいことでも?

平時だからこそ伝わること

大森:まあ、よかったじゃない。予行演習できたと思えば。

東堂:そうですよ。今回の体験も、平時の危機管理につなげましょう。

大森:そうだね、危機管理のフロー自体が守られなかった問題は別として、今回広子さんが「秘密主義だ」って感じた表現方法を、どう改めるとよいのか、説明するチャンスだと思うよ。

危機発生時だと、当事者でもある彼らからすると「分かるように説明してください」という言葉だって、責められているとしか感じられないかもしれないから、平時の今の方が伝わりやすい。

広子:そうですね、それは分かりますが・・・・・・。難しいですね。どう説明すればいいのでしょうか?

大森:そうだね。「その言い方だと分からない」という感覚は、立場が違うと共有しづらいからね。常套手段としては、IRの業務内容を説明することだけど。

広子:それは説明してますけど・・・・・・。

大森:IRの目的はもちろん、もらった情報についてどういう加工をする可能性があって、誰にどのように伝えるのかという業務の流れと、情報の提供者とIR担当部署、社外の関係者の立場の説明も必要かな。

東堂:方法論は分かるのですが、具体的なイメージがわきにくいですね。

大森:う~ん、そうだな。例えば「引受審査の場合に、審査される側の発行体に説明したのは、審査部の役割は上場申請の際に取引所に対して、上場するにふさわしい会社であることを貴社に代わって説明することです」と。

「我々が背景を含めて事実を知らないと、突っ込んだ質問をされたときに説明しきれなくなって困るので、先に我々が角度を変えた方向からの質問もすることになる。いじめているわけではなく、代弁者として精度を上げるためだから、理解してほしい」という感じかな。

広子:なるほど。聞いたことをどう使うか、ね。

東堂:そこの情報をもとに会社の公式コメントを加工して、外部の人に対応するから、先に細かく聞いておきたい、と伝えることですね。

危機発生後の業務は三段階

大森:まあ、そういうことだね。それとこれを機にIRとしての平時の危機管理の業務フローにも注力した方がいいかもね。

広子:業務フローですか。発生段階で何をするか、とかでしょうか。

大森:そうだね、危機の発生からは「火消対応期」「状況確定期」「信頼回復期」と3つに分類して各部署との連携方針、IRの対応方針を固めておく。こういう流れを決めるのも、平時の危機管理だけど、どちらかというと全社ベースの話だね。今回は、IR業務に限ったところでの話。危機状況に至らないようにする回避や危機が発生しても悪影響を最小限にとどめる減災などの工夫や仕組みの準備のことだね。

東堂:なるほど。回避、減災というと、リスクマネジメントというイメージですね …

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