企業におけるTwitter活用のハードルのひとつがネット炎上。口コミと炎上の経済に与える影響とメカニズムを検証している筆者が、炎上の実態と担当者が実践できるリスク対策を解説する。
インターネットの普及は、誰もが自由にオープンな場で情報発信をすることを可能とした。それまではマスメディアや著名人しかそのようなことができなかったことを考えると、革命的な出来事であり、まさに1億総メディア時代が到来したといえる。
このような時代において、消費行動とマーケティングは劇的に変化している。消費者はまず、ソーシャルメディアを使って第三者の口コミを見てから商品を購入・利用することが当たり前となった。さらに、"インスタ映え"という言葉に象徴されるような「発信するための消費」も拡大している。
「攻めのアカウント運営」の前に
筆者がグーグルとともに執り行っているInnovation Nipponプロジェクトでは、ネット上の口コミには年間1兆円以上の消費押し上げ効果があることが実証的に明らかになっている。口コミを含むネットでの情報収集活動全体でいえば、年間8兆円もの効果がある。さらに同プロジェクトでは、インスタ映えのために年間7700億円が新たに消費されていることも分かった。
このような状況を受けて、多くの企業がソーシャルメディアの活用に注目している。その中でもとりわけ発信力が高くて効果的なのが、140字以内(日本語などの場合)の短文投稿サービス、Twitterである。
しかしながら、ソーシャルメディアの活用には常に「ネット炎上」のリスクが伴っている。ネット炎上とは、ある特定の人や企業の行為・発言・書き込みに対して、ネット上で多数の批判や誹謗中傷が行われることを指す。
Twitterの活用と「炎上」は表裏一体である。Twitterはオープンで拡散力が高いため、特にマーケティング効果が高いが、それと同時に炎上リスクも高い。よって多くの企業が、高い効果が期待できるのを分かっているのにもかかわらず、うまく使えていないという現状がある。
そこで本稿では、統計データ分析と事例によってリスクの実態を探るとともに、それを避けて"攻め"のアカウント運営をするための方策も考える。
株価の下落や倒産のリスクも
そもそも炎上は、どれほどの頻度で発生しているのだろうか。ウェブコンサルティング会社ジールコミュニケーションズの発表によると、2017年度のTwitterでの炎上案件は1086件にのぼる。その対象として最も多いのが法人で、250件も発生している。
企業の炎上は、実に様々な影響をもたらしている。例えば、「PCデポ不要契約炎上事件」(2016年8月)。家電量販店のPCデポが、認知症の人と不要な高額のサポート契約を結び、解約しようとした家族に20万円もの解約料を請求したことがTwitterで広まり、大炎上した事件だ。事件の経緯がネットメディアやマスメディアで大々的に取り上げられた結果、同社のイメージダウンにつながっただけでなく、株価が一時18%安と急落した。
慶應義塾大学教授の田中辰雄氏の研究によると、炎上の株価への影響は、平均でマイナス0.7%であった(分析対象は、NAVERまとめで1万PVを超える中規模以上の炎上事例)。さらに大規模な炎上に限ると、5%の下落が見られたという。マイナス0.7%というと大きくなさそうに見えるが、実は、航空機事故や化学爆発による株価の下落幅と同程度の数字である(図1)。
また、蕎麦店のアルバイトが洗浄機に入った写真をTwitterにアップして炎上した事件(2013年7月)では、当該蕎麦店は風評被害に耐え切れず倒産にまで追い込まれた。このように、従業員が不適切な行為をTwitterに投稿した結果、多大な被害がもたらされる事例は近年も後を絶たない。
ちなみに、炎上する投稿は企業の公式アカウントではなく、従業員の個人アカウントから発信されているものが多い。従業員はTwitterを利用することで、いわば「公人」と言ってもいい状態になることに留意する必要がある。
「炎上に言及」は7万人に1人
このように様々な影響を及ぼす炎上であるが、そもそもどれくらいの数のユーザーの声が反映されたものなのであろうか …