4年にわたり、ヤマハ発動機で社内広報の改革に携わった筆者。その足取りを総括しながら、現場担当者に役立つヒントをお届けします。
前回までのあらすじ
社内報のリニューアルを任された筆者。まずは若手にもっと読んでもらえるよう、誌面デザインを大きく変更します。あえて骨子となるコンテンツは変えず、ヤマハらしい企画を重視。そしてリニューアルから1年が経過したころ、ヤマハブランドを「自分ごと化」してもらうための企画「ゲンバのチカラ」の制作がスタート。2017年7月号から隔月で連載し、社内から多くの反響が寄せられる人気企画を生み出しました。
1. 仕組みをつくる
連載の第1回で、ある日突然に社内報担当を命じられたことをお話ししました。その瞬間には戸惑いがありましたが、前に進むしかない状況に覚悟を決め、やるなら社員にもっと読まれる良いものをつくりたいと目標を高く掲げました。
しかし、実際に制作実務に携わってみると、毎月来る校了日のプレッシャーは大きく、仕事量の多さだけではなく、社内関係者への細やかな気遣い、また、正確さと質を保つための校正・校閲作業が延々と続くことを体験して「これは本当に大変な仕事だ」と痛感しました。正直に言うと、いつも「もっと楽に仕事がしたい」という気持ちと葛藤しながら進んできました。
ただ、そんな葛藤まで後任に引き継ぐことはできないと思い、数年先に自分が担当を外れても、一定のクオリティを保ちながら、コミュニケーションツールの制作を持続できる、安定した仕組みをつくりたいと考えました。
他社の担当の方々とも話して感じたことですが、社内報の制作を含め社内広報の仕事は、何か専門的な技能や能力を持った人たちが担当する、ちょっと特殊な仕事だと思われている方が多いと思います。でも、それは違います。市場調査や分析、企画や戦略立案などマーケティングのスキルを応用できますし、一方で、未経験者は仕事を通じてマーケティングの基本スキルを身につけることもできます。
個人的には、もしキャリアパスに悩む若手社員がいたら、居ながらにして会社全体のことを知ることができるので、3年間くらい担当するには最適な仕事だと思っています。社内に開かれた、誰にでもできる仕事にする。これが僕の任期中の個人的なゴールでした。
今回は、当社の制作の仕組みをご紹介します。前任者から引き継いだもの、また自分で新しく始めたものなどを一度整理して、年間の制作業務を回していくための仕組みとして後任へ引き継いだ内容です。読者の方々が、それぞれの職場で効率的に良いコンテンツを生み出すための仕組みをつくるヒントになれば幸いです。
2. 毎月の企画会議
当社では、毎月上旬に企画会議を行います。目的は3カ月から半年ほど先行して記事のアイデアを固めることです。会議は基本的にブレストのスタイルで進めます。特に資料は準備せず、オフィシャルサイトから最近の会社の動き、例えば国内外の製品発表リリースを見たり、関連イベントの予定日を確認したり、プロモーション用の動画を観たりします。また、最近の取材先でのこぼれ話をネタに雑談したりします。
特徴としては、毎回メンバーは固定せずに、担当社員に加えて社外の協力者も随時参加できるようにしたことです。これにより、会話や議論が内向きにならないようにしています。社員には面白くても、社外の人にとってはそうではないことがあるので、社員の興味・関心を高め、社外のヤマハ関係者が見たり読んだりしても関心を引きそうなことを考えていきます。その場で気を使うことと言えば、社外の参加者が自由に発言できる雰囲気を保つことです。
そして、アイデアがまとまってきたら、記事として仕立てて何を伝えるか、また何を伝えたいか、つまりメッセージを突き詰め、それを簡潔な言葉で表現します。メッセージが固まれば、担当を決めて企画書の作成を別途進めていきます。
当社の企画書は、仮タイトル、伝えたいメッセージ、記事の骨子、取材相手、掲載予定月、各作業の担当者などを記載するA4サイズのシート1枚です。以前は決まったフォーマットがなく、忙しいと企画書もない状態で制作を進めていましたが、企画書を必ずつくることで制作に関わる関係者との意思疎通がしっかりできるようになり、また、作業の手戻りが減って仕事がスムーズに流れるようになりました。
たまに、例えば連載ものでは省略することもありますが、企画書を整えることは担当者のスキルアップにもつながりますので、特に意識して取り組んでいます。
それから、企画書ができあがったあとは、「これはヤマハらしいか?」という視点でも見直しを行い、常にブランドを意識しています …