4年にわたり、ヤマハ発動機で社内広報の改革に携わった筆者。その足取りを総括しながら、現場担当者に役立つヒントをお届けします。
前回までのあらすじ
社内報のリニューアルを任された筆者は、はじめの1年間をマイナーチェンジの時期と決めて2016年から本格的な変革を実行していきます。まずは若手にもっと読んでもらえるよう、レイアウトデザインを大きく変更。あえて骨子となるコンテンツは変えず、ヤマハらしい企画を重要視しました。そうして徐々に、20代の社員、そして様々な部門から受け入れられる媒体になっていきます。
1. ブランド研修での気づき
2015年の秋、僕は社内報のリニューアル作業と並行して、社員を対象としたブランド研修の企画運営も兼務していました。ブランド研修は、当社をよく理解している外部の方に講師役を頼み、まずブランドの重要性を客観的に語ってもらいます。その後のグループワークを通じ、受講生にヤマハブランドを「自分ごと化」してもらうことが最大の目的です。
研修は新入社員を対象とした基礎編と、管理職に登用された社員を対象とした上級編の2つに分かれています。社員の受講日程は人事部と協働して所属部署と調整し、毎回50人程度をひとつの単位として、グループ会社勤務になった社員も含めて本社の研修施設に一堂に集め、半日かけて行います。
基礎編は約3カ月の新入社員研修が終わり、各人が部署に配属されて実務に携わり、身辺が落ち着く秋から冬にかけて実施します。新入社員は研修で、まずブランドに関する一般論や会社の歴史などの基礎知識を学びます。そして、「ヤマハらしさ」とは何かについてグループに分かれてディスカッションを行い、ブランドの自分ごと化、つまりブランドを体現する意識を養います。
一方、上級編ではまず各自がこれまでの担当業務でブランドを意識して仕事をした体験を他者と共有するグループワークからスタート。これからマネジメントとして部下の自分ごと化をどう進めていくかについて、ディスカッションを行います。この研修を通して、普段あまり接点のない部門の社員と会話することで、会社やブランドに関する新たな気づきもあり、研修に対する管理職の評価は高いです。
その年の12月に行った上級編のある回は、受講者の半数近くが製造系の監督職でした。僕はグループワークの時間に、ファシリテーターのひとりとして各グループの議論に耳を傾けながら、監督職の受講者数人と少し雑談をしました。そのとき「最近は若い人が少なくて、教えたいことが山ほどあるのに、なかなかできない」とか「リーダーになると仕事が増えるから、なりたくない若手もいて、自分の経験を伝承できない」など、現場の悩みを耳にしました。
普段、現場の様子を直接聞く機会はあまりないので、最近の製造職の若手はどんな働きぶりなのか聞くと、「今の若手は、真面目で非常に吸収が早い」とか「でもせっかく成長してきたと思ったら、突然辞めたりするから難しいよね」など、自分がまったく知らなかったことを教えてくれました。
そのとき、自分はモノづくりの会社の社員なのに、製造の最前線で働く若い社員のことをほとんど知らないことに気づきました。また、社内報に掲載している特集記事の多くは、華やかなイベントや製品開発に関わるストーリーなど画的にも人目を惹く内容に集中していて、製造現場の若い社員が担当する地味な仕事を取り上げた記事はほとんどないことも思い出しました。
そして、「目立たない製造現場で、日々地道に良い製品をつくる努力をしている若い社員の姿にフォーカスして、ヤマハブランドを体現することを伝えるコンテンツをつくれないか」との思いが芽生えました …