近年、国内では短期的なROE偏重主義が問題視されている。IPOを達成した企業は、どのように企業価値を向上していくべきなのか、EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンターの善方正義氏が解説する。
企業が株式を上場すれば、一般投資家から資金調達ができ、さらなる企業成長が期待できるようになる。ただ、同時に、投資者保護の見地から「上場会社としての適格性」も問われるようになる。つまり、タイムリーな情報開示やコンプライアンスの厳守など、パブリックカンパニーとしての社会的責任を負うことになる。この"責任"を果たす企業になるためには、どのような準備をすればよいのだろうか。
社内管理体制の強化は必須
まず上場準備段階では、プライベートカンパニーからパブリックカンパニーに変貌するための意識改革を進めていく。そのために必要なのが、コーポレートガバナンス(企業統治)の仕組みの構築だ。「会社が、株主をはじめ顧客・従業員・地域社会などの立場を踏まえたうえで、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うための仕組み」である。
主要な原則をまとめた「コーポレートガバナンス・コード」(図1)に基づき、社内管理体制を整備したり、情報開示体制を確立したりする必要がある。
1 株主の権利・平等性の確保
2 株主以外のステークホルダーとの適切な協働
3 適切な情報開示と透明性の確保
4 取締役会などの責務
5 株主との対話
EY新日本有限責任監査法人 企業成長サポートセンター副センター長の善方正義氏は、「上場企業にとって、社内管理体制の構築は非常に重要」と話す。事業拡大に合わせて管理体制を強化しなければ、コンプライアンス違反の発生など、成長の足かせとなる恐れがあるからだ。
善方氏によると、IPO企業の中には、形式的に内部統制システムを導入し実質的な運用ができていない状況で、急いで上場してしまうケースも見受けられるという。これは様々な企業不祥事につながりやすく、実際に上場後数年で危機に陥った企業もある。
そうならないためには、上場の2年以上前から「上場準備プロジェクトチーム」を編成し、本格的に内部統制を整備することが必須だ(図2)。「スタートアップ企業はバックヤード人材が手薄になりがちですが、上場準備のステージに合わせて適切な人材を採用するなどして、社内管理体制を整備していくべきです」と善方氏。
SDGsや働き方改革も視野に
善方氏は...