広子たちはIR担当として、忙しくも刺激的な日々を送っている。この度、社内の内部監査を受けることになった。予備知識として、「三様監査」の違いを勉強することに。
広子・東堂:こんばんは。
大森:こんばんは。今日は確認したいことがあるとか?
広子:はい。私と東堂で別々の依頼を受けたのですが、どちらも監査に関する内容だったので、IR担当として監査にどう関わるべきか確認したいと思いまして。
大森:なるほど、監査ね。監査といっても、いろいろあるんだけどな。
広子:そうですよね。普段接することがないのに、別々に依頼が来てちょっと戸惑っています。
大森:依頼って、どんな内容なのかな?
東堂:私は、内部監査室からの「IRに関する業務フローを確認したい」という依頼に基づいて、室長から「一連のフローに従って、証憑(しょうひょう)を用意してほしい」というリクエストをいただきました。
広子:内部監査に係ることとは聞いていたけど、“ショウヒョウ”って何?
東堂:取引の証明になる書類とか、集めた資料の信頼性を証明する資料とか、判断の際に決め手となる書類とかだと聞きましたけど。広子さんに相談すれば分かるかなと思っていました。
広子:どんな漢字書くのかもピンときていない私を頼られてもね。
大森:まあまあ。ところで広子さんの方はどんな話なの?
広子:私は、社長からの依頼で、新任の監査役が業務内容を勉強したいというので、いつものオリエンテーションをしてほしいというリクエストなのですが、ついでにIR情報に関する情報管理の状況も教えてほしい、というおまけ付きでした。
大森:なるほど。東堂さんは内部監査の監査対象の部署としての対応を要求されていて、広子さんはIR担当の延長業務に、若干監査対応の内容を含んでいるということかな。
広子:やっぱりそうですよね。いつもの説明だけならいいのですが、少し不安ですね。
大森:広子さんらしくもない。堂々といつものように説明すればいいよ。
広子:だって、監査って聞くと、やれコンプライアンスだって、厳しく問い詰められそうな気もして。
大森:ははは。ルール通りやっていて、不正なことをしていなければ、何も怖がる必要がないけどね。とりあえず、監査の目的やその後の流れ、要対応事項が分かれば、不安も減るんじゃないかな?
広子:そうですね、お願いします。
内部牽制と内部統制とは?
大森:監査には、「監査役監査」「会計監査人監査」「内部監査」の三種類があるんだ。これらは、三様監査(さんようかんさ)と呼ばれ、それぞれが独立しながらも連携して、内部牽制、内部統制の状況を確認し、効率的かつ合理的な会社経営に導く役目を担っている。
東堂:内部牽制と内部統制ってよく聞きますが、違いは何ですか?
大森:まず、内部牽制とは、英語では「internal check」といって、相互にチェックする、ということ。業務を複数で分担するなどして、ミスと不正を阻止する仕組みのことだね。一方、内部統制は「internal control」という。
広子:コントロールですか?コンプライアンス的な要素を想像していましたが。
東堂:ええ。ガバナンス的な要素も。
大森:どちらも関係するよ。野球では、投手が投げたボールが、捕手の構えたミットに収まると、コントロールが良い、というよね。同じように経営者が行う業務や施策が狙った通りの成果に結びつくように、仕組みをつくることが、内部統制のスタートだったんだ。
広子:へえ~。
大森:長い目で成果を残すためには、もちろんコンプライアンスにも留意しなければいけないし、規定やルールをつくってそれ通りに業務を遂行させる統治も必要だね。
広子:なるほど、そのための監査というわけですね。
大森:そうだね。じゃあ三様監査の違いに戻るね。ここもザックリ違いを説明するよ。まず、報告する相手、要するに誰のためか、という点が一番の違いだ。この点は、会計監査人監査と監査役監査は株主や債権者なので同じで、内部監査だけが社長となる。
次に、監査の対象が違うね。会計監査人監査は、事業活動を数値にするための仕組みも監査するけど、基本的には決算や財務諸表が対象だね。監査役監査は取締役の業務執行、内部監査は業務全体が対象さ。
東堂:いろいろ入り繰りがあるのですね。
大森:会計監査人監査は基本的には指摘や評価に留まるけど、監査役監査と内部監査は、社内組織なので指摘や評価よりも、改善や再発防止に重きが置かれる点も違うね …